軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薄い胸を隠したか

ユニバンス王国・王都郊外北側

《何でよ? なんで私が一方的に困らされた挙句にあの魔女に借りを作ることになるのよ! あの魔女よ? 絶対に変なことをさせられるに決まっているじゃないのよ!》

椅子に座りアイルローゼはただ1人を睨みつけていた。

元を正せば“あれ”が余計なことを言いだしたのが原因だ。それなのに全部押し付けられて……。

イライラと不満をため込んでいるアイルローゼをノイエは抱きしめる。

何だか良く分からないけれどお姉ちゃんの薄い胸の奥が黒く染まっている。

この黒いのは良くない。いっぱい溜まるのは良くない。

ギュッと抱きしめると力んでいた姉の肩から力が抜ける。

これで良い。このままが良い。

と、また気配を感じて視線を向けた。

手は姉を抱きしめているから塞がっている。

でも倒さないとダメだ。あれを倒せと教えられた。

軽く前屈をしてテーブルの上に置かれているフォークを掴む。

振りかぶって投げたら放物線を描いて地を進むドラゴンに当たった。たぶん当たった。気配はもう無い。厳密に言えばたくさん居るけど近くには居ない。なら良い。

《やっぱり許せない。目の前に来たら一発と言わずに往復で》

イライラがまた募りアイルローゼは話し合っている彼を見つめる。

ギュッと右の拳を作って……するとまた妹がギュッと抱き着いて来た。

こんな風に甘えられるとずっと怒っても居られない。

また息を吐いて我慢する。

でも近づいて来たら絶対に一発……。

「ノイエとアイル……何事でしょうか?」

椅子から立ち上がろうとした先生をノイエが抱きしめて制している。

口を開いて文句を言おうとしていたが、ノイエのアホ毛がその口を塞いで閉じた。

やはりバグっていやがる。あのアホ毛。

「ちょっと手を貸しなさい」

一緒に来た悪魔がエプロンの裏からソフトボール大の水晶玉を取り出した。

「お姉様。この上に手を置いて」

「……はい」

渋々従いノイエが水晶に手を置いた。

「ちょっと魔力を流して」

「はい」

ぼんやりと水晶が光った。

「次は魔女の出番」

「……」

「手伝いなさいよ」

胸を張って踏ん反り返る悪魔に、先生がため息交じりに水晶に手を置いた。

何やら呟くと水晶がぼんやりと赤く光り出した。

「まあ良いわ」

何か納得して悪魔が歩き出す。

「ほらお兄様。陛下に話を」

「へいへい」

本当にこの悪魔は自由で困る。

「陛下」

「アルグスタか。どうした?」

「はい。魔道具の方の準備が整いまして」

「そうか」

話し合いの途中だが僕がストップをかけた。

残りのひと枠が決まらないらしい。まあ最悪は7人でも良いんじゃないの?

「それでどうやってグローディアと?」

「ポーラ」

「はいお兄様」

トコトコと歩いてポーラの姿をした悪魔が両手で水晶玉を掲げる。

さっきまで片手で掴んで適当に振り回していたのに……急に丁寧に扱うなと言いたい。

薄っすらと掲げ持つ水晶玉の上部が赤く光り出す。

アドリブだらけの展開で、傍観者の1人として流れを見守る。

何が起こるのでしょうか?

「にゃん」

「……何よ?」

「にゃ~ん」

突然やって来て背後に向かい鳴き出した猫の様子にグローディアはため息を吐いた。

静かに魔法の研究をしていたのに……本当に空気を読まない猫だ。

「見つけたの?」

「にゃん」

「……刻印の」

猫と一緒に来た人物をグローディアは睨みつける。

「手を貸して欲しいのだけど?」

「私に?」

「ええ」

胸を張って踏ん反り返る様子は、とても手伝いを求めている態度には見えない。見えないのだが……相手が悪すぎる。

三大魔女の1人に数えられる相手を前に逆らうのは無意味だ。

「何をすれば良いのよ」

「あら? 嫌なの?」

「どちらかと言えば」

元王女の言葉に魔女は軽く鼻で笑う。

「そう。ならあの白い子には恥をかいて、」

「待ちなさいよ」

大切な妹が関わっているのなら話は別だ。

「ノイエが関わっているなら手を貸すわよ」

「貸す?」

「……手伝わせてください」

「それで良いのよ」

納得はいかないが、グローディアは強制的に手伝うこととなった。

何をするのかは一切説明がないけれど。

上空にぼんやりと立体映像のようにグローディアが……胸から上だけだ。

「薄い胸を隠したか」

『あん? 殺すわよ?』

「やれるもんなら出て来いや!」

虚像のグローディアに詰め寄ろうとしたら何故かお兄様に制された。

放してくださいお兄様。そろそろこの胸無しにとどめを刺す日が来たんです。

「グローディアよ」

『……何よ?』

陛下の呼びかけに馬鹿が不機嫌そうに口を開いた。

なんて失礼な奴だ。3回殴ってくれようぞ?

「実はカミーラに用があるのだが」

『……あれに? 何の用よ?』

「実は国で催しを考えていてな。それに出て欲しいのだ」

『……殺し合い?』

「ただの試合だ。殺しまで考えていない」

『そう』

何故かため息交じりで馬鹿従姉が振り返った。

映像で振り返っても間抜け度が増すだけだぞ?

ツッコミを入れてやろうとしたら、またお兄様に制された。

何か感じていますか? 気のせいです。僕はただあの従姉を亡き者にしたいのです。

お兄様に制されていたら、映像から馬鹿従姉が消えた。

実に素晴らしい。あれの顔など見たくない。

『面倒だね』

頭を掻きながら姿を現したのはカミーラだ。

イケメン男性にしか見えない格好良さが目立つ女性だ。

『何か用かい?』

「ああ。貴女がカミーラか?」

『そうだがアンタは?』

「ユニバンス国王シュニットだ」

『はん。馬鹿の兄貴か』

その馬鹿は誰のことでしょうか?

『それで私は何をすれば良い? 前回のようにまた敵兵の相手か?』

「違う。何でもアルグスタがオーガのトリスシア殿と貴女との戦いを約束したとか」

『ほう』

「それにノイエと我が国で預かっている西方のドラゴンスレイヤーの一族であるモミジ殿も戦いたいと。それを聞き我が国の腕利きの者たちが『戦いたい』と言い出してな……どうだろうか?」

『……強い者と戦えるのならば構わない』

「それは」

『が、条件がある』

ニヤリと笑う姐さんに嫌な予感が……出来たらこのままフェードアウトした方が良い気がする。

『何でもアイルローゼの隠れ家にジャルスが護衛で居るとか……そうであろう? アルグスタ様?』

わ~い。一斉に僕に視線が集中だ。

「アルグスタ?」

代表してお兄様が質問して来た。

馬鹿従姉のせいでお兄様とゼロ距離だよ! やはりあの従姉は僕に不幸を運んで来るのか!

「あ~。……居ますけど?」

誤魔化せる空気でないので認めておく。

「居るのか?」

「はい」

もう念を押さないで。認めているでしょう?

「ジャルスとはあの“撲殺魔”と呼ばれた人物であるか?」

「そう呼ばれているみたいですね」

僕の視線が自然と遠くを見る。

何故かノイエに抱えられている先生がこっちを見て笑っているんですけど? どうしてそんなに笑顔なんですか? こっちを指さして腹を抱えないでください。美人が台無しですよ?

「アルグスタよ」

「はい」

「……呼べるのか?」

どう返事をするべきか?

カミーラがアイルローゼの護衛と言っていたから、つまり先生に丸投げすれば!

「陛下。アルグスタ様の許可を頂けるのなら私は構いません」

先手を打たれた! めっちゃ笑顔で先生が丸投げして来たよ!

「全てはアルグスタ様に一任しておりますので」

「分かった」

お兄様の視線が僕を見るのです。どうしてこうなった?

「アルグスタ?」

「……分かりました。彼女も参加させます」

えっと……神様じゃない何かしらの存在様。

僕がこの後陛下に呼び出されジャルスについて色々と質問されない未来ってあるのでしょうか?

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