軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣先を突っ込んでやる

ユニバンス王国・王都内とある喫茶店

「ねえ?」

「はいお嬢様」

オープンカフェの様に机と椅子が外に置かれた店先で、白いドレス姿の女性は傍に居る老メイドに声をかけた。

「どうも隙が無いみたいなんだけれど?」

「その通りにございます」

「それであれを狙えと?」

「だからこその第一目標にございます。お嬢様」

「ふ~ん」

右肘に手をやり右手の掌は頬に当てる。

軽く頬杖をついて『お嬢様』と呼ばれた人物は思考を放棄した。

「無理ね。あれを狙うと仕損じるわ」

「実を申しますと私も同じ結論にございます」

「でしょうね」

確かに第一目標である人物を狙えれば楽である。けれど実際には無理だ。

依頼を寄こした者たちは目に見える明確な戦果を欲したのか、それともただの勢力争いか……結果として第一目標を狙うことは王都の最強と敵対することになる。

あの上空で軽く足踏みをしながら鎮座するドラゴンスレイヤーをだ。

「あっちを狙った方が楽な気がするのだけど?」

「狙うだけでしたら」

お嬢様のカップにおかわりの紅茶を注ぎ、老メイドもまた空を見た。

彼女の目から見れば……白く輝く存在は、天空に鎮座する『死』その者にしか見えない。あれに手を出すなど狂気の沙汰でしかない。

「仕留められますか?」

「無理ね。どんな攻撃も届く気がしないわ」

「でしたらあちらには気を向けない方が宜しいかと」

「そうね」

老メイドの忠告に従いお嬢様は視線を外した。

これで第一と第四目標は除外が決定だ。後の“2人”が狙うというのなら好きにすれば良い。

「ああ忘れていたわ」

「何でしょうお嬢様?」

「あとの2人は?」

「さあ?」

軽く肩を竦め老メイドはそれを認めた。

「少なくとも共同作戦よね?」

対外的な交渉を一任している老メイドの様子に、お嬢様は呆れ果てた視線を相手に向ける。

「はい。左様にございます」

老メイドも素直にそれを認めた。

「ですがあちらもまたこちらを信用していないのか自由に動いているご様子で」

「つまり依頼を受けて私たちの様に野放し?」

「はい」

「嫌な話ね」

苦笑しお嬢様は軽くスカートを摘まんで自分の左足首を見る。

白い足に無骨なアクセサリーが嵌められていた。

「私の様にちゃんと“首輪”は嵌められているのでしょうけど」

「そうだと思います。お嬢様」

素直に認める老メイドにお嬢様は苦々しく笑う。

左足首に存在している物は、主人の意に背いた行動をすれば勝手に動き出して飼い犬に毒を与える素晴らしい魔道具様だ。

一度発動すれば瞬時に左足を太ももの付け根で断ち切るぐらいしか対処法が無い。

良くて5秒ほどの勝負になると聞いてはいる。内蔵されている液体は再現できない特別に作られた猛毒なのだという。

「ねえ?」

「何でしょうか?」

「……こんな首輪を嵌められて死んで行った者たちは、今までどれほど居るのかしら?」

「私には分かりません」

「でも私より多くの人を見送って来たのでしょう?」

「……はい」

老メイドはゆっくりとそれを認めた。

「多くの人たちを見送って来ました。望まずに戦いの場へと強制させられた者たちを多く」

「……嫌な話ね」

けれど自分もその場に立っていると理解し、お嬢様は腰かけていた椅子から立ち上がった。

「私たちの目標はメイドの2人にしましょう」

「第二と第三で?」

「ええ」

厳密に言えば第五目標もそれに準ずるが、お嬢様と呼ばれる女性としては“無差別”と言う言葉が好きでは無かった。

それをすれば自分たちはあの日ブルグレンに悲しみを撒き散らした“殺人鬼”と同じになってしまう。

他者を巻き込み多くを殺すなど……してはいけない行為なのだ。

「可愛らしいメイドとその傍に居る凛々しいメイド。あの2人のどちらかを討ち取れば依頼主たちは文句を言わないでしょう?」

「はい。特に可愛らしいメイドの方が喜ばれるご様子ですが?」

「……嫌な話ね。本当に」

子供を殺すことを喜ぶ依頼主などろくな死に方などしないはずだ。

それを実行しようとしている自分など……本当にろくな死に方をしないはずだ。

《だったら》

鞄を掴みお嬢様は歩き出す。

《花の様に美しく死にましょう。死体がどんなに辱めを受けたとしても……その時は私はもう死んでいるのですから》

それがせめてもの矜持だった。

子供を狙う暗殺者の……底辺のような矜持だった。

「それでアイルローゼ。これって話しできるの?」

「会話できるのなら譲るわよ?」

「冗談」

軽く肩を竦めてスハは床に転がるパーパシを見つめる。

薬学の知識を持つ彼女は、リグに次いで施設の者たちを救った存在だった。

怪我人に対して優しくどんな傷であってもその傷跡を残さないように努力する。優しい優しいお姉さんは……手足を失い床を転がっていた。

「あ~。う~」

呻き声を発し、口からは涎を溢れさせている。

どう見ても異常だ。正気には見えない。

何よりその目だ。白く濁り光を感じているようには思えない。

本能のまま……ただ彼女は人の部品を拾い集めてはそれを運んでいるように見えた。

「たぶん中毒よね。戦場でその手の発狂者は良く見た」

「経験談?」

「止めてよね。ウチの隊で薬の類を使おうものならカミーラが来て」

スハはお道化ながら自分の腹を両手で押さえて見せた。

間違いなくそんな物を使えばカミーラが来て全部吐かせる。拳を腹の半ばまで押し込まれ、下手をしたら串で強制的に穴を開けてでもっといった様子でだ。

あの隊長様はあの狂った戦場で自分も部下も正気で居ることを強いる無茶苦茶な御仁だったのだから。おかげで味方からも『あの殺人鬼集団』と陰口を叩かれ続けたが。

「でも他の人たちは我慢できずに使ってしまったのよ。狂気に狂気が重なる場所だからね」

「あまり聞きたくは無いわね」

報告書と言う形でしかアイルローゼは戦場のことを知らない。

自分が作り出した魔道具がどれ程効率よく敵を殺したのか……それを数字だけで把握していた。戦場で戦っていた者たちの感情などは知らない。知りたいとも思わなかった。

「それでパーパシはどう?」

「貴女の見立てが正しければ何かしらの薬物中毒でしょうね」

「へ~」

両足を伸ばし天井を見上げたスハは軽く息を吐く。

「そんなことが出来そうな魔法を知ってるんだけど。と言うか人物ね」

「あら? 私は3人ほど浮かんでいるわよ」

「そんなにっ!」

驚いたスハが相手を見た。

魔女はそっとパーパシの白濁している目元に手を置くと魔法語を綴る。

トプンと言う音とそして広がる静寂に……スハは自分の心音を聞こえたような気がした。

「まず私よ」

「それは除外してくれる?」

「あらどうして?」

「貴女がこれの騒動の黒幕だったら酷い物語よ。作者を見つけて尻から剣先を突っ込んでやる」

軽く利き腕を振るうスハにアイルローゼは苦笑した。

「なら残りの2人は簡単でしょう?」

「あ~。1人はファナッテでしょ? で、もう1人はお手上げ」

素直に容疑者の名前を口にして、スハは降参した。

と言うか薬物と言う時点でスハとしては容疑者はファナッテの一択だった。

それを理解しているアイルローゼは口を開いた。

「そこまで出ているのならもう1人は簡単よ」

「……誰よ?」

「それの付き人」

軽く驚きスハは目を瞠る。

「ミジュリ?」

「正解よ」

認め今度はアイルローゼが渋面になる。

「あの2人の魔法って違うように見えて根底は同じなのよ」

「そうなの?」

「ええ。むしろ毒以外も扱えるミジュリの方が厄介かもしれない」

亡きパーパシの遺体をそのままにアイルローゼは立ち上がる。

それに釣られ座って居たスハも立ち上がった。

「毒しか作れないファナッテは確かに凶悪よ。でも手数が少なくても毒以外も操れるミジュリはもっと警戒するべき人物なのよ」

「だから魔女はミジュリも溶かして回っていたの?」

「……どうかしらね」

答えを避けてアイルローゼはまた深部の捜索へと戻る。

やれやれと肩を竦めたスハは魔剣を掴んでそんな魔女の後を追った。

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