軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カチンと来たかも

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「あひっ……ひひっ……」

全身をビクビクさせながらミジュリがベッドの上で伸びている。

有言実行な僕は迷うことなく羽根ペンを駆使した。

もう全力でくすぐりまくった。途中から足だけでなく全身隈なくに移行したのは、ミジュリが『これぐらいで私が屈すると思うな!』と男前のことを言ったので、その言葉が事実か確認したまでだ。

結果としては『羽根は偉大なり』となった。そういうことにしておこう。

「勝っても空しさばかり残る戦いであった」

遠くを見つめて邂逅を終える。

「で、ミジュリさんや」

「……」

まだ全身を震わせて会話できそうにありません。

「ファナッテは良い子なんだけど会話が成立しなくてね……代わりに聞きたいんだけど、ブルーグ家と喧嘩して勝つ方法ってある?」

ビクビクしていた彼女がビクッと大きく震えた。

「……どうしてそれを私に聞く?」

「直感?」

ノイエのおかしなフリーズなどから想像するに、ウチのお嫁さんがファナッテたちを呼び寄せたと考えるのが正しいと思う。

で、そのファナッテを道具扱いするメイドが無関係ってことは考えられない。と言うか貴女が先ほど口走っていましたよね? 潰すって。

何よりファナッテはブルーグ家のことを知っていたしね。

諸々のことから考察するに、このミジュリはブルーグ家を良く知っているはずだ。

大半が勘であるが、僕の理論は完璧だ。

「どうにかしてブルーグ家にこれでもかと地獄を見せたい」

「なら皆殺しね」

「それって一度の苦痛で終わりでしょう?」

「……」

どうもこの人たちは殺すことばかり考えて困る。

「生きながらにして地獄を延々と味わう方が苦痛だと思うんだけど」

「それは……悪くないわね」

ミジュリが頷いて寄こした。

うむ。で、このまま皆殺しから思考を遠ざけよう。

この人たちは毒の魔法を扱うので暴走すると厄介だ。街の人たちまで皆殺しにしそうだしね。

「何か良い方法はない?」

「……現状は?」

「分かっているのはこの王都に祝福を使う暗殺者が3人程度送り込まれていることかな」

「そう」

薄く笑ってミジュリが一度目を閉じた。

しばらく沈黙すると彼女は目を開いて僕を見る。

「協力はして貰えるの?」

「出来る範囲であれば」

「なら1つだけ良い方法がある」

「ほほう」

「実行しても?」

「ん~。どんな感じ?」

一応プランを聞いておかないとね。

「人がたくさん死ぬとかだと色々と揉めるからさ」

「平気よ。問題無い」

「本当に?」

「ええ」

頷くミジュリには何かしらの考えがあるのだろう。

「何が必要?」

「……ノイエの協力」

「なら問題無し。ノイエは本当に怒っているから」

「この子が? それは頼もしいわね」

シーツに包まった状態でミジュリは起き上がろうとする。

「……手を貸してくれないの?」

「ん~。現時点で君はまだ信用できない。そっちもでしょ?」

「ええ。否定しないわ」

これはあくまで一時的協力関係でしかない。

何よりファナッテを道具扱いし、あそこまで怖がらせるこのミジュリの言葉は信じられない。

「一時的な協力関係ってことで」

「そうね」

ミジュリはこっちの提案に応じる。

「ただそっちが故意に私の復讐の邪魔をしたら……」

「したら?」

「ファナッテを苦しめる」

「……」

僕の様子を見つめミジュリが笑う。

「貴方はどうもあの化け物が可愛い女の子にでも見えるみたいね? 毒しか作り出せないあんな欠陥人間を……私に言わせれば狂気の沙汰よ」

「そうかもね」

確かにファナッテは色々と欠陥を抱えているように見えるけど、ただ1つだけ言えることがある。

「どこかのなんちゃってメイドよりかは可愛いし素直で良い子だとは思うよ」

「……」

僕の言葉に彼女が睨みつけて来た。

「あんな化け物が可愛いなんて目が腐っているのね」

「ん~。でも相手の本質って目で見る物じゃないしね。話して感じ取る物だと僕は思います」

「そんなのただの理想よ」

はっきりと言い捨てられた。

まあ現実を見ていない理想と言われるとそれまでかな。否定は出来ない。

「それでも僕は自分で触れて話して感じて……だからノイエを愛することが出来た。愛して止まない相手になった。そのノイエが『家族』と呼んで大切にしている魔眼の中の人たちだよ。その人たちを僕だって極力信じたい。信じられないのはノイエを裏切るみたいで嫌だからね」

「……寝言を」

「そうだね。僕はずっと寝てて良い夢を見ているのかもね」

笑って見せる。それなら僕は余程幸せな夢を見ているのだろうから文句はない。

「……私はずっと悪夢ばかりを見て来た」

「どうしてさ?」

顔をベッドのマットレスに押し付けミジュリが呟く。

その後頭部に目を向け僕は何となく相手に言葉の続きを促してみた。

沈黙はしないと……本当にそんな気がしたからだ。

「私は普通の魔法使いだった。天才とか呼ばれる存在じゃなかった。普通で毎日勉強して……努力した分だけいつか必ず認められると信じていた」

間違ってはいない。努力しても不幸になるのは環境が悪いだけだ。

僕は努力した分だけ報われる世界になって欲しいと思っている。

「最初は泥水を飲み水に変える魔法を覚えた。私にはそれがあっていて……勉強を続けたら色々と変えられるようになった。そしてその魔法をブルーグ家が高く評価して誘われた」

「そこで?」

「ええ。同じ年齢のあれの世話を押し付けられた。断ったのに半ば無理矢理脅迫されて……逃げ道なんてなかった。だから引き受けるしかなかった。

そこで私は気づいた。ブルーグ家の人たちは何一つ分かっていなかった。私だって魔法を使わなければあれの毒に侵される。寝て起きる度に胸が、肺が焼かれて血を吐くことを想像できる? 私は起きている間ずっと魔法を使い、寝る間も減らして耐えるしかなかった」

グリグリとミジュリがマットレスに顔を押し付ける。

何かを誤魔化すような……とはいえベッドカバーが濡れる様子で何が起きているのかくらいは僕だって分かる。

「毎日が生き地獄だった。必死に耐えて耐えて耐えて耐えて……それなのにあれはいつも無邪気に苦しめ続ける私に笑顔を向けて来る。何かあれば『褒めて』とばかりに笑顔を向けて来る。もう本当に苦しかった。殺したかった。殺そうと何度も思った」

淡々と響く声はミジュリの本心だろう。嘘には聞こえない。

「だから決めた。私は復讐すると……私を苦しめる存在に復讐すると」

「それがファナッテとブルーグ家?」

「ええそうよ。何か文句あるかしら?」

自分は悪くないと……確かに話を聞く限りミジュリに問題は無いはずだ。

あるとしたら問題では無くて運が無かったという一部分だろう。

「ねえミジュリ」

「何かしら?」

「ブルーグ家への復讐を手伝うし手伝って欲しい」

「それで?」

「ただファナッテへの復讐は止めて欲しい」

「嫌よ」

はっきりと告げて彼女は顔を上げる。

その目は本当に深い深い闇をたたえているように見えた。

「あれが生きている限り私は生きた心地がしない。あれを道具としてブルーグ家の復讐に使う」

「それをされると色々と困るんだけどね」

「どうしてよ? 今日会ったばかりの貴方がファナッテを失って何を困るというの?」

「ノイエが泣く」

「……」

それは計算外だったのかミジュリが沈黙した。

「何よりファナッテはノイエの魔眼の中に居る。先生に融かされても生き返る環境下でしょう? どうやって復讐するのよ?」

「決まっている。ブルーグ家の復讐を終えたら次はあれよ。私の魔法であれを毒殺し続ける。生きるのが嫌になってもそれを続ける。続けて続けて心を殺す」

「……何か言ってるミジュリの心が死んでるように思えるけどね」

「煩い黙れ」

再び彼女が睨みつけて来た。

「お前もあの魔女みたいな綺麗ごとを言う」

「先生は根が真面目で優しい人だからね」

ファナッテが虐められていると知ればミジュリに警告ぐらいはするはずだ。

ああ。そう言えばミジュリは先生の融かすリストの1人だったな。だからか? 説得を諦めて融かすようにしたのか?

ただ何故かミジュリが笑いだした。

「根が真面目で優しい? 私たちを殺して回るあれが?」

「先生は大の悪事に対してなら、自分が悪く言われるようになっても迷わず行動するからね」

それがアイルローゼの良い所であり悪い所でもある。

「私に言わせれば馬鹿の極みよね」

「そうかな?」

「そうよ。だから裏切られて殺される」

「はい?」

そう言えば猫が先生が死んだとか言ってたような?

クツクツとミジュリが笑いだす。

「庇ったファナッテに裏切られてあれなら死んだわ。だからしばらく生き返らない」

「……」

「馬鹿なのよ。ファナッテは私の命令に絶対従う。服従している。だから命じただけで自分を庇っていた魔女を殺した。ファナッテは所詮その程度の女よ」

「……そうか」

ちょっとだけカチンと来たかも。

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