軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ねえ魔女ちゃん?

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「この馬鹿っ!」

「げふっ」

「この馬鹿っ!」

「がふっ」

「この……」

何発目か分からない先生の全力枕攻撃で僕はベッドの上に倒れ込んだ。

両肩で息をする先生の目はとても恐ろしい。狂暴な猟犬のような目だ。

ただその姿は最後に見たままだ。つまり全裸だ。犯人は……彼女の寝間着を脱がした僕だろう。

「私に強いお酒を飲ませて襲うだなんて!」

「だからお酒は先生が、ごふっ」

全力の横殴りだ。

ベッドの上に居て器用に回避しているノイエが凄い。

僕もあの反射神経が欲しいが、先生の狙いは僕だから逃げられないのか?

「私があんな強いお酒を口にする分けないでしょう!」

「でも上機嫌でこの部屋に来た先生が知らない間に封を開けて、がほっ」

まさかのアッパーだ。

両手で振り回す先生の枕が確実に僕の顔を捕らえる。

「そんな訳ないでしょう! 昨日はノイエとお風呂に入ってから2人でここに来たでしょう!」

「だからその後上機嫌なノイエの相手をしていたら先生が、突き~!」

まさかの突きだ。顔面を狙った攻撃だ。少しは手加減をして欲しい。

と言うかまさか酔っていた時の記憶が飛んでいますか? あのデレた先生は、上を望んだ先生は一晩の夢だったんですか?

「お姉ちゃん」

「……なに」

ノイエの声に荒ぶるアイルローゼがようやく止まる。

「お風呂とご飯。仕事」

「……」

肩で息をしていた先生がノイエをジッと見つめた。

「今日は休むから2人で行きなさい」

「はい」

ひょいとベッドの上に立ったノイエが僕を担いで、安全に寝室から脱出できた。

妹と馬鹿弟子が部屋を出たのを確認し、アイルローゼは急いで扉を閉じた。

大きく息をしてから扉に背中を預ける。

両手で顔を覆いズルズルと背中を滑らせて座り込んだ。

《あ~!》

心の中でアイルローゼは絶叫する。

《何でどうしてあんな強いお酒を!》

覚えている。はっきりと覚えている。

昨晩はノイエに少しだが名前を呼ばれて嬉しかった。嬉しすぎた。泣きそうなほど嬉しくなって、つい視界に映った酒瓶に手を伸ばした。

祝杯な気分だったのだ。だから少しだけのはずが……。

「あ~!」

声を上げ立ち上がったアイルローゼはベッドに飛び込みジタバタと足を振るう。

出来れば昨日の夜に戻りたい。あんなのは自分ではない。

彼に甘えて自分からあんなことをするだなんて……何処の娼婦かレニーラか。男性の上に跨ってなどホリー並みのケダモノだ。

「……死にたい」

挙句に自分の恥ずかしさを誤魔化すように彼に八つ当たりをして、最低だ。

「勘弁してよね~」

「……」

声は可愛らしいがその口調に嫌な気配を感じた。

ため息を吐きながら体を起こしたアイルローゼは、自分の下に広がっているシーツを掴んでそれで裸体を隠すように身を包んだ。

「どこから湧いて出たのよ?」

「お答えしよう! 昨日の夜からここに居ましたが何か?」

「……」

殺意が込み上がって来る。

激情に身を任せて拳を振るいたくなったが、相手はあの伝説の魔女だ。唇を噛んで我慢する。

視線を向けて改めて確認すれば、小柄なメイドが椅子に腰かけ踏ん反り返っていた。

「それで何か用なの?」

シーツで身を隠しアイルローゼはベッドの上に座り直す。

今更裸を隠す意味があるのか……相手のことにそれに気づき、アイルローゼは顔を真っ赤にした。

「見てたの?」

「はい。最初から最後まで」

「……」

ケラケラと笑うメイドにアイルローゼはまた殺意を覚える。

「どうしてそんな怖い顔をするのかしら? 美味しいお酒だったでしょう? 私が魔法で最初は口当たりが優しいジュースのように飲めるようにしてあげたんだから。感謝してよね」

「だから」

カミーラ用に準備した酒精の強いお酒だと聞いていたが、口当たりが柔らかかったからつい勢いよく飲んでしまった。それが罠だったとは思いもしなかった。

「で、一気に大人の階段を昇った魔女さんに質問」

「大人って」

「あれ? 彼に跨ってあんな甘い声を」

「黙りなさい!」

流石に我慢できずにアイルローゼは椅子に座るメイドを睨みつけた。

ケラケラと笑ったメイドは、椅子から立ち上がる。

「質問は2つ。最初はゲートを何処に運ぶ気?」

「……決まっているでしょう?」

メイドの声にまだ怒っているアイルローゼは相手を睨み続けながらも返事をした。

「何処に置いても問題になる」

「そうよね~」

「だったら最初から一番問題になる場所に置けばいい。理由は簡単。私が王都から離れられないから」

「ええそうね。だって貴女はノイエと一心同体だものね」

軽い足取りで踊るように移動するメイドは、クルっと回ってポーズを決めた。

「なら次の質問」

「……なに?」

ポーズを解除し自然体に構えたメイドは、ベッドの上の魔女を見る。

「帝都で巻き上げた魔道具を独占したりしないわよね?」

「……」

内心でアイルローゼは舌打ちした。

馬鹿弟子もその存在を忘れている様子だから。このまま黙って独占を企んでいたのに……あの日先に消えた刻印の魔女がそのことを言いだすとは思いもしなかった。

「ねえ魔女ちゃん?」

「……」

猫のような身のこなしで近づくメイドからアイルローゼは後ずさる。

「お姉さんも楽しませてよ」

「……」

「まさか本気で独占する気なのかしら?」

後退することが出来なくなったアイルローゼに対し、メイドはどんどん接近する。

足元から詰め寄りキスするほどの距離に顔を近づけて来た相手に……アイルローゼはため息を吐いた。

「そっちの独占は無しよ?」

「私はそこまで腹黒じゃないわよ」

「……どうだか」

呆れる魔女に対し、小柄なメイドはその額にキスして顔を離した。

「昔の物だと製作に私が関わっているしね。逆に中期から最近の物の方が興味を覚えるの。私の技術がどのように変化し、進化したのか退化したのかを見るのが楽しいから」

「……分かったわよ。一応信じる」

これ以上抵抗しても相手は刻印の魔女だ。

どんな凶悪な手段で嫌がらせをしてくるか分からない。

と、腕を組んだメイドが軽く首を傾げた。

「あれ?」

「何かしら?」

メイドの視線が自分に向けられているのに気づきアイルローゼは出来ない後退を再開した。

「何で? どうして?」

「……何よ?」

「どうして毎晩してないのよ!」

「何をよ!」

突然変なことを言いだしたメイドにアイルローゼは顔を真っ赤にして怒鳴る。

察した。何かを察した。察して付き合ってはいけないという自身の感を信じた。

「宿ってないじゃないのよ!」

「だから何がよ!」

全身を真っ赤にしてアイルローゼは怒鳴った。

「決まっているでしょ、生命よ! 命よ! あれとの子よ!」

「むが~!」

発狂し、アイルローゼは近くにあった枕を掴むとメイドに投げつける。

飛んで来た枕を掴んだメイドはそれを抱いてクルクルとその場で回りだす。

「もう折角絶妙な状況で送り出してあげたのに……」

「だから何よ!」

「ああ。だから怒った振りして」

「煩い黙れ!」

魔法語を唱えだした魔女にメイドは笑いながら枕を放って寄こす。

咄嗟に受け取ったアイルローゼは口を閉じてしまった。

「あれ~? 余計なお世話だった?」

「余計よ!」

「あれ~? 青髪の子が欲していたから貴女もかと思ったんだけどね~」

ケラケラと笑いながらメイドは扉へ移動を開始する。

「そうそう。そろそろ全てを正常に戻すから、貴女の本体も魔眼に戻すわ」

「……」

「だから」

扉を開いて廊下に出たメイドが、頭だけ中に戻す。

「存分にその体で彼との行為を楽しみなさい」

「煩い!」

アイルローゼが投げた枕は、閉じられた扉に弾かれた。

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