軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自分の発言に責任を持つ男だ

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん……」

「待て~! 慌てるな~!」

「お兄ちゃん。んっ。お兄ちゃん。んっ。お兄ちゃん。んっ……」

「落ち着け~。呼ぶのかキスするのかどっちか1つを選びなさ~い!」

「んっんっんっんっんっんっ」

「キス一択かいっ!」

頬や首にこれでもかとファナッテがキスして来る。

ダメだ。相手の絡みついて来る腕や足から逃れられない。

何なのこの子? 前世は蛇か何かでした? 離れないし剥がせないし!

必死に抵抗する度にグイグイと密着具合が増す気がする。

「お兄ちゃん」

「……はい?」

突然動きを止めたファナッテが、キョトンとした不思議そうな顔で見つめて来る。

「お腹に硬い、」

「皆まで言うな」

それは仕方がないのだ。ここまで異性に抱き着かれ甘えられれば世の男性の大半がこうなるのだ。仕方ないのです。生理的なあれがこれした事故なんです。

「これ、なに?」

「はい?」

ただファナッテの言葉が僕の斜め上を行った。

「この硬いのなに? 私、知らない」

「えっと……」

「なに? 病気? 怪我? ダメ。お兄ちゃんに何かあったら私」

「落ち着け~!」

僕の直感が語り掛ける。絶対にファナッテを精神的に追い詰めるなと。

「生理的なヤツだから。世の男性は女性に抱き着かれるとこうなるから」

「……本当?」

「本当です。だから少し離れてくれるかな?」

「うん。ヤダ」

「離れろ~!」

納得したらしいファナッテは結局離れてくれない。大ピンチだ。

「ファナッテ」

「なに? お兄ちゃん」

「ちょっと相談が」

「うん」

だから密着が……何処に足を引っ掻けていますか? そこを足で挟んじゃらめ~!

「実はブルーグ家とやらに喧嘩を売られたから買おうと思っています」

「うん。手伝う」

即答だな。内容をちゃんと聞け。

「問題は敵が分からないことです」

「なら皆殺しにするの? 嫌だけどお兄ちゃんがそう言うなら」

「落ち着き給え。お願いだから」

ヤバいよこの子。選択肢を間違えると皆殺しルートに突入するよ。

ファシーと違って純粋だから……どっちもどっちで厄介ではあるな。うん。

「今回街には手を出さない方向に決めました」

「なら一族皆殺しだね。集めてくれたらするよ。嫌だけどお兄ちゃんが望むなら」

「望んでないから。本当に落ち着こうか?」

僕が喜ぶならどんな嫌な事でもやる気満々だよ。少しは自分を大切にしようよ。

「それで問題は……」

「お兄ちゃん?」

僕の顔を覗き込んできたファナッテが頬にキスして来る。

それは良い。問題は何をもって終わりにするかだよな。

ブルーグ家とやらは僕に喧嘩を売って来た。と言うか僕の家族や部下を標的にした。十分に万死に値する愚かな行為だ。情け容赦なく全力で潰してやろう。

潰すのは決定事項として、問題は街を残してブルーグ家を潰す方法だ。

「困ったぞ? 意外と難問だ」

「大丈夫。お兄ちゃんが望むなら……私、何でもするから」

「なら少し離れて」

「うん。ヤダ」

グリグリと全身を押し付けて来て甘えて来る。

何でもしてくれません。何なのこの子~!

「そもそも今回の勝利条件って何さ?」

「お兄ちゃんが勝つこと」

あながち間違ってない。

「何をしたら勝ち?」

「皆殺し」

「それはひと先ず退けようか?」

ファナッテさんの思考がとても短絡的で恐ろしいのです。

皆殺しって……それをすると流石に問題ありだよね?

「そっか。僕が殺さなければ良いんだ」

「うん。なら嫌だけど私がするね。お兄ちゃんが喜んでくれるなら」

「一回本気で落ち着こうか? 深呼吸して」

「スーハー」

「どう?」

「お兄ちゃんの匂いで胸いっぱい」

もうダメだ。会話が成立しているようで成立しない。

「どうしようかね」

ブルーグ家とファナッテをどうするべきなのか?

悩む僕をそのままに存分に甘えて来るファナッテが小さく声を上げた。

『あっ』と本当に小さな声だったが、その声を発した彼女は僕から離れて震えだす。

ガタガタと尋常じゃない震えっぷりだ。

「違う。違うの。ちゃんとするから」

「ファナッテ?」

「戻るから。戻ります。だから止めてっ!」

「ファナッテっ!」

怯えて震える彼女が最後に僕を見た。

その口が微かに『助けて』と言っていたようにも見えたが、違うかもしれない。

色が抜け、ファナッテが消えてノイエに戻る。するとノイエは辺りを見渡した。

「違う」

「はい?」

「むぅ」

頬を膨らませてノイエが拗ねた。

もう本格的に意味が分かりません。

「ノイエさん」

「なに?」

「今回僕らの勝ちの条件って何でしょう?」

「……」

クルンとアホ毛を回したノイエが沈黙する。

難しい質問だったから返事は期待していなかったけどね。

と、またノイエの色が変わりだした。

今度は水色だ。髪が綺麗な水色に染まり、瞳の色も同じ色に……って誰?

「……貴方がノイエの?」

「はい」

問われたので一応頷いておく。

ベッドの上で座り膝を抱えていた状態の彼女は、ゆっくりと抱いていた足を放して……一気にその顔を真っ赤にしてシーツを抱き寄せた。

「なんて格好を!」

「えっ?」

「ほとんど裸じゃないのよ!」

言われてみると今夜のノイエは薄々のネグリジェです。下着は穿いていてもブラはしていない。

「そりゃ……ノイエは僕のお嫁さんですから。することはちゃんとしてますしね」

「することはって……」

増々顔を赤くして彼女は若干後ろへ仰け反った。

「この変態!」

「人聞きの悪い。それを着て僕を誘惑しているのはノイエです」

「嘘言いなさい! あの子がこんな服を着る訳が」

「着てます。ほぼ毎晩」

「嘘よ!」

「事実です。何なら魔眼の中に居る姉たちに確認しなさい。たぶん全員が事実だと認めることでしょう」

「嘘よ!」

シーツを被って頭を抱え、彼女は白い塊となってしまった。

仕方がない。こんなこともあるさ。

「で、貴女は誰ですか?」

ファナッテとは違い会話は成立する。

何より自分の格好を恥ずかしいと思える常識はあるらしい。

「……ミジュリよ」

もしかして?

「浄化の?」

「そう呼ばれていることもあるらしいわね」

厳密に言うとそうとしか呼ばれていません。

「で、ファナッテのメイドさんだっけ?」

「っ!」

何故かその言葉に彼女は激高して僕に殴りかかって来た。

ただ甘える猫のパンチの様に力が入っていない。構って構ってとアフレコを入れたくなる。

「何で? どうしてよ!」

「あ~。最近そうでもないから忘れてた。ノイエの体を使っての僕への攻撃って無効になるらしいよ」

ただ条件があるのか、時折それを掻い潜って攻撃が入ることもありますが。

わざわざ相手に教えることでも無いのでこの部分は黙っておこう。

「攻撃が? なら魔法ならっ!」

「それもたぶんダメかと」

今に思うとファナッテに触れられたのとかってこれのおかげか?

「毒にならない。どうして?」

「そう言う仕様なので諦めてください」

「くっ!」

おお。まさかノイエの口から『くっ』を聞ける日が来ようとは。

後は『殺せ』と言わせたら僕の勝ちですかね?

どうやら僕への攻撃が通用しないと理解した相手が逃げ出そうとする。

が、許しません。捕まえて拘束です。

良い感じにシーツがあるからこれで全身を覆ってラッピングです。リボンは無いけど。

「放せ! 卑怯だぞ!」

「ふふり。こんな時間にそんな姿で男性の前にやって来た君が悪いのだよ」

「放せっ!」

何かを察してミジュリの抵抗が激しくなった。

ダメか。『くっ……殺せ』は流石に言わないか。まあ良いや。

「で、何で君は外に出て来たの?」

ベッドの上にミジュリを転がし僕もその傍に座る。

彼女は僕から顔を背けて沈黙するので、全力で脇の下やらをコチョコチョしたら話してくれた。

「……ファナッテはこれから必要な道具なのよ。それを壊されたら」

「お仕置きです」

「やめっ! そこはダメっ!」

脇腹を全力でワサワサしてあげた。

「ファナッテは人です。女の子です。それを道具扱いするのは許しません」

「煩い! あれは道具なんだ!」

「黙れ。次に道具と言ったら羽根が足の指の間をくすぐるぞ?」

「……」

説得の甲斐もあって黙ってくれた。

「人を道具と呼ぶ以上、自分がそう呼ばれることになる。その辺は理解している?」

「理解?」

唾棄しそうな表情でミジュリが睨んできた。

「私も道具だ。あの馬鹿とブルーグ家のせいで道具にされた。だから許さない。だから道具として扱う。あれもブルーグ家も私が壊す。徹底的に壊して復讐するんだ!」

全力でそんなことを吠えた。

「そっか~。なるほど」

相手の言い分は分かった。

「だが僕は自分の発言に責任を持つ男だ」

「何、を?」

「決まっている」

まずは羽根は羽根ペンで良いかな?

© 2022 甲斐八雲