軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僕をその気にさせる魔法

ユニバンス王国・北部上空

《面白いと言えば面白いんだけど……問題は間違いなく騒動の種になるってとよね~》

とはいえあの手堅い術式の魔女が手を貸しているということは、どうにか出来ると踏んでいるのだろう。

生まれ持っての性格もあってあの魔女は『無理』と思うことには手を貸さない。失敗して他人に不幸な出来事が起きるのを恐れるのだ。

同じ魔女と呼ばれる存在であっても考え方がこうも違う。

自分だったら……とりあえずで試作品を持たせて相手陣地に突入させる。思い通りに魔法が発動すれば成功作。しなければ失敗作だ。次回頑張りましょうで片が付く。

《一応制作に関わっているからある程度の仕組みは理解しているんだけどね。まあ移設するぐらいなら武力は要らない。簡単な下準備と……後は移設先を何処にするかよね》

クスクスと笑いながら横にした箒に座り、メイド服姿の少女は北へ向かい突き進む。

「あれがあれば色々と楽しめるし、今回だけは手を貸してあげるかな」

上機嫌で鼻歌を奏で、刻印の魔女は目的地へと急いだ。

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「弟子。それを見せなさい」

「お断りします」

「あん?」

「だってあのホリーを黙らせることが出来る道具だよ? 僕の生命線です」

「大丈夫。私が作れる物なら同じ物を作って渡すから」

「……作れなかったら?」

「それでも新しい何かが誕生するわ!」

全力でそんなことを言ってくる先生に対し、僕は筒型の道具を自分の懐へと押し込んだ。

はっきりと見える形でアイルローゼが拗ねる。頬を膨らませて椅子代わりにしているベッドの上で膝を抱いてこっちを睨んでくる。

うん。その姿が可愛い。

「先生も新しい魔法を貰ったでしょう?」

「あん?」

露骨に嫌な顔をしないで。

「それって使ったらどんな感じになるのかな?」

「これ以上強くなりたいの?」

「強いのかな? 人並みだと思います」

僕の知る薄い本での知識だと……男子たる者、一晩でも一日でも腰が振れないと駄目なのです。それが出来ない僕はまだまだダメなのです。半人前です。人並みです。

「で、どんな魔法なの?」

「……」

ベッドの上に転がっていたスクロールを手にしアイルローゼがそれを広げる。

「身体強化? 初めて見る魔法形態ね」

アイルローゼは初見らしいが、あっちの世界を知る僕からすればかなり馴染みのある魔法だ。

「普段ノイエが使っている魔法じゃないの?」

あの超機動のカラクリはこの魔法だと僕は睨んでいる。

「あれは魔眼の中の術式を同時に展開している力技よ」

「はい?」

「だから力技なのよ」

何故か先生が呆れながら僕を手招きする。

「上着を脱いで私に背中を向けなさい」

「はい」

言われるがまま上着を脱いで先生に背中を見せる。

すると先生の指先が僕の背中に触れた。

「先生」

「ん?」

「指先の動きで何かに目覚めそうです」

「……」

思いっきり背中を引っ掻かれた。

「ちょっとした冗談やん」

「笑えないのよ」

怒りながら先生がまた指先を動かす。

「術式とは違って刻印の魔女の魔法はこの陣と呼ばれる円形の式を用いることが多いのよ」

「たぶん魔法陣だと思います」

「何よそれ?」

「僕もうろ覚えなんですけどね。力を循環させやすい形……だから円形だったと思います」

他にも色々と詳しい説明をしていた気がしたが、漫画やアニメのライトユーザーな僕ではそこまではっきりと知識は持ち合わせていません。

「つまり異世界の魔法?」

「はい。それもこっちの世界で言う大人向けの絵本に描かれていた空想の理論です」

ただその空想を現実にしちゃうのがあの馬鹿だ。

もしかしたら魔法を弾丸に詰めて鉄砲で撃ち出せるような魔道具も作ってくれるかもしれない……作ってないよな?

クルリと先生の指先が僕の背中に円を描き、その上から色々と模様を描いて行く。

「刻印の魔女の魔法に求められるのは、とにかくこの図式を正確に読み解き模倣すること。それが出来ないとこの魔法は発動しない」

「先生なら楽勝じゃないですか」

「簡単に言うわね?」

「だって先生は術式の魔女ですから。それぐらい簡単でしょう?」

「言うに事欠いて……!」

また先生の爪が僕の背中を抉る。

「本当に難しいのよ」

「怒らないでよ?」

「知らない」

沈黙したアイルローゼが暫し手から口を開いた。

「……間違えられないでしょう」

「はい?」

「間違えられないの!」

怒った先生の平手が背中を打った。

「貴方に何かあったらどうするのよ……馬鹿」

「大変だ先生。突然僕が元気に!」

「勘違いよ。まだ使ってない」

いいえ貴女は使いました。僕をその気にさせる魔法を。

パチッと先生の掌が僕の背中を叩いた。

「これで良いははずよ」

「何故にもう一発?」

「そんな気分だっただけ」

「酷い……」

叩かれた皮膚から先生の掌は離れず、そして魔法語がアイルローゼの声にとして響いて来た。

「熱いんですけど?」

「……」

「アチチッ!」

背中が余りにも熱いのだけど、先生の手が離れてくれません。

焼かれる肉の辛さを堪能していたら先生の手が離れた。

「どう?」

「背中が熱いです」

「効き目よ」

「……」

視線をマイサンへ。

「無反応です」

「失敗かしら?」

「またまた~。先生が失敗するだなんて」

「ちょくちょく間違えるわ。相手はあの刻印の魔女の魔法よ? そう簡単に扱えないわ」

そう告げて先生は何度か繰り返し魔法を発動させた。

が、僕の息子さんは普段通りなのです。

「無理みたいね」

「諦めないで!」

「諦めたのではなくて作った本人に使わせれば良いのよ」

「その手があったか!」

と言う訳で、『次回あのメイドを追え!』だな。

追う必要もなく勝手に迫って来るけど。

スクロールを丸めて先生がそれをベッドの上に投げ捨てた。

「今日はお城に行く気がなくなったわね」

そんなことを言ってアイルローゼがゴロリとベッドの上で横になった。

ぶっちゃけ上はシャツ。下は下着姿で生足を晒している。

そんなエロい姿をしていてお城に行く気だったんですか?

「先生大変だ」

「何よ?」

「先生の足を見てたら興奮した」

「……いつものことじゃないのよ!」

怒りのままに起き上がった先生に背中を叩かれた。

その振動で彼女が乗っていたベッドが大きく揺れ、上着に包まれていた対ホリー用の魔道具が床の上に転がり落ちた。

「……」

好奇心の虫が!

急いで拾い上げて先生に向けて道具の先を向ける。

ベッドの上に居る彼女はノイエと違って咄嗟に交わすなんて無理だ。

ポチっとスイッチを押したら……先生が大変なことになった。

「ちょっと弟子! あの魔女の道具をそう簡単に使うだなんて……弟子?」

「……」

先生の不安げな声が、何と言うかちょっとしたスパイスに感じる。

これはダメだ。僕が平静な状態でも一瞬で興奮する。何より今現在、大興奮時代だ。

みんなで大海原に漕ぎ出そうぜ!

「そんな訳でいただきます!」

「弟子~!」

男性を誘うような状態になったアイルローゼが悪いんだと思います。

結果として先生の魔法は成功していたらしい。

僕は延々と頑張って……ノイエが帰宅するまで頑張った。感動した。ありがとう。

ぐったりとして動かなくなったアイルローゼを見てノイエが詰め寄って来たが、だったら同じだけノイエを愛してあげれば良いのです。

気づけば夜中までノイエと2人頑張っちゃいました。

「アルグ様?」

「うん。分かってる。でも流石に2日連続で休んだら怒られる気がするんだよね」

「はい」

頷くノイエに抱えられ僕は馬車の中へと入る。

本日のアイルローゼはお休みだ。昨日の疲労で完全に燃え尽きている。

今朝目を覚ました彼女は、ずっと赤い顔でプルプルと震えながら僕を見つめていたのは……調子に乗り過ぎたか? 近いうちに僕は先生のお仕置きを受けることになるかもしれない。

「アルグ様」

「ほい?」

馬車の中に入るとスリスリとノイエが近寄り甘えて来た。

「またたくさんして欲しい」

「あれは先生の協力が必要です」

それと僕の根性と何かが重要です。

「分かった」

ノイエらしからぬ素直な返事か?

「お姉ちゃんを説得する」

「……頑張れ」

「はい」

たぶん今朝の様子からアイルローゼは協力しないと思うけどね。

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