軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卑怯は最大の誉め言葉

ユニバンス王国・王都下町

「はい?」

「だから陛下に告げたから……誰か来なかった?」

「……昨日は先生の治療を受けてから気絶してしまって」

気絶したってどんな治療をしたらそうなるの?

今日は朝から登城しないで真っすぐ下町へと来た。

もちろん行先はキルイーツ先生の診療所だ。リリアンナさんの所に誰か来てるかもしれないから話を聞いておこうと思っただけだ。場合によっては彼女がお城に運ばれているかもしれない。

その辺の確認を兼ねて訪れたのだが、リリアンナさんは定位置となっているベッドに居た。

昨日何か無かったかと質問をしたら凄い返事が得って来る。

視線を立ち会っている見習さんに向けたら何故か頬を赤くして全力で顔を背けたぞ?

「何をしたのか言いなさい」

「昨日はその……リリアンナ様の体調がだいぶ良くなったので、少し無理な治療と言うか確認をする運びになりまして」

「ふむふむ」

「……」

ナーファがトコトコと歩いて来ると僕の耳元に唇を寄せた。

そこから聞こえてきた言葉に僕の頬が熱くなったよ。

大丈夫なの? 医者としての治療の範囲を超えていないの? 元居た世界だとエッチな作品の内容を耳元で囁かれた状況だよ? ねえ?

「女性としての今後を考え、同意のもとで行っています」

「同意?」

視線をリリアンナさんに向ければ彼女も頬を真っ赤にして視線を遠くへ。

「今日はいい天気ですね」

「おひ」

「……」

横顔の汗がキラリと光っているぞ? この残念王族。

「つまりリリアンナさんは、感じ入って気絶してたと」

「言葉! その言葉に訂正を求めます!」

知るかこの残念売れ残り二号! ミシュと違って経験豊富なだけに始末に負えないな!

プンスコ怒る売れ残りさん無視して、次なる質問者はナーファだな。

「ならナーファは? 見てて興奮して気絶してたの?」

「しません!」

顔を真っ赤にして全力で吠えて来た。

「……私はお父さんが『お前にはまだ早い』と言うことで、薬草の買い出しと夕飯の買い物に出てました。帰宅してからは誰も来ていません」

「つまりお城の方から誰か来たか分からないと?」

「はい」

これは仕方ない。

「で、医療行為の範囲を超えて犯罪臭いことをしたオヤジは何処だ?」

「……お父さんならそろそろ戻ります」

「何処か行ったの?」

「貴族区の王弟様のお屋敷に」

「……」

その言葉にポンと手を打つ。

「どこかの前王の腰の治療か。もう使えない腰なんて治療するだけ無駄でしょう?」

「実の父親で前王様に対してなんて言葉を!」

慌てたナーファが僕の口を塞ごうと手を伸ばしてくる。

だが甘い。普段から暴言慣れしている僕の暴言はその程度では止まらないのだよ!

「あの種馬親父の腰など壊れたままで良し。僕の知らない弟や妹がこの世にどれほど居ることか」

「あ~! 黙って! 黙ってください!」

立ち上がってナーファの『もう黙れ!』攻撃を回避する。顔に向かって伸びて来る手から逃れるだけの簡単な回避です。

と言うか元王子様の顔に手を伸ばす行為ってどうなの?

「あれの腰は壊れたままで良し。出来たら男性としての機能まで失っていれば完璧です」

「むが~! 黙れ~!」

頭に血が上り過ぎたのかナーファの人格が崩壊した。

「娘で遊ぶな馬鹿者め」

「いや~真面目な女の子を揶揄うのって楽しすぎて」

「嫌な趣味だな」

背後から聞こえてきた声に暴れるナーファが動きを止めた。

病室に入って来た先生は、古ぼけた鞄を床に置くとぐるりと大きく肩を回した。荷物が重いのか?

「で、あの種馬は元気でした?」

「ああ。どこかの馬鹿息子が遊びに行って戻って来たのに挨拶にも来ないと愚痴っていたぞ?」

「だって~。あんな爺の顔を見に行くぐらいなら自宅でノイエと仲良くしている方が僕的には幸せなんですもん。ノイエって本当に可愛いし」

言ってからナーファの肩を掴んでちょっと踏ん張る。

グラグラと王都を謎の地震が襲った。

「……お前の細君に言ってはくれないか? 余り地震を起こすなと」

「それはノイエにドラゴン退治を辞めろと?」

「地震を起こすなと言っているのだ。また少しの揺れならこの場所に住む者は何とも思わんが」

顎で先生が僕の背後を示す。

肩越しに振り返るとベッドの上のリリアンナさんがシーツを掴んで慌てていた。

「地震が無い場所から来た者はああして焦る」

「なるほどなるほど」

実例を見せられると納得した。

掴んでいたナーファの肩から手を放して窓の傍に移動する。

「ノイエ~」

「……はい」

本日もカラーリングを赤にして3倍の速度を得たノイエが僕の目の前に。

でも確か赤より白の方が速かったような気がする。赤は緑より3倍速いだけだ。

「しばらくドラゴンを地面に叩きつけるの禁止」

「むぅ」

しかしノイエが不満そうだ。

「なら軽くなら良いよ。地面が揺れるほどのは止めて」

「……ずっと?」

ノイエさん。地面に叩きつけるのが好きなのですか?

「リグのお姉さんが揺れるのに慣れるまでかな」

「……」

「小さいのに大きい人のお姉さんが揺れるのに慣れるまで」

「分かった」

言い換えて納得してくれたノイエが、口元のカラーリングを拭うと僕にキスして立ち去った。

「注意しました」

「……まあ良い」

何故か先生は納得いかないといった感じで呆れて見せた。

「城の方からの使者か? 昨日来たな」

改めて先生を加えて話し合いとなる。

参加者は僕とリリアンナさん。それに先生だ。

ナーファは腕をザックリと切った患者さんの治療に向かった。僕から見たら大怪我なのだが、キルイーツのオッサンが言うには、『消毒して縫うだけの簡単な治療だ。あれで十分』とのこと。

見習い医者は少しでも先輩の背中に追いつきたくて頑張っているそうだ。

リグの壁は結構高いと思うんだけど……そんな話をしていたらリリアンナさんが嬉しそうな、何とも言えないような複雑な表情を浮かべていた。

「で、何か言われました?」

「別に無いな。ただここに居るのかという確認だ。寝ている彼女の顔を見せたら納得して帰った」

「顔を見せたのですか? その……」

「案ずるな。一応拭いてから見せた」

リリアンナさんが顔を真っ赤にしてモジモジする。

拭いてからじゃないと見せられない顔ってナンデスカ?

治療と言う名のアダルト行為の後だ……きっと危ない表情を浮かべていたのだろう。

「忘れておった。この馬鹿王子」

「はい?」

僕もリリアンナさんを弄んだことの追及を忘れていましたが。

「彼女をどうする気だ?」

「……どうしましょうかね」

「おい」

バシッと膝を叩いて先生が睨んでくる。

落ち着けエロ親父よ。リグの従姉だからって熱くなるな。

「陛下の判断待ちになると思いますが……たぶん無かったことにするんじゃないんですかね」

「無かったことだと?」

「はい。つまり亡国の王女は存在して居ないということです」

言って僕はリリアンナさんを見る。

「フグラルブ王国は滅んでいます。その場所に暮らしていた者たちは散り散りになり、今更集めて改めて国を興そうにもあの場所で暮らすことを望む者は少ないかな」

ぶっちゃけ人が住むには適していない場所だ。

そんな場所に国が存在して居たのは、国民全てがその場所に生きて故郷だったからに他ならない。どんなに不便でも田舎暮らしをするお爺ちゃんお婆ちゃんの心情と同じだ。

その場所に生きて死にたいのだ。

「国がなくなり故郷がなくなった今、またあの場所で……とはなりません。離れて他の場所で暮らせばあの場所がどれ程住み難いか分かっていますしね」

何より月日がたち過ぎている。

「だから陛下は把握はすれども僕の報告を無かったことにすると思います」

そう踏んでいるから今日の僕はお城に行ってお兄様の愚痴を聞くのが主な仕事だ。

愚痴を聞いてから更なる爆弾を投下する予定だけどね。帝国から保護したあれらの話をすればしばらく陛下は身動きとれまい。

「で、先生」

「何だ?」

質問に答えたのだからこっちの問いに答えて貰おうか?

「リリアンナさんに昨日何したか詳しく説明して貰いましょうか? 言わないのであればこの一件リグに報告しますけど?」

「おまっ……卑怯だぞ?」

何を言う。この場合は卑怯は最大の誉め言葉です。

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