軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お姉ちゃん病気?

ユニバンス王国・王都郊外街道

「どうして?」

驚愕の様子でノイエのアホ毛がヘニャッとなった。

馬車の中だから色々とフリーな時間だ。

我が家の馬車は御者席が存在して居ても御者が居ない。普段ならミネルバさんが座って居るが、今朝から彼女の姿を見ていない。昨日から様子が変だったから休んだのかな?

勝手に馬車を引いて進むナガトを止める人は居ない。この馬は子供や女性が前に出て来ると止まるが、後は視界に入らないのか普通に轢こうとする。

それが知れ渡っているので我が家の馬車が通る時は人が避ける。避けずに慰謝料欲しさに頑張る勇者も居るらしいが、ギリギリでナガトがそんな勇者を咥えて運び……隅に積まれている馬糞の山の中に投げ込む。

よって何の気兼ねも無く会話が出来る。

ただ姉との会話でノイエの元に絶望がやって来ていたが。

「お姉ちゃん病気?」

「病気は貴女よノイエ」

「違う。普通」

「異常よ」

バッサリと姉が妹の言葉を切り捨てた。

ノイエの白い顔から増々血の気が失せて行く。

「昨日だってあんなにしたのに……今日もするって変でしょう?」

「普通」

「異常よ」

アイルローゼの言葉に容赦はない。

ノイエがいつも通り『帰ったらする』と言い出したら、先生の全否定だ。

先生が言うには『やり過ぎ』らしい。何と正しい言葉なのでしょう。

「そもそもノイエ。前から聞きたかったのだけど……貴女、彼もご飯を食べれば元気になるとか思ってない?」

まさかのアホ毛が『!』だ。そのリアクションに僕がビックリだよ。

「……違うの?」

「違う。それは貴女だけよ」

「ふぐっ!」

衝撃の言葉だったのかノイエがまん丸になるまで目を見開いた。初めて見た。

これは感情なのか? 少しは表情筋が仕事を思い出したのか?

「彼はご飯を食べても回復しないの。もちろん私もよ」

「……」

努めて平静なアイルローゼの言葉に、ノイエが馬車の中で崩れ落ち……膝を抱えて拗ねだした。

「毎日したい」

「別に毎日するのに文句は無いのだけど」

ノイエが復活する。僕の中の何かが萎えたけど。

「ただ普通は1回ぐらいで終わりらしいわよ?」

「嘘」

「本当よ」

「……青い人が」

「あれは特殊な異常者よ」

「……朱色の人も」

「あれは考え無しの快楽主義者よ」

「……ファも」

「あれは猫だから人じゃない」

「……」

また拗ねたノイエがクッションだらけの馬車の中で横になってしまった。

我が家の馬車は普段僕とノイエが横になってラブラブ出来るようになっているからたくさんのクッションが存在して居る。ただ現在は中央で優雅に横になるアイルローゼ様と彼女の足元で拗ねて横になっているノイエが居る。

僕は普段ポーラが膝を抱いて座って居る端に居る。もちろん膝を抱いてだ。

「ノイエ?」

「知らない」

「毎日しても妊娠しないのよ?」

「でもいつかできる」

「……間違いでは無いけど」

そこで折れないでアイルローゼ。

僕の何かが本格的に枯渇してしまうから。

「でも妊娠したらドラゴン退治が出来なくなるのよ?」

「嘘?」

「本当よ」

「……頑張る」

「無理よ」

「どうして?」

「全く……」

駄々っ子な妹の扱いになれているのか、アイルローゼが深いため息を吐く。

「妊娠している時に激しい運動はダメなの」

「激しくしない」

「どうするのよ?」

「全部撃ち落とす」

何をどうやってどんな手段で撃ち落とすのかも気にはなる。

「地面の上に居るのは?」

「……角度を付けて」

「見えないでしょう?」

「邪魔するものは全部薙ぎ払う」

「誰の言葉よ。その指は何よ? 人に指を向けてはいけないって教えたでしょう」

アイルローゼが全力で何かを誤魔化したよ。

「薙ぎ払うのも場所を選ぶのよ」

「でもお姉ちゃんは言ってた。目の前の全てが邪魔なら薙ぎ払えば良いって」

「……」

否定してよ。言ったの? 全力で目が泳いでますけど言ったんですか?

「きっと酔っていたのよ」

「朝だった」

「なら深酒が残っていたのね」

「あそこにお酒は無かった……痛い」

先生が掴んだクッションノイエに放った。

あながちノイエの言葉が間違いでは無いという一例である。

「そもそも運動が良くないの。何かを投げるにしても体を動かすでしょう?」

「……」

ノイエさんのアホ毛がクッションを掴んでそれを投げようとしている。

流石に巻き付けるから簡単には投げられない。と言うかアホ毛でドラゴンを退治できるようになったら君は最強のドラゴンスレイヤーとして歴史に名を残すよ。

「ノイエ」

「なに?」

「最近それを使い過ぎよ」

「むう」

何故かノイエが拗ねてアホ毛で掴んでいたクッションを落とした。

「貴女は基本怠け者だから楽が出来ると知ると直ぐにそうして」

「何も聞こえない」

ノイエが耳を押さえて横になった。

「全く……みんなして甘やかすからノイエがこんな風に……何よ弟子?」

「いいえ。何でもないです」

結局先生も甘やかすからノイエがこうなったのではと言う言葉を飲み込みました。

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「む~」

「はいはい。足をバタバタさせない」

「む~」

「はいはい。アホ毛をパタパタさせない」

ノイエの足を押さえたらアホ毛がパタパタと暴れ出した。

また先生が怒り出すとあれだから手を伸ばしてアホ毛を捕らえようとしたら、全力で逃げ回る。そろそろ猫が見たら玩具かと思って遊び出すぞ?

ベッドの上で横になっているノイエの機嫌は斜めのままだ。

帰宅してから夕飯を自棄食いし、それからお風呂場で大暴れをして寝室に戻って来た。その全てに付き合っているアイルローゼも機嫌を悪くしてテーブルに頬杖をついている。

さっきまで何か作業をしていた様子だが、今はたぶん拗ねている。

「ノイエ」

「む~」

「そろそろ寝なさい」

「……」

無言で上半身を起こしたノイエが僕を捕まえるとキスして来る。

もうこれでもかと濃厚なのをしてから、手を放してベッドの上に横になった。

「お休みなさい」

「はい」

目を閉じると一気に急速潜航するのがノイエだ。もう寝息を立てている。

「お疲れ様」

ベッドを降りて先生の下へ向かうと、拗ねたままで先生が言葉を投げて来た。

若干棘があるけど、お風呂場の一件は僕のせいではない。先生が一緒の入浴を拒否したから、僕がノイエを制止できなかったのだ。

「ノイエは元気ね」

「先生が居るから嬉しいんですよ」

「どうかしら?」

先生が座って居る椅子の後ろに立って彼女越しに作業の様子を伺おうとする。

小さく笑って先生がバラバラにした腕をテーブルの隅に退けた。どうも先生は作業しているところを僕に見られるのが好きじゃないらしい。

退かされた部品……レイザさんの腕が奇麗に分解されていた。これってちゃんと直りますか?

「それって直るんですか?」

「肘の部分の故障ならもう修理は終わったわよ」

「はやっ」

流石術式の魔女だ。

「問題は皮膚よ。材料が謎で再現が出来ない」

「それは仕方ないんじゃ……無理は良くないですよ?」

「分かっているのだけどね」

手を組んで先生が軽く背伸びをする。

僕に当たらないように前に向かって腕を伸ばしてから軽く肩を回した。

「でもどうにかするわ」

「そうですか」

「だから貴方ももうノイエと一緒に……何よ?」

先生の脇の下に手を入れて相手を無理矢理立たせる。

そっと向き合うように彼女をこっちに向けさせた。

「だから、あむっ」

キスして相手を抱き寄せる。

これでもかと味わってから顔を離すと、真っ赤になった先生がちょっと可愛く見えた。

「アイルローゼ」

「なに、よ……」

「根を詰める必要はもう無いんですよ。今は平和ですから」

「……」

軽く驚いた表情を先生は浮かべた。

「だから急ぐ必要は無いんですよ。魔眼に戻るまでに直ってれば問題無いです」

「……そうだったわね」

ずっと期限に追われていたであろう先生に休みの大切さを教えたいです。

でも今夜はせっかく先生が静かな夜を作ってくれたのだから……のんびりしたい。

「よいしょっと」

「きゃっ」

アイルローゼを抱き上げベッドに向かう。

「……しないから」

「のんびりしましょうよ。今夜ぐらい」

「そうね」

クスッと笑って先生が頬にキスしてくれた。

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