軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

企みと言えばホリーだね!

まだ疼くように痛む左腕に眉を寄せながら、アイルローゼは魔眼の深部へと急いでいた。

レニーラとシュシュが余りにも自然と持っていたから気づくのが遅れたが、あの2人は間違いなく『魔剣』を手にしていたのだ。

その理由など考えるまでもない。あの馬鹿が作ったからに決まっている。

問題はどうして作ったのかだ。

材料があって気分が乗らなければ“あれ”は魔剣を作らない。何本も立て続けに作る方が……歩みを止めてアイルローゼは横に飛んだ。

自分が居た場所を、走っていた場所を見たことのない形状の刃が通り過ぎたのだ。

「魔女か。危ないぞ?」

「……通路の真ん中でそんな物を投げる方が危ないと思うのだけど?」

「その通り、か」

金色の髪と赤い瞳。間違いない。

ヘラヘラと脱力した感じで笑う相手にアイルローゼは退路を確認する。

状態と相手が悪すぎた。

「それで魔女がこんな場所を急いでいる理由は、これか?」

「正解よ」

「そうか」

笑い相手は掴んでいる武器の刃に舌を這わせる。

特殊な形状をした武器をアイルローゼは何と呼ぶのか知らない。複雑に刃が絡み合って押し潰したような形状をした武器だ。

「出来たら通して欲しいのだけど?」

「ん? ああ。そうか」

相手は武器を頭上に掲げて通路の端に移動し道を譲る。

「通ると良い」

「それで私がそこを通ろうとしたら、その刃をどうするのかしら?」

「そうだな……面倒臭いが振り下ろしてみるか」

「でしょうね」

魔女もまたあっさりとそれを認めた。相手の性格など理解しているからだ。

「久しぶりに手に馴染む武器が手に入ったんでね」

「みたいね」

エウリンカはやはり溶かしておくべき人物だったと後悔しつつもアイルローゼは覚悟を決めた。

最悪は魔法を放つまで上半身を守れば良い。そうすれば少なくとも目の前の『斬撃』は始末できる。

「押し通る気か?」

「そのつもりよ」

「そうか……なら」

ヘラヘラと笑う相手の手の中で武器が増殖した。

本当に厄介な魔法の使い手だと再確認しつつ、アイルローゼは高速詠唱で『腐海』を唱える。

間に合うか……アイルローゼは自分の運の無さをその目で捕らえた。

相手が増やした武器を全て投擲して来たのだ。

ギンッと刃が擦れあう音が響く。

投擲により武器を全て投げた斬撃の頭部が首から断たれて綺麗に宙を舞っていた。

「……エウリンカも真面目に魔剣を作ればこんな使い勝手の良い物が出来るのにね」

アイルローゼを追い越し、飛んでくる武器を全て叩き落とし、ついでに相手の首を断ったのは両の手に魔剣を持つ人物だった。

「スハか……助かったわ」

「そりゃどうも」

追い打ちとばかりに床に転がっている斬撃の四肢を叩き切り、スハと呼ばれた女性は剣に付いた血糊を払った。

「で、アイルローゼ」

「何かしら?」

チラリと視線を向けて来た相手に魔女は警戒を続けた。

スハはカミーラの副官を務めていた人物であり、剣の腕は折り紙付きだという。

ただ戦う気力、生きる気力を失ってからは自ら進んで武器を手に持つことはほとんど無かった。

唯一施設でノイエに手ほどきをしていた時は笑顔で楽しそうに……その印象だけは残っている。

無気力の魔剣使いと揶揄された人物がスハだ。

「魔眼の中に魔剣が溢れているんだけど」

面倒臭そうにスハは自分が持つ剣を振る。

「そんな馬鹿なことをするのは1人でしょう?」

「やっぱりあれか」

該当者は1人しか居ない。当たり前のエウリンカだ。

「だから行って始末したいんだけど……護衛を頼める?」

「面倒だな」

床に魔剣を突き刺してスハは軽く自分の頭を掻いた。

「でもこのまま放置すると厄介よ」

「分かってる。カミーラやジャルスなら喜ぶんだろうけどな」

戦いに飢えているあの2人なら間違いなく喜んで襲い掛かって来る者を迎え撃っているはずだ。

もう一度頭を掻いてスハは長い息を吐いた。

「条件がある」

「私にできることなら応えるわ」

「たぶんできる」

はっきりとした確証を持ちながら、スハはアイルローゼに黄色い瞳を向けた。

「墓参りに行きたい……ただそれだけだ」

「……分かった。その条件なら応じるわ」

軽く微笑んでアイルローゼは相手を見つめる。

あの日自身の大切な人をその手で殺めた彼女は、心のどこかで踏ん切りを求めていたのだろう。少なくともアイルローゼも自分の足で弟子たちの墓参りに行ったことで一つの区切りにはなった。

「ならどうする?」

「エウリンカを探しながら」

床に転がる名称の知らない武器に手を向け、アイルローゼは魔法を放つ。

トプンと音を発して武器は腐って液体と化した。

「余計な魔剣を全て融かす。そうしないと面倒なことが起きる気がするのよね」

「そっか」

床に突き刺した魔剣を引き抜き、スハはその切っ先を魔女に向けた。

「これは最後にして欲しい」

「当り前でしょう? カミーラの副官をしていたという貴女の腕に期待しているのよ」

「そっか」

肩に魔剣を担いでスハは笑う。

「何処か変わったな。魔女」

「そうかしら?」

「変わったさ」

呟いてスハは歩き出す。

「丸くなった。男を知って丸くなった私のようにね」

「言葉が多いわよ。魔剣使い」

「それは失礼しました」

恭しく首を垂れる相手にアイルローゼは頬を赤くしながら顔を背けた。

「……腰が痛い」

魔眼の中に戻ると同時にリグはトントンと自分の腰を叩いた。

別に本当に痛いわけではないのだがそんな気がしてならないのだ。

理由は分かっている。どうも彼は自分を上にして胸が揺れるのを見るのが好きなのだ。

あれはあれで根元から千切れてしまいそうになるから止めて欲しい。

腰よりもそっちの方が正直痛い。

「ん?」

叩いていた腰から手を放し、顔を上げたリグはそれに気づいた。レニーラとシュシュが何故か目頭を押さえて静かに手を振っているのだ。

それはまるで別れの儀式のようにも見えた。

「どうかしたの」

「にゃあ」

「……」

立って歩く猫が迫って来る。

コキコキと首を鳴らして近づく猫に戦闘経験なんてないリグですら戦慄した。

間違いなく相手は自分を狩る気でいると伝わって来たのだ。

「ファシー? ボクに何か」

「にゃあ~?」

小さく首を傾げて前髪に隠れた彼女の目がギョロっと睨む。

これはもう間違いなくダメだ。何を言っても助からないという気配が半端ない。

「良く分からないが話し合おう」

「フシャー!」

「ファシー。入り口」

透き通るような声が響いた。力のあるはっきりとした命令調の声だ。

吠えて腕を振るう猫に腰を抜かしながら頭を抱えて蹲ったリグは……しばらくして自分の身が無事なことに驚いた。

恐る恐る視線を巡らせれば、中枢の入り口で猫が押し入ろうとしていた者を刻んでいた。

「おおう。セシリーン。何事よ?」

「ん~」

追い打ちで死体をバラバラにしている猫に視線を向けないようにしながら、レニーラとシュシュが急いで歌姫の元へと急いだ。

突然ファシーに迎撃を命じたのはセシリーンだった。その理由は言うまでもない。

緊急時の取り決めでは、防御に優れたシュシュと魔眼の中を全て聞くことの出来る歌姫を守ることを優先する。その為ならレニーラは基本自分の体を犠牲にしても2人の守りに徹する覚悟を持っている。自分が踊りだけで何の役にも立たない思っているからだ。

ただ今回は攻撃に特化した猫が居る。相手が何を企んでこっちに来たのか知らないが、今の猫は迷うことなく敵と認識した者たちを殺す。喜んで殺す。ある意味昔と変わっていないが、無作為でないだけまともになったとも言える。

でも笑いながら殺すのには変わりない。

猫の凶行に目を向けず、レニーラとシュシュは歌姫を見た。

彼女は眉間に皺を寄せ意識を集中しているように見える。

「あらあら大変みたい」

「具体的に言うと?」

「エウリンカの魔剣を手にした人たちが暴れているわね」

「あれか~」

身に覚えのあるレニーラは頭を抱えて苦笑した。

何故か魔眼の中に魔剣が転がっていたのだ。これ幸いとそれを拾って魔女を襲撃もしたが。

「つまり犯人はエウリンカ?」

「……難しいわね」

はっきり言ってエウリンカに企みなど考える思考が無い。

彼女は自分が作れる魔剣を作り続けたいという欲求から動いている。それがこんなことをすれば少なくとも魔女の怒りを買うことくらいは分かり切っているはずだ。

「誰か他に企んでいる?」

「良し分かった! 企みと言えばホリーだね!」

入り口で死体の頭部を弄ぶ猫にレニーラは目を向けた。

「ファシー! ホリーを回収して来て!」

「は、い」

コクンと頷いた猫はトコトコと歩いて行き……片足を掴んでホリーらしき死体を引きずって帰って来た。

まだ彼女の頭部はグズグズのままだったのだ。

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