軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の言葉

『どうして世の男性とは揃いも揃って馬鹿ばかりなのでしょうか? 誠心誠意心を込めて謝ればその気持ちが通じる? 相手を傷つけたくないから嘘を吐く? 女性を軽んじているからそのような寝言を言うのです。

良いですかアルグスタ様。貴方の御父上であるウイルモット国王様は、ことあるごとに王妃様を悲しませては、わたくしの指示を受けた王妃様にその尻を鞭打たれる愚か者にございます。ですがおかしなことに周りから、あの害虫……国王様は切れ者として名高い。そのような人物が何故、王妃様に尻打たれることになるかお判りでしょうか? 判りませんか? 理由は簡単にございます。男性は嘘を吐く時に必死に努力するのです。気づかれないように必死に必死に……その必死さを女性は感じ取ります。世の女性は感情の生き物です。男性よりも勘は良いのです。

つまり貴方の奥方であるノイエ様も内心気付いているのですよ。貴方が謝る振りをして必死に『嘘』を吐いていると。現に貴方は嘘を吐いています。たぶんそれはわたくしのようなメイドごときに話せないほどの物でしょう。

ええ。でもそこをちょっと話してみたら楽になるかもしれませんよ? 無理? ……残念ですね。いいえ。決して楽しんではおりません。解決するには全てを知り得ないと難しいのであって、好奇心に突き動かされて秘密を暴きたくなったとかではありません。決して違います。たぶん。

……話を戻しますと、つまりは貴方は真実を語れない。それは事実でしょう。ですがそれを嘘で包み貴方は奥方様に「話せない。ごめん」としか言わない。真実であって真実でない言葉を聞かされて不安に思わない者はおりません。それも相手を心の底から愛しているのならなおのことです。ですから王妃様は泣きながら国王様の尻を打ち続け、その責め苦を受けた国王様も共に泣いて罰を甘受し、それを見るわたくしは大満足なのです。

えっ? 「国王様が喜んで受け入れていたのでは無いのか?」ですって?

……そんなことは決して御座いません。もし仮にそれが事実だと言うのなら、今後鞭などで打つことをさせません。させませんが……どうすれば良いのでしょうね? あの屑王……国王様は王妃様のお願いを歪曲して受け入れているので厄介なのです。

はい? どんな約束か、ですか?

いえ……子供を産めなくなった王妃様の元に、身寄りのない子供を送ると言う約束にございます。王妃様の住まう場所が"孤児院"と呼ばれる由縁です。

ですが、あのカス王……種馬様は、メイドに手を出しては自身の子をあの場所へと連れて来るのです。確かに自身が子を成せない王妃様からすれば、愛しい人の子を抱ける喜びもひとしおです。ですが、人として……夫としてどう思いますか? 屑にございましょう? ですからわたくしめが王妃様に「甘やかしてはいけません」と鞭を持たせ尻を叩かせ続けているのでございます。

ああ問題は鞭の代用品でしたね。違う? 気のせいにございます。

何より代用品を調達しなければわたくしの楽しみが……えっ? 蝋燭? 正気でございますかアルグスタ様? それは何と……実に素晴らしい。次回から早速試してみることにします。

えっ? 王妃様が嫌がらないかですか?

あのお方はとても優しくて寛容で世間知らずですので、「どこの夫婦でもやっていることです」と言えば泣きそうな顔をして実行するのですよ。あの時の王妃様のお顔と言ったら……わたくしの中の何かが目覚めてしまいそうなほど興奮してしまうのです。

ところで何のお話をしていたのでしたか?

ああそうでしたね。そんな糞くだらない悩みでしたのでつい話が逸れてしまいました。

ええ。くだらないですとも本当に』

長々とした会話を終え、自称敏腕メイド長が恭しく 首(こうべ) を垂れる。

「そのような簡単なお悩みでしたらこのスィークが魔法の言葉を授けましょう」

悪魔との契約にも思える甘い誘惑に思えるけど、相手の請求は分かっている。

「聞きたいけど……王妃様に会うのが交換条件とかならお断りだよ?」

「そんな出過ぎた真似はしません」

薄い笑みをその顔に張り付けてメイド長がふわりと一礼して来た。

「わたくしは王妃様にお仕えするただのメイドにございます。そしてその王妃様よりただ一言命じられています」

「何て?」

「はい。『キャミリーの遊び相手を元気にしてあげて。あの子の相手をするのは疲れるから』と」

全てをぶん投げて王妃様の所に殴り込みに行きたくなった。

「ですのでご心配なく。そしてさっさとそんなくだらない喧嘩は犬にでも食わせて、あの無駄に馬鹿で元気な姫様のお相手をして頂ければと思います」

「本音が垂れ流し過ぎやしませんか?」

「はい。わたくしは裏表が無いことで有名ですので。包み隠さず全面開放にございます」

形の良さそうな胸を張ってメイド長が威張る。

「あっそ。……ならもう良いや。何か疲れたから聞かせてよ。その魔法の言葉」

「はい。では……」

王都内シュニット邸

「スィーク」

「はい王妃様」

「……いくら何でも蝋燭は過激すぎませんか? 彼が怪我をしてしまいます」

少し泣きだしそうなその言葉に、メイド長は背筋をゾクゾクさせながら答える。

「大丈夫です王妃様。見た目は酷く見えますが、あくまで見た目だけです。実際は鞭で叩くより優しいと言われています」

「そうなの?」

「はい」

「……貴女の言葉ですし間違いは無いのでしょうね」

布で四方を囲まれた場所。その外で恭しくメイド長は頭を下げる。

「それでアルグスタはどうでした?」

「はい。奥方との喧嘩を終える手助けをしました」

「本当に? ならもう平気ね」

姿隠しの中で王妃が喜んでいる様子が影越しで伺える。

実子ではなくとも王妃はアルグスタとノイエの喧嘩を知り心を痛めていたのだ。

普段は羨ましく思えるほど仲睦まじい話しか聞かないだけに特に。

「ねえスィーク」

「はい」

「一度会ってみたいわ……あの2人に」

初めて主がその言葉を自分に対して口にした。

スッと一礼し、メイド長はゆっくりと口を開く。

「でしたらご命じ下さい王妃様。必ずやお2人をこの場にお連れしましょう」

「本当に? シュニットもハーフレンも断るのに?」

息子の言葉を疑わない王妃は、『アルグスタは多忙で』と言う言葉を信じている。

どんなに詭弁であっても……心優しい王妃は信じてしまうのだ。

「はい。わたくしの役目は王妃様の『お願い』を叶えることですから」

「なら、お願いね」

ポンと胸の前で嬉しそうに手を打つ王妃の姿とその言葉を聞き、メイド長は深く一礼した。

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