軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……したい?

帰宅したノイエを待っていたのは、彼が自分よりも先に帰って来ているという事実だった。

ちゃんと会話も出来なくなってから、彼はお城に居る時間が長くなった。自分の言葉が悪かったのかと何度も思うが、どうしても怖くて言い出せない。だから最近は早く帰って来て全てを済まして部屋に駆け込んでいたのに……今日に限ってそれが出来ない。

ノイエは困りながらもゆっくりと食事をしてゆっくりと入浴をする。

余り遅くなるとお湯が冷めてしまい、残り湯を使うメイドたちが可哀想だ。その事実を知るノイエは自身の中で葛藤しつつも……後ろ髪引かれる思いでお風呂を出た。

出来るだけゆっくりと歩いて寝室の前に立つ。

必死に考えて浮かんだのは、部屋に入る。ベッドに飛び込む。寝る。その三つだ。

考えを実行に移し、まずドアを開けて部屋に入って迷わずベッドに飛び込む。と、ベッドの上に座っていた彼のお腹に頭突きを食らわせる格好になり……ノイエはベッドに座り込んで泣く羽目になった。

ノイエさん……ノールックで飛び込んで来るのは計算して無かったよ?

彼女の頭突きをもろに受けたお腹を抱えてベッドの上を転がりまくる。

何かヤバい感じの脂汗が出て来るけど、我慢して体を起したら……ベッドの端に座り込んだノイエがボロボロと涙を溢して泣いていた。

泣きたいのはこっちもなんだけど……やっぱりノイエも色々と限界なんだろうな。

『話に聞く限り貴方の奥方様は、きっと素直で優しい人なのでしょうね』

何故か凶悪なメイド長の言葉が頭をよぎった。

変なフラグとかじゃ無いことを神に祈る。この世界に神って居るのかな?

でもそうだ。ノイエは素直で純粋で優しいんだ。だから僕の態度と言うか言葉が許せない。

そう……彼女は超が付くほどの頑固者でもあるんだから。

相手に習って僕も体を起して正座する。

真っ直ぐ彼女を見ていると、涙を拭ったノイエが……どこか怯えた様子を見せる。アホ毛ですらプルプルと震えている。

「ノイエ」

「……」

彼女からの返事は無い。でも良い。僕の覚悟は決まっている。

『言える範囲を告げて、約束すれば良いのです。いつか全てと』

信じるよ? メイド長?

「ごめん」

「……」

泣き止んだはずの彼女の目からまた涙が溢れる。

分かってる。彼女は僕に謝って欲しい訳じゃないんだ。

でもまず謝らないと僕の気が済まない。ただのエゴだけどね。

「ノイエに秘密にしていることがあります」

「……」

涙を溢しながら彼女が僕を見る。ジッと迷いの無い目で。

「でもそれをノイエに言うことが出来ません」

「……どうして?」

「その答えが言えないから、言えないんだよ」

ノイエ自身を人質に取られているだなんて言える訳がない。それを知ったらきっとノイエのことだ……考えただけでも怖いことが起こりそうだから思考するのは止めよう。

でも納得出来ない赤黒い目がジッと僕を見る。

分かっている。頑固者のノイエさんは"その答え"を知りたいんだ。

だから意地を張って、その意地を僕が嫌われたのだと勘違いして……これで実は違いましたな結果だったら、あのメイド長の反撃を食らう覚悟で何かしら仕返しをしてやる。

「だからノイエ」

「……はい」

「約束するね」

「やく、そく?」

小さく首を傾げる彼女がとっても可愛いのです。でも今は色々と我慢。

「うん。今は言えない。でも必ずノイエに言うよ。どうして僕が違う人の名前を呼んだのか……その理由を今は無理でも必ず絶対に」

プルプルと震えていたノイエのアホ毛が柔らかく揺れた。

「本当……に?」

「うん。だから僕はこれからノイエに本当のことを伝えるためにどうすれば良いか一生懸命考えるよ。そうしないとノイエだって嫌でしょう?」

コクッと彼女が小さく頷く。

「だって僕がノイエに言ったんだもんね。『分からないことは言わないと分からない』って。ノイエは僕のこの嘘が、その理由が分からないんだよね?」

コクッと彼女は頷く。

「だから僕はノイエに約束するよ。『言えないこのことを必ず言う』ってね。ちょっと時間がかかるかもしれないけど……待っててくれる?」

「……はい」

「ありがとうノイエ」

手を伸ばしてクシャクシャと彼女の頭を撫でる。

と、両手を伸ばしてノイエが抱き付いて来た。ただちょっと勢いがね……案の定押し倒される訳です。

男としてこれってどうなの?

女の人に押し倒されるって……まあ本気のノイエの突進を止められるのは帝国の大女くらいだけどさ。

スリスリと僕の胸に顔を擦り付けて来る彼女は猫のようだ。

可愛い猫の頭をこれでもかと撫でてやると、そっと僕の体に両腕を置いて顔を覗き込んで来た。

「アルグ様」

「はい」

「約束」

「うん約束」

「……必ず言って」

「うん」

「…………忘れる前に」

「出来るだけ頑張ります。いや本当に頑張ります」

微かに泣きそうな顔をしたノイエってば卑怯じゃない?

本当にうちのお嫁さんは素直で純粋で可愛くて……頑固さんだ。

と、フヨフヨと動いていた彼女のアホ毛が何かに気づいた様子でピンと立った。

「アルグ様」

「はい」

「言うまで、しない」

「何を?」

と、微かに頬を紅くして無表情なノイエがプルプルと震える。

何この可愛い生き物は? 今直ぐ食べてしまいたい。

「しない。言うまで……子供作るの」

「……」

伸ばし掛けた手を緊急停止。

つまりグローディアにはノイエを人質に取られ、そしてノイエにはノイエ自身を人質にされた。

君ってばどれだけ自分を人質にして僕を脅迫するんですか? だが心底惚れている僕は全面降伏しかないんだよ?

「……分かった」

苦渋の決断と言う奴だ。この苦味を決して忘れんぞ! ノイエっ!

我慢に身を震わせる僕に首を傾げたノイエが不思議そうな目を向けて来る。

「アルグ様」

「ふぁいっ!」

「……したい?」

ブンブンと顔を縦に振った僕は決して間違えて居ないはずだ。

と、ノイエが顔を真っ赤にさせて……ポフッと僕にその体を預けて来た。

「今日だけ。でも明日からはっ」

ノイエの言葉を遮って彼女を全力で抱き締めた。

よっしゃ~っ! 明日からのことは明日考えるさっ! 今は今を一生懸命にっ! 燃えカスになるまで頑張ってやる~っ!

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