軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

毒は持って来ているな?

ユニバンス王国・王都東門

「ん~。旅は悪くないです~。でも馬車は嫌いです~」

「そうは言ってもこの馬車は王家所有の最上級品だぞ」

「高かろうが何だろうがこの振動は嫌いです~」

「ふむ」

不満げに座席の上で暴れる王妃に国王は優し気な目を向ける。

その様子は子供の駄々を見つめる親の様子にしか見えない。

「確かアルグスタが所有する馬車は揺れが少ないとスィークが言っていたな」

「……本当です~?」

ムクッと王妃キャミリーは上半身を起こした。

「ああ。その代わり笑えないほどの金額になったとも聞いたが」

「でも揺れないのなら一見の価値ありです~。今度見るです~」

「そうか」

柔らかく頷き……国王シュニットは馬車の外へと視線を向けた。

報告は届いている。

あの弟は自分を餌にして暗殺者たちを呼び寄せて一網打尽にしたらしい。

したらしいと言うのは、暗殺者の顔が誰一人として確認できなかったのだ。下半身だけが残る女性の死体。バラバラにされた男性の死体。少女らしい右腕だけの物。頭部だけが持ち去られた老女の死体。

後始末を受け持った近衛は老女の頭部を持ち去ったのがどうやらハルムント家の前当主だと王弟に報告を上げ、王弟ハーフレンはハルムント家に対し質問状を送り付けたのだが……『散歩の途中でわたくしの道を塞ぐ愚か者たちが居たから薙ぎ払っただけです。文句があるならば今後は王城を突き抜けるように散歩をし、わたくしの言葉が嘘ではない証拠としましょう』という脅迫状が戻って来た。

結局ハーフレンはそれを兄である国王シュニットに丸投げし、シュニットは深いため息を吐いて頭部の捜索を打ち切る指示を出した。

王家の者や王族を狙った暗殺者の頭部を晒しものにするのは、古い時代からの慣例でしかない。

現在の……特に攻撃に特化しているドラグナイト家を襲った場合、今回のように頭部が存在しない死体が多く発生しかねない。ならば無理に頭部を晒す必要などない。

『おにーちゃんが暗殺者を返り討ちにしたっていう事実だけを貴族の人たちに噂として流せば良いんです~』

笑ってそう言う王妃の助言もあり、シュニットはそうするように王都に居る王弟に指示を出した。

ただ暗殺者を返り討ちにした問題児であるアルグスタがこのまま黙ってなどいない。東部の有力貴族たちの協力を取り付けたシュニットは、迷うことなく王都へ戻ることとしたのだ。

「結局シュニット様は働いてばかりです~」

「そうだな」

座席の背もたれに背を預け、国王は苦笑した。

「どうも私は休むことが苦手らしい」

「ダメです~。無理ばかりしていたら体を壊すです~」

「そうだな」

ただ王都を離れている間は感じていた胃の痛みを忘れることが出来た。それで十分だ。

「まあ私が倒れてもお前がどうにかするだろう?」

「しないです~」

座席に横になり足をブラブラとさせながら王妃は笑う。

「私が手を貸すのはシュニット様だからです~。他の人なら……楽しませてくれるアルグスタおにーちゃん以外は勝手に頑張れです~」

「そうか。なら次の国王はアルグスタとするか」

「それだとこの国は1年で消滅するです~」

「そうか?」

「です~。おにーちゃんはきっと国王の椅子を投げ捨ててノイエおねーちゃんと一緒に逃げ出すです~」

間違いないとばかりにキャミリーは断言した。

国王からの反論は無い。彼もまたそうなると理解したのだろう。

「国を簡単に投げ捨てられるのは困るのだがな」

「です~。だからもしシュニット様が王位を譲るなら大きいおにーちゃんにするです~」

「その理由は?」

「大きいおにーちゃんはこの国を愛しているです~。だから投げ捨てたりはしないです~」

「だがお前を失えば国の運営に困るぞ?」

「それは勝手に頑張れです~」

あっさりと国営を投げ捨てた王妃はアルグスタと同種の人間なのだとシュニットは再確認した。

ユニバンス王国・王都貴族区内ブルーグ家屋敷

「老骨に馬車の旅はこたえるな」

「メイドを呼んで揉ませますか?」

「後で良い」

部下の言葉にソファーに座ったバッセンは、深く息を吐いた。

会話を続けようとしたが、老いた体に長旅は辛い。

無理はしないように2泊3日の時間をかけて王都に来た。前回来たのは前王から新王へと王位が継承された時だ。それ以外は極力王都には来ていなかった。

「王都駐在の者をここに」

「はい」

バッセンの声に部下が1人の男を連れて来る。

能力的に優れてはいないが、とにかく小心者で無理はしない。犯罪に手を出すような度胸も無い。自ら率先して行動はせず、上からの指示に忠実なので使い勝手は良い。

そんな男は顔色を蒼くしてバッセンの前にやって来た。

「久しいな」

「……はい」

震える男は主人に目を向けない。

その様子にバッセンは何かが起きたのだと察した。

「何があった?」

「……お悔やみ申し上げます」

質問を質問で返されバッセンは眉間に皺を寄せる。

主人の不機嫌そうな様子に男は慌てた。

「知らないのですか?」

「何がだ?」

「……ブルグレンにて」

男の言葉に流石のバッセンも言葉を失った。

自分の息子たちは全て殺され、その子にまで暗殺者の手が伸びたのだ。

残っているのは誰もが幼い者ばかりだ。3歳にも満たない者しか残っていない。

「全員殺されたのか?」

「はい」

「いつだ……いつの話だ!」

ソファーから立ち上がりバッセンは男に詰め寄る。

襟首を掴んで激しく相手を揺さぶる主人を長年仕える部下が制した。

男が言うには、バッセンたちが王都に向かった日の夜にそれ起きたらしい。

翌朝には全ての凶行が判明し、急ぎバッセンと王都に向け使いの者が走った。

「王都には先日の夜に」

「……」

あり得ない。

西からの街道を進んできた自分たちに追いついた使者も追い抜いた使者も居ない。

《……そう言うことか》

バッセンは理解した。

自分たちを追い抜いたブルーグ家の使者は居ない。ただ他の者は?

老体であるバッセンを気遣い馬車の進行速度は遅かった。故に自分たちを追い抜く隊商などは居た。その隊商が本当に隊商などであったかなど知らない。

もしその者たちが近衛の手の者であったのならば……。

《王家が動いたということか》

そう考えれば全てが納得できる。

街から送られた使者は全て狩り取られたのだろう。そして手紙を奪い王都へと輸送したのだ。

理由は事後報告で事実を知ることによる心的な衝撃だろう。

精神を、気持ちを、心を折りに来たのだ。絶望という武器を手に。

《……これぐらいで私の心が折れると思っていたのか》

奥歯を噛んでバッセンは耐えた。

息子たちを喪ったのは確かに痛いが、まだ終わりではない。

自分がもう10年生きて孫やひ孫たちを一人前に育てれば良いのだ。実に簡単なことだ。

「それとバッセン様」

「何だ」

王家への復讐に燃えるバッセンに怯える男は声をかけた。

「実は現在王都ではドラグナイト様が自身に向けられた暗殺者を迎え撃ったという話が広まっていまして」

「……」

喉の奥で唸ったバッセンだが、その声は飲み込んだ。

ここまで動かなかったのにどうして今更……ともバッセンは思ったが、それでも耐える。

可能性は考慮していた。問題は無い。

「それで」

「まだあるのか! 全てを申せ!」

「はいっ」

主人の怒声に男は悲鳴を上げた。

「暗殺者を差し向けたのはブルーグ家であり、ドラグナイト家はブルーグ家に対して絶縁状を送りつけることを決めたと」

「……」

「そしてこうも言っています。『自分がしたことをされる恐怖を知ると良い。僕は容赦しない。動員できる全ての戦力を使って叩き潰す』と」

流石のバッセンも力尽きたようにソファーへと腰を落とした。ゆっくりと頭を抱える。

つまり現在ブルグレンに続けられているあの行為が継続するのだ。それに下手をすればあれが持つ戦力が牙を抜いて……。

「話は分かった。もう出て行け」

「はい」

男は逃げるように部屋を出て行く。

しばらく考え込んだバッセンは、ゆっくりと顔を上げて部下を見た。

長く自分に仕えている忠実な部下だ。最も頼りにしている。

「毒は持って来ているな?」

あの化け物が作り出した毒は最強だ。

人間であれば絶対に通じる毒だ。これを受けて死なないのは人ではない。

そう人であれば必ず死ぬのだ。

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