軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグスタの暗殺は難しいな?

ユニバンス王国・王都王城内近衛団長執務室

「机の上のあれは何だ?」

「先ほどアルグスタ様がいらっしゃって置いて行きました」

「あの馬鹿が?」

地下牢から戻って来たハーフレンは、自分の机の上に置かれている物を眺めて目を点にした。

何処をどう見ても延べ棒だ。金の延べ棒だ。それがドカンと置かれている。

「何であれを置いて行ったのかを聞いても良いか?」

「自分は席を外していましたので」

イケメン騎士として名高いビルグモールはそう答えると、さっさと自分の仕事に戻る。

呆れつつ視線を巡らせれば、2人の姉妹が肩をビクッと震わせていた。

資料の山に隠しているがケーキの匂いは誤魔化しようがない。

「買収か?」

「いいえ。『食べる?』と言いながら持って来て下さいました」

姉のパルがそう答え、妹のミルが口元を隠しながら頷く。

女性か2人居ると言うだけでケーキを準備して持って来る辺りが、あの馬鹿弟が異性に好かれる理由だろう。

「で、これは?」

「はい。何でも前回ミシュ様に支払うと約束した物らしいのですが、取りに来ないから飼い主に押し付けに来たとか」

「アイツは預言者か?」

「さあ?」

軽く肩を竦めてパルは仕事に戻る。

ここ1年で身長を伸ばした彼女は、中々に美しい娘へと育っている。

貴族の子弟からの人気も上々で、ハーフレンの元には『彼女はどのような異性を好むのでしょうか?』と言う遠回しな探りが来始めていた。

金髪碧眼の美女はユニバンス貴族内では特に選ばれる傾向があるので仕方ないが。

双子であるミルも本来なら美女に育っているはずなのだが、彼女は男装を好むので見た限り男性にしか見えない。

スラッとした貴公子然とした若者だ。女性に大人気なのは仕方ない。

こう見ると近衛も中々に個性が強いと思いながらハーフレンは自分の机にへとたどり着いた。

ただ弟の部下たちに比べればまだ真面目ではあるが。

「ビルグモール」

「何か?」

「これを使ってとりあえずミシュの借金を帳消しに出来ないか?」

「それでしたらアルグスタ様の所のイネル様がこれを」

近づいて来た騎士が1枚の紙を置いて去って行く。

置き捨てにされた紙を拾い上げ、椅子に腰を落ち着けたハーフレンは内容を確認する。

本当にあの馬鹿の部下に置いておくには勿体ないほど優秀だ。

ミシュ名義の全ての借金が網羅されている。何処で調べたと思うほどに完璧だ。

「それで今回の騒ぎ分はこっちでこれだけ余ると。それは……」

恐ろしいほどに完璧な数字が並んでいる。

調べたのは夫であるイネルだろうが、それを纏めているのは妻であるクレアだ。

陛下ですら欲する優秀過ぎる2人の部下を抱え込むアルグスタは、本人があれほど遊んで回っていても無事に隊の事務が滞ることなく回っている凄さを理解しろと言いたくなる。

ただあの若い夫婦は借金と言う名の鎖で繋がっているので、 悪い上司(アルグスタ) から逃げ出すことは出来ない。

下手をすれば子供の代まで借金で縛られている。

縛られているのに毎日のように高級ケーキを食べ、室内のお菓子は持って帰りたい放題。試作ケーキも随時届けられ、最近では流行の中古服店から格安で服も買えるとあって、陛下が提示できるであろう給金の半分以下の状況であってもあの2人が顔を縦に振ることは無い。

休みが少ないのと給金の半数以上が借金の返済に充てられていても破格の好待遇である。

その借金とて全て積立預金されていて『子供とか出来たら絶対にお金かかるでしょう? そんな時の為に貯蓄しておいてあげるのが上司の務めだと思うのよね~』とか言ってあの馬鹿は自宅の金庫で預かっているという。

本当に身内に甘すぎるのだ。それが仇となるかもしれなくても。

「……」

ふと視線を天井に向けていたハーフレンは紙を手に取りペンを走らせた。

最近は王城に来ていることの多い相手に向かい試しに手を叩いてみる。

「……御用でしょうか?」

「来ていたか」

「はい。アルグスタ様に用がございまして」

2代目にしてハーフレンの非公式の愛妾であるフレアが姿を現した。

今日も全体的に体を覆うような古めかしいメイド服に身を包み、先代メイド長にも負けないほどの冷たい雰囲気を纏っている。

眼鏡越しに見つめて来る彼女に軽く笑いかけ、ハーフレンは手書きした紙を軽く振って相手に見せた。

「失礼します」

声に出せない要件だと理解し、フレアは音も立てずに室内へと進む。

このメイド長は近衛団長執務室への勝手な出入りが許されているので誰も気にしない。元婚約者にして現在は前王妃の傍仕えのメイドをしているという形で広く認知されているからだ。

軽く机の上を覗き込んだメイド長は、主人の羽根ペンを借り文字を走らせる。

相変わらずの几帳面で奇麗な文字にハーフレンは苦笑した。その内容にもだ。

『アルグの馬鹿はエクレアの誕生祝に何かしたのか?』とのハーフレンの問いに、フレアの返答は簡単だった。『延べ棒を3本ほどエクレアの玩具に捨てて行きました』と。

破格すぎるお祝いだ。王家の嫡子相手にだってこんな額など送ったりはしない。

『つまりあの馬鹿はエクレアのお祝いに、延べ棒3本置いて行ったと?』『はい。と言ってもエクレアのベッドの中に延べ棒が3本転がっていたというのが正しい状況です』『あの屋敷でそんなことが出来るのはノイエぐらいか』『はい。前妃様が悔しがっていたので間違いないと』『お袋から逃れられるノイエも大概だな』

何でも入浴中の隙を突かれラインリアですらノイエの侵入を逃したらしい。

沢山ノイエの匂いを纏った孫を抱え『今度は絶対に逃がさないんだからぁ~!』と絶叫したとかしていないとか。

もうそれは間違いないだろう。現実の話だ。

使い終わった紙をメイド長に預けると、彼女は無言で受け取り魔法で焼く。

内容的にギリギリ宜しくないのでハーフレンは迷うことなく紙を処分させたのだ。

エクレアはあくまで拾い子であり王家とは所縁の無い子供として育てることが現時点では決定しているのだから。

「次いでだフレア」

「何か」

主人の元から離れようとするメイドをハーフレンは捕まえる。

とは言っても屋敷では無いので手を伸ばして直接と言う訳にはいかない。

「お前ならアルグスタをどう狙う?」

「またそれですか?」

スッと背筋を正し、質問して来る主人にメイドは冷たい顔を向けて来る。

「野外では可能か?」

「王都内ではほぼ不可能でしょう」

それがアルグスタを知る者の共通した認識だ。

何故なら彼女が居る。王都の空を飛び交うドラゴンスレイヤーだ。

「では室内なら?」

「窓の傍は不可能でしょう」

「部屋の中央なら?」

「たぶんそれでようやくでしょうね」

そのようやくの意味合いにハーフレンは口元を歪める。

「ようやく狙えるか?」

「はい。ですがあの人が身代わりの魔道具を所持していないとは思えません」

「配下にはあの術式の魔女だからな」

ユニバンス史に名を残す生きた伝説。

アルグスタの執務室の隣を占拠し、勝手に工房を作った魔女は現在帰宅したそうだ。『留守です』と言う看板が扉に掲げられ、魔女の来訪をもう待ち望んでいる者たちが居るとも聞く。

「今回は多くの魔道具を作ったそうだな?」

「はい。アイルローゼ先生があんなに素直にあれほどの物を作ったことに多少驚きですが」

天才肌の師であるアイルローゼが言われるがままに作品を作ったことは、弟子であるフレアとしてはやはり驚いてしまう。

彼女は気分が乗らないと命令に逆らい自分勝手に自由気ままに作品を作り出すからだ。

それなのに大人しく依頼を受け続けたのは、余程気分が乗っていたのかそれとも……。

《あの先生が“惚れた弱み”を見せるだなんて》

内心でクスクスと笑いフレアはその感情を決して表には出さなかった。

師であるアイルローゼが登城していた期間、何度も彼女の工房を訪れていたフレアには分かった。見てれば分かる。

あの術式の魔女が乙女のように1人の男性を想い仕事をしていたのだから。

『あれを終えないと』とか『これが終わったら』など本当に愛らしい様子で我慢をし、依頼を終えれば隣室に乗り込み休憩と称して彼の傍で紅茶を味わう。

《あんな幸せそうな先生を見たら……ソフィーアなら笑ってくれるわね》

姉弟子を想うとフレアはその感想でまとめた。

もう1人の姉弟子はたぶん荒れる。荒れて大変なことになると決まっていた。

「ならアルグスタの暗殺は難しいな?」

「……はい」

思考を脱線させていたフレアはその声で戻る。

何だかんだで主人は弟想いの人物だから……いつもこうして対応を考え続けているのだ。

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