軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイお姉ちゃん

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

悪魔は去った。

クレアとイネル君の護衛は……秘儀『明日の僕よ頑張れ!』でスルーしておく。

大の字で寝ているノイエさんは年頃の女性としてはどうかと思うが、ありのままの姿を晒してくれているのだと思えば、信頼されているのだと思って都合の良い方に脳内変換しておく。

で、問題はこっそりとシーツで身を隠している魔女である。

「アイルローゼさん」

「……何よ?」

術式の魔女と呼ばれる美貌の女性が僕を睨む。が、その行いを考えるとただの虚勢だ。逆ギレだ。

「先生。ちょっとお話ししましょうか?」

「嫌よ」

ツンと顔を背けて先生が強気な女性を演じる。

「なら今からあの馬鹿を追いかけて先生の痴態をノイエに見せ続けます」

「……何よ」

どうやら他の姉たちに自分の痴態は見られたくないらしい。当たり前か。

ベッドに上がり先生と向かい合う形で僕も座る。

長丁場になりそうだが、ここは真面目に話しておかないとダメだ。

具体的に考えてここで野放しにすると、第二第三の帝都が誕生してしまう。

「先生。山分けって?」

「あの魔女が言い出したことよ」

「ほほう。なら言い出さなかったら?」

「……研究材料にしたわ」

「誰の?」

「…………私の」

認めたよ。いつの間にかに独占が基本路線になっていたよ。

「先生?」

「だってこの国には無い魔道具ばかりよ!」

そりゃそうだ。帝国が所有している魔道具だからウチの国に……同種の道具が無いってことかな?

帝国と名乗るほどだし国土はウチの何倍だ?

そんな国であれば数多くの魔道具が集まるのは当然だ。

「で、当初は保護って言ってたよね?」

「……うん」

僕の指摘に素直に頷いたよ。

「つまり返還依頼が来たらちゃんと返すよね? 部品じゃなくて現物で。そのままで。ありのままで」

「……」

彼女は沈黙して考え出した。

と言うか僕も言ってて気づいた。返還依頼が来ても返すかどうかはたぶん揉める。

馬鹿貴族たちがギャーギャー言い出して勢力争い込みで大乱闘になることだろう。つまり僕も派閥を作るべきか? 僕って王家派でしたね。元王子様だしね。

つまり僕の報告を受けた陛下はどうする? たぶん……僕に提出を求めるな。それを見てからどうするか判断する。でも帝都にある魔道具って有名な物ばかりだと聞く。

あの馬鹿な貴族たちが手放すか? 無理。何より目の前の魔女ですら欲にまみれている。

あっ先生は魔道具に関したら前からこんな感じか。

「で、先生。お答えは?」

「……嫌よ」

「はい」

何ですと?

考え込んでいた先生がキッと僕を睨みつけて来る。

「絶対に嫌よ! 誰にも渡さない!」

「ここに来ての独占宣言か!」

この強欲魔女め!

僕が文句を言う前に先生が手を伸ばしてきて僕の襟首を掴んだ。

「欲しいの! あれ全部欲しいの!」

「真っすぐ貪欲に強欲な!」

「頂戴!」

「子供か!」

「い~や~だ~」

襟から手を放して先生がベッドの上でジタバタし始める。

するとその振動で寝ていたノイエがムクッと起き上がった。

「お姉ちゃん煩い」

「だってノイエ!」

「我が儘はダメ」

「……」

「駄々はダメ」

「……」

「おねだりは女の武器を使う」

最後に恐ろしいことを言ってノイエはゴロッと横になるとそのまま寝た。

と言うか最後の言葉は誰の言葉だ? たぶんホリーかレニーラだと思われるが。

「ねえ……アルグスタ」

「はい?」

らしくないほど甘えた声が?

ノイエから視線を動かすと、僕の目の前に最近見慣れた可愛らしい胸が……クッション性の少ないパフパフを味わうこととなった。

「お願い。全部頂戴」

「可愛らしく言えば良いって物じゃないと思うんですが?」

「頂戴」

「だから」

「ちょ~だい」

折れない心を持っていらっしゃるな!

「先生」

「ちょうだい」

「……全部は無理です」

「いや」

「だから珍しくて絶対確保の物を抱え込み、代用が利く物を提出しましょう」

「……」

「全部は無理です。それに術式の魔女なら独占しなくてもひと目見て解読できる技術はあるでしょう? 出来ないの? あの悪魔ならたぶんこういうと思うよ?」

スッと扉が開いた。

「私は自分の技術がどう発展したのかを確認できれば良いから古いのは要らないかな? だって製作に携わっている物とか見てもつまらないし、下手したら黒歴史だしね。だから私が見たことの無い物を得られれば後は要らないから」

顔を覗かせそう告げた悪魔がウインクをして立ち去った。

アイツは何をしたかったのだろうか? と言うか何をしているのだろうか?

まあ良い。

「それで先生。それでも貴女は独占を望みますか?」

「……分かったわよ」

腕を放して先生が僕から離れる。

「私が今までに見たことのない系統の魔道具を望むわ」

「と言って全部『見たことが無い』とか我が儘はダメですよ」

「……分かったわよ」

ようやく納得した先生が遠ざかろうとするのを手を伸ばして阻止する。

そのまま抱き寄せて先ほどの定位置へと戻った。

「馬鹿弟子?」

「拗ねて我が儘を言う先生が可愛かったな~」

「忘れなさい」

僕の頭に腕を回して先生が締め上げて来る。

けれどそれは僕の顔が密着することになるんですけどね。

小さくともこれはこれで悪くない。

「もう馬鹿なことを言ってないで寝るわよ」

「は~い」

先生が僕の頭から腕を放した隙をついて一気に彼女を押し倒す。

基本ひ弱な魔法使いであるアイルローゼはこんな風に組み敷かれると何ら抵抗が出来ない。

「何してるのよ! 離しなさいよ! 痛いでしょ!」

女性を力づくで組み敷くという男の野望に何故か興奮する。

「ダメです先せ……アイルローゼ」

「何よ。痛いでしょ!」

身を捩じって逃れようとする彼女の耳元に顔を寄せる。

「先生が全裸で抱きしめるから興奮しました」

「……馬鹿」

顔を真っ赤にして先生が恥じらう。

「私にじゃなくてノイエでしょ?」

「今日はアイルローゼにです。凄く可愛かったから」

「……知らない」

横を向く先生の赤らみが半端無い。

何処まで赤くなるのか見ていたくなる。

「だから、良い?」

「知らない」

「ダメ?」

「だから」

「ダメ?」

我が儘の逆襲だ。

それに気づいたのであろうアイルローゼが小さく頬を膨らませた。

「馬鹿」

「ダメ?」

「……好きにすればいいでしょ」

その投げやりな感じはちょっと嫌です。

「もう一声」

「……馬鹿」

「アイルローゼ」

「……良いわよ」

「もう少し」

「もう!」

怒った彼女が顔を真っ赤にしたままで僕を睨んできた。

「……しても良いわよ」

「もう一歩踏み込んで」

「分かったわよ」

頬を膨らませてアイルローゼが拗ねた様子でその目を泳がせる。

「アイルローゼ」

「……して。お願い」

消え入りそうな声で彼女が確かにそう告げた。

何より言質は取った。つまりこれで全力を出しても僕は悪くない。

「なら僕の本気を見せてやる!」

「ちょっと? 何処に……ちょっと待って! それは恥ずかしいから!」

聞く耳なんて持ちません。

何故ならノイエと先生の痴態を眺めていた僕のやる気はMaxですので!

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……」

「痛いって」

「死ねばいいのよこの馬鹿は~」

目を覚ましたノイエはその間様子を見て首を傾げた。

姉が枕を握り彼を滅多打ちにしているのだ。

だから良く分からない。

怒った声を出しているのに姉は笑っている。

ずっと真っ黒だった胸の奥にぼんやりと暖かな光を灯してだ。

だから分からない。

楽しそうに彼を殴り続ける意味が分からない。

「アイお姉ちゃん」

分からないなら聞けば良い。

そう習ったから口を開いたら、何故か2人が驚いた様子で顔を向けて来る。姉なんて振りかぶった枕を背後へと落とすほどだ。

「……お腹空いた」

なんて聞けば良いのか分からないから、とりあえず一番欲しい物を口にした。

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