軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

糞虫

「困りましたね……」

少女はため息交じりに息を吐いて抜いていた刀を鞘に納める。

場所は木々が覆い茂る所……と言うか現在地がどこだか分からずに途方に暮れていた。

初めて見る東のドラゴンを斬って解剖して撫で回したりして居たら、自分がどちらに向かい歩いているのか分からなくなりそれからずっと木々の間を歩いている。

とりあえずサクッと退治した蛇型のドラゴンは十分に観察したのでもう普通に討伐要件となった。

斬って斬って斬って斬って……久しぶりにほっこりする程斬り倒したのにまだ沸いて来る。

「東はドラゴンが多いと聞いてましたが……まあ村の傍ではお姉様が皆殺しですし」

真っ二つにした蛇型を蹴って少女はトコトコと歩き続ける。だがやはり歩いても歩いても王国らしいというか、王都らしい物は見えてこない。そもそも人家が見えてこない。

「はぁ~。野外の生活には慣れていますが、寂しさから独り言が増えるのが……」

諦めつつ木々の間を歩くと、けもの道が二手に分かれた。

「ここは由緒正しき神様の言う通りに」

懐から棒切れを取り出し、地面に垂直に立てる。

支えていた指を外すと、棒が右へと倒れた。

「こっちですね神様。さあ頑張ってユニバンスと言う国に参りましょう」

元気良く歩き出した少女は知らない。

現在地がユニバンス王国と帝国との国境近くであり、むしろ帝国寄りであるという事実に。

彼女の到着はまだしばらく時間を要する。

「どうしたのノイエ?」

フリフリとアホ毛を揺らす彼女が微かに不満気だ。

まさか僕からのキスを停止したから怒っていますか? 違うんだよノイエ。出来れば今すぐ抱きしめてしたいくらいなんだ。早くこの城下を抜けて外に出てしまえば……そうすれば市民の目など気にせずイチャイチャ出来るのにっ!

「……最近減った」

「ん?」

ポツリと呟いてノイエがこっちを見る。

「ドラゴンが減った」

「それって良いこと?」

危険な存在が減っているのだから良いことのはずだけど、ノイエはフルフルと顔を左右に振る。

「退治して減ってるなら良い。でも違うならダメ」

「どうして?」

「……移動してるのは危ない」

「あっそう言うことね」

彼女の言ってることが理解出来た。

つまりドラゴンが大軍で移動して何かしらの場所を襲っていたら……それはたぶん大きな街とか国とかかもしれない。ドラゴンが人の多い場所を襲う理由、そんなのは食事以外考えられない。

「明日馬鹿兄貴にも話をして……っと」

「?」

言葉を途中で止めて少し考える。

何か今日、そんな話を馬鹿兄貴にされたな。

「ルッテに調べて貰うか。なら報酬はいつも通りケーキのセットだな」

報酬兼祝福による空腹回避にもなる。

「ん? 何?」

少し拗ねた感じでノイエが体を寄せて来る。

ノォォォォオオッ! このまま抱きしめてキスしたいほどの愛らしさがっ!

「ノイエの部下に調べて貰うね。ドラゴンが何処に移動しているか」

「はい」

「分かったらノイエに教えるから、その時はドラゴン退治をお願い」

「はい」

フリフリとアホ毛を揺らしやる気満々のノイエが、僕の頬にキスして体を摺り寄せて来る。

ええい。我慢など出来るか。

ちょいと馬のお腹を軽く蹴って並足から早足程度に急いで貰う。本当は駆けていきたいけどそんなことをして守備兵に捕まったら帰りが増々遅くなる。

慌てず騒がず急いで城門を走り抜けた。

大陸南西部とある国の山中にある集落

「誰か? 親父殿。糞虫?」

「少し待つが良い妹よ? その糞虫とは誰のことだろうか?」

庭の花壇を弄っていたひょろっとした感じの男性が振り向き女性を見る。

「あら居たの糞虫?」

「ふっ……さては照れ隠しだなカエデ」

「何を言っているのかしらこの糞虫は? まあ良い……殺すだけなら夕食後にも出来る。それよりもここ何日かモミジを見ていないのだけれども、どこぞの糞虫が箪笥の下着をクンカクンカしている姿を見て怖くなって逃げだしたのかしら?」

「失礼な妹だな。私とて長兄として可愛い妹たちを見守る責任がある」

胸を張る兄らしき生き物に……女性は続く言葉を待ったが出て来なかった。

「それで?」

仕方なく促すと、待ってましたとばかりに男性は頷く。

「モミジの下着の匂いなど嗅がん。私が嗅ぐのはお前の物だけって待てカエデ。その腰の物を戻せ」

「戻す? 目の前の糞虫を土に還せという神の導きですね。分かりました」

「否、分かって無いだろう? 今のは冗談だ」

「……そうですか」

必死に手を合わせ拝んで来る相手に女性は半ばまで抜いた刀を元に戻す。

「やっていたのはお前がまだ7歳頃ぐらいまでだ」

「やはり死ね。そして土に還れ糞虫がっ!」

「なぜ怒る? お前も6歳の頃いつも言っていただろう? 『カーデ、おにーたんのお嫁さんになる』って、マジかっ!」

女性が抜いた刀が青白く輝き、そして冷たい声音で言葉が紡がれた。

「断罪」

「流石にそれはおにーたんも大ピンチかも知れんな~」

だから彼も腰の物を抜いて妹の攻撃を迎え撃つ。

「断片」

激しい音がして二人の間の空気が悲鳴を上げる。

静まり返ると、ただ刀を抜き合い構え合え男女が何事も無かったかのように立っていた。

「それでモミジは?」

「うむ。来年あの子も成人だ。よって家のしきたりに則り武者修行の旅に出た」

「……何処へ?」

「知らんよ」

ギラッと殺気だった目で女性は相手を睨む。

やれやれと肩を竦めた男性は、何となく思い出した言葉を口にする。

「確か大陸の東にすっごく強い大女の龍殺しが居るとか言って騒いでいたな……それやもしれん」

「そう」

刀をしまいクルッと背を向け歩き出す妹を追って、兄も歩き出した。

向かう先はたぶんゲートだろう。そこで行った場所が分かれば、後は追いかけて連れ戻して来るはずだ。

「本当に妹に甘い姉だな」

長女である彼女が動けば、色々とやっかいなことが生じるのは間違いない。

本当に仕方なさそうに、でも内心ウキウキしながら兄も妹を追い続け足を動かす。

結局彼らは身内に対して甘いらしい。

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