軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三試合1人目は

ユニバンス王国・王都内勝ち残りトーナメント会場

「そこの筋肉馬鹿」

「何だ。ただの馬鹿」

「専属メイドが居る前で他所の胸を褒めるお前は僕より馬鹿ではないと?」

「仕方あるまい。デカい物はデカい」

背後に立つフレアさんがまた闇落ちしたような気配を発しているから気づけと言いたい。

何気にこの人ってば精神的に危ない感じがするから……しいて言うとファシーに通じる危なさを孕んでいる。

まあ僕もファシーを傍に置いているから分かる。あの危なさが若干癖になるのだ。

スリルを求めて絶叫系のアトラクションを渡り歩く人はこんな感じなんだろう。

フレアさんがまた馬鹿兄貴の首を締め上げようとしたが、先生の『フレア。紅茶。おかわり』の一声で回避された。巨乳への恨みよりもメイドとしての矜持が上らしい。何て立派なメイド魂。

ただ帰宅した後、この馬鹿がどんな目に遭うのかは考えないで居てあげよう。

「で、あの国軍の代表さんって弱くない?」

ちょっと期待外れだ。出来たらジャルスともっとやりあって欲しかった。

「ああ。今回のこの会場はあれに向いてないんだよ」

「ふむ。不向きな理由とは?」

それは聞いておかないとダメだ。次回が開催される時に改善が必要かもしれない。たぶん開催される。だってこの世界の人たちは娯楽に飢えているので、陛下の方には『また舞姫の舞いを是非』との意見が多数寄せられているとか。

問題は踊りに関してはレニーラってこだわりが強いんだよな。

ああ。改善点をちゃんと聞かねば。

「リディの技はお前んところのあの変態娘と同じ類だ」

「ウチの変態と?」

つまりどんなに叩かれても何度でも蘇るってことですか? あら怖い。

「そうだ。だから舞台の外にまで出る攻撃は禁止って言う決まりに違反する」

「あ~。そっちね」

変態では無くてそっちが原因らしい。

ボッチで変態とか始末に負えないと不安に感じたが。

「良くそんな隠し玉を国軍が持ってたね」

「ま~な。ああ見えてシュゼーレは真面目だからな。だから軍を強くしようとして広く個性的な人材を拾ってくる」

「で、個性が強すぎて扱いきれなくなって近衛に押し付ける訳か」

「言うな。あれは真面目なんだ」

だったら苦笑してやるなと言いたい。

あのリディさんとやらはそんな国軍でも数少ない個性薄目な人物なのだろう。ボッチのようだけど。

「アルグよ」

「ほい?」

呼ばれて視線を向ければ、馬鹿兄貴が顎で舞台を指し示す。

「お前の所の変態はどうする気だ?」

「あ~。ドラゴン退治に使っている技が使えないね」

それは仕方のないことです。

今回は舞台の周りを王家や貴族などが囲んでいる。つまり舞台上から何かしらの技が飛び出して誤爆すると大変なことが起きます。

僕はノイエと先生と言う存在に絶対的な信頼を置いているので、この2人が傍に居て誤爆で死ぬとは思っていない。仮に誤爆を受けたら諦めて逝こう。

問題があるとしたら、この2人によるフレンドリーファイアで死ぬ可能性があるってぐらいだ。

「それでも出ると言ったのはあの変態だし、『サツキ家の技が大味ばかりでは無いことを皆様に知っていただきます』とか息巻いてたから何かするんじゃないの?」

「何だ? その投げやりは?」

「うん」

だってそう言いながらモミジさんは自分がフラグを立てたことに気づいていない。

「小手先の技に走ると大概自滅するって言う法則が存在してまして」

「何となく分かる気がするよ」

伝えたいことを理解したのか、馬鹿兄貴が何故かフレアさんの尻を撫でてお盆で叩かれていた。

やはりメイドさんが傍に居たら撫でなければいけないのだろうか?

「先生」

「何よ?」

「今度メイド服を着てみませんか?」

「馬鹿。死ね」

短くてはっきりと殺意を感じる返事が返って来た。

『どうせ何を着ても最後は脱がせるんだから……馬鹿』

一瞬先生の呟きが耳の奥に……幻聴か?

「第三試合1人目は、モミジ・サツキ」

「はい」

今日のモミジはサツキ家の代表として恥ずかしくない格好をしていた。着物だ。

艶やかな色合いの物では無く、落ち着いた……と言うか地味すぎるほどの浅葱色だ。

実家から運んで来たから今まで一度も袖を通していない勝負服でもある。

ただモミジはそれが自決の時などに使われていた色だとは知らない。と言うか村に住む全員が知らない。それがサツキ家が支配している村である。

静々と階段を昇りモミジは舞台に立った。

「2人目はトリスシア」

「……」

返事はない。オーガは椅子では無く地面に寝そべり豪快に寝ていた。

彼女の周りには食い捨てられた骨と空の酒瓶が転がっている。

今日と言う日に備え大半の者が鍛錬を積む中、彼女だけが食って寝ての生活を送っていた。

余程自信があるのだろう。事実彼女の優勝する賭け率は第3位だ。

「起きろ」

「あん?」

近くに居たカミーラの槍の石突で叩かれトリスシアは起き上がると大きく背伸びをする。

「出番か?」

「そうだ。さっさと舞台に上がれ」

「分かったよ」

手近に転がっているワインを豪快にラッパ飲みして彼女は立ち上がる。

そのまま酔いを感じさせない確りとした足取りで舞台の上に立った。

「武器は?」

「あるよ」

審判の問いに欠伸交じりで答え、トリスシアは大きく右腕を振るう。

一瞬彼女が右の手首に付けている飾りが光……金棒がその右手に握られていた。

「さてと。ならまた負け犬退治を始めるか」

ニタリと笑い軽く自分の肩を棍棒で叩くオーガに、モミジは深く息を吐いてスッと左足を引き、カタナに手を伸ばした。

「今回は本気で行きます」

「なら前回の泣きながら逃げ回っていたのは何だったんだよ? 負け犬」

オーガの挑発にモミジは動じない。

ただ静かに腰の鞘からカタナを抜いて、それの切っ先をオーガへと向けた。

「今回は命を奪う戦いですので」

「はん」

笑ってオーガは自分の胸を左の拳で叩いた。

「奪える物なら奪ってみなよ。このアタシの命をね!」

もう一度彼女が自信の胸を叩くのが合図となった。

「始めなさい」

審判は場の空気を読むことを知る経験豊富な人物だった。

「何かモミジさんがいつもと違って格好良いんですけど?」

上司の計らいで貴族席の末席に居場所を与えられたノイエ小隊の副隊長であるルッテは、一緒に来た婚約者と共にずっと舞台を見つめていた。

もちろん舞台上に居るモミジの婚約者も一緒に居る。彼は試合が始まる前から場所決めのロープを握りしめて応援の声を発している。その必死な様子に彼がどれ程モミジのことを想っているのかが伝わって来る。

本当に今日は凄い戦いばかりだ。自分の祝福を使っても隊長のノイエなど目で追えないし、あの棍棒使いなんて最後は笑いながら対戦相手を滅多打ちにしていた。

あの上司は狂ったことばかりをする人物だけど、今回の興行は大成功かもしれない。

何と言ってもまだ死人は出ていない。本当に奇跡だ。

「ルッテさん。モミジさんは勝てるんですか?」

「どうでしょうか?」

隣に座る婚約者の声にルッテは首を傾げた。

あのオーガは正直に言って色々と狂っている。最強であるノイエと戦って生還しているから余程頑丈か強いのだろう。

それに引き換えモミジは普通だ。その体は何処にでも居る女性の物だ。しいて言えば一般的な同世代の女性より胸が大きいくらいか。

同じ大きな胸を持つ身としては同僚に頑張って欲しい。

ただ対戦相手もかなり胸が大きい。大きい?

あれは大きいと言うよりも分厚いと言った方が正しいのかもしれないが。

「胸の大きさなら勝ってます」

「それは……」

顔を隠して恥ずかしがる相手が可愛い。

そっと手を掴んでみたら、相手も握り返してきたので……2人は顔を真っ赤にして俯いた。

「「「おおお~!」」」

突然の大歓声に俯いていた2人は顔を上げた。

目の前では場所を仕切るロープを掴んで何か叫んでいるモミジの婚約者がいる。そして彼越しに舞台を見れば、モミジの攻撃があのオーガの全身を真っ赤に染め上げていた。

「何か変態が優勢なんですけど?」

「だな」

良く分からないがモミジさんがカタナを振ると、オーガさんの皮膚に幾重も傷が生じる。

ファシーの魔法に通じる感じだ。千切だっけ? 耳に聞こえる間抜けな感じとその効果が余りにもかけ離れている恐ろしい魔法だ。

「解説しろよ。馬鹿兄貴」

「知るか。初見だ」

「使えない」

だったら博識の先生に。

「アイルローゼ?」

「……物体を召喚する魔道具? それとも一時的に保管している? 観察したい……」

あっダメだ。さっき見たオーガさんの金棒マジックにのめり込んでいる。

「求む解説!」

「ふむ。あれはサツキ家に伝わる児戯に等しい修練用の技だな」

まさかの解説?

慌てて振り返るとそこにサツキ家の関係者であり、変態の兄である変態のマツバさんが居た。

「何か久しぶり」

「うむ。実家で馬鹿な妹と馬鹿な父親を説得するのに時間をかけてしまった。何より門が使えなくてな」

「あ~。それは申し訳ないです」

まさかこんな所に僕の暴挙の被害者が。

「だが聞いてくれ友よ」

「はい?」

何故か両手を取られて固い握手をさせられた。

「想いの君を受け入れる準備は完璧に整った」

「お~」

つまり内堀は完全に埋まったということですね。

「彼女の親など私が婚姻を申し出たら涙ながらに喜んでくれてな」

「それは実に目出度い」

外堀も完全制覇か。

「後は想いの君が頷きさえすれば!」

「案ずるな友よ」

そう。僕は友達想いの良い奴なのです。

「必要書類を全て記載して人事院に提出すれば、名実共にミシュは君の物だ!」

「友よ!」

「友よ!」

立ち上がったハグまでする。

これで不可能と言われていたミシュのミッションをクリアーできる。

公文書偽造? 知らんなそんな言葉など! 出して受理されれば勝ちなのだよ! 権力者を舐めるなよ! これが本物の悪役と言うものだ!

「で、マツバさん」

「何だ友よ」

チラリと舞台を見る。

「あれってどんなイカサマなの?」

変態は急に強くなれないからね。うん。

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