軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤ちゃんたちを守ってあげてね

ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室

ポーラが居ないとニクを連れて来ることを忘れる。

アイルローゼが腰かけているソファーの上に転がっている宝玉を見て、ようやくニクの存在を思い出したのは僕だけの秘密だ。

叔母様はお仕事があるとかで魔道具制作の注文をすると、復讐に来たチビ姫の顔面を掴んで引き摺り去って行った。

ただ何度でも復活するチビ姫のことだ、明日には回復してまた来るだろう。

叔母様が立ち去る前にファシーの服が戻って来た。

ハンガーに掛けられた濡れている衣服に対し『なんで私が……』と不満を言いながら魔法を使って僅かな時間で乾かしてしまうのがアイルローゼの優しい所だ。

着替えたファシーはフードを被り嬉しそうに鳴いていたら、ピタリと動きを止めた。

『何事でしょうか?』と見ていると彼女は『そろそろ』と呟き、アイルローゼがため息交じりに魔法語を唱えると……猫が光って宝玉に変化した。

一体どんな魔法かと思えば、ただの発光魔法らしい。それらしく演出してファシーを送還したように見せたのだ。

こうしてアイルローゼが召喚しているということになれば、彼女の価値がまた一段と高まって……僕が大変面倒なことになる。そこは我慢か。うん。

それから先生はひじ掛けに体を預けてだらけだし、僕はクレアを玩具に机の上に存在して居る書類の山をどうにか消せないかと本気で考える。

とても平和な時間だ。この時間が長く続けば良いと心底思う。

日が傾けば今日の仕事も終わりと言うことで、イネル君とクレアが仲良く手を繋いで帰宅していく。『……私が求めるのってああいうのだと思う』と何故か先生が不思議な言葉を呟いていた。

御年〇十代後半の人がティーンな恋愛とか求めるのはどうなのでしょうか?

少なくとも貴女の本来の年齢の方だと、徘徊するかの如く男性の子種を求める獅子になっているはずです。

具体的に言うと、ミシュとかミシュとかミシュとかリリアンナさんとか?

多くを語らず先生を見つめていたら何故か怒り出したので、相手にすると時間が掛かるので苦情なら帰宅してから聞こうと、無視して帰宅準備をしていたら先生が拗ねだした。

何となく分かって来たことがある。実はアイルローゼって我が儘ちゃんでしょう?

対処に困っていると仕事を終えたノイエがやって来た。

もう普通に外から窓を開けて中に入って来た。鍵がかかっているのにだ。

アホ毛がね、窓の隙間からスルッと入って来て鍵を外したんだ。何でもあり過ぎでツッコむ気力が流石に失せた。

拗ねて歩くことを拒否するアイルローゼは、背負うと衣装的に色々とアウトなのでノイエに彼女を抱えて貰い、宝玉はアホ毛の上で曲芸だ。もうノイエの器用さに僕は何も言えない。

レイザさんの腕も預かったし、仕事は明日以降の僕が頑張る予定らしいので今日の僕は何も知らないってことで……。

「帰ろう」

「はい」

帰宅することにした。

「にゃっ!」

可愛らしい力のある声に……セシリーンは自分への被弾が2発で済んだことを何かしらの何かに感謝した。左のわき腹と右足の先がファシーの魔法で奇麗に斬られたが、立って歩く予定はないので特に問題は無い。ただ痛いのと腹部への攻撃は背筋にゾゾっと冷たい物が走る。

本体では無いから大丈夫のはずなのに、どうしてもお腹に宿った生命が気になってしまう。

「……ホリー、は?」

「向こうで死んでるわよ」

「死んで、るの?」

攻撃が無かったことを不審に思ったのか、てとてとと歩いて来た猫は歌姫が指さす方を確認する。

頭部をグズグズにさせた死体が転がっていた。

全身に斬られたような真新しい傷痕が見えるが、死因は頭部の破壊だ。

「誰が、こんな、酷い、ことを?」

「追い打ちで死体を損壊させたのは……まあ良いわ。犯人は刻印の魔女よ」

「そ、う」

早々に興味を失ったのかファシーは見ていたホリーの遺体をもう少し邪魔にならない隅へと引きずって行くと投げ捨てた。

そのうち復活するから、その時改めて対処すれば良い。

「……母さ、ん」

「何かしら?」

自分の前に来たファシーにセシリーンは優しく微笑み返す。

ふと脇腹に小さな手が触れた。

「痛、い?」

「平気よ。奇麗に斬れたからしばらくすればくっ付くわ」

「……ごめんな、さい」

「大丈夫よ」

微笑みセシリーンは両手を広げて猫を自分の方へ招く。

多少戸惑いを見せながらも……ファシーは歌姫に抱きついて甘えだした。

「昔のファシーなら、笑いながらもっとたくさんの刃を私に降らせていたはずよ。でも今は違う」

フード越しに可愛らしい猫の頭を撫でる。

「極力私にあてないように気を付けてくれた」

「……母さんを、傷つける、のは、ダメだから」

「ええ。でもここが傷んだでしょう?」

手を動かしセシリーンは小さな猫の胸に手を当てる。

「平気。慣れ、てる」

「ええ。ファシーは我慢する子だものね」

ずっとずっと我慢し続けて自分の内側を、性格を、感情を、色々な物を捻じ曲げてしまったのがファシーだ。

本来なら優しくて、きっと普通の家庭に生まれていれば、幸せに過ごしていただろう。家族から愛されて……そんな気にさせてくれる良い子なのだ。

「母さ、ん」

「な~に?」

「……生まれて、ごめんな、さい」

甘える猫の本音が時折セシリーンの胸を打つ。

ギュッと抱きしめ歌姫はファシーの耳に唇を寄せた。

「良いのよ。これから貴女はみんなの子供を守る存在になれば良いの」

「……守る?」

「ええ。お姉ちゃんなら出来るわよね?」

「は、い」

何度も何度もセシリーンはファシーにそう言い聞かせる。

否定の言葉で育ってきたファシーに必要なのは、彼女がどれ程“必要”なのかと言う言葉だ。

「赤ちゃんたちを守ってあげてね」

「は、い」

「もちろんファシーも産んで良いのだから」

「は、い」

「それに……」

そっとセシリーンは猫を抱いて息を吐く。

腕の中の存在がコクンコクンと舟を漕ぎだしていた。

昨夜も彼を襲い元気に吠え続けていた猫もどうやら限界らしい。

「寝るの?」

「……は、い」

「お休みなさい。私の可愛いファシー」

「……」

小さな寝息を立てだしファシーは眠る。

本来何日も寝なくても特に辛いと感じることはない体だ。そうやって魔眼の中で過ごしてきた。

けれど彼とノイエが結婚してから……中枢に来る者たちは睡眠をとるようになった。最初からずっと眠り続けているリグと言う特殊な存在も居るが、それ以外は本当に自由だった。

《気のせいか少しずつ人間に戻っているような気がするわね》

ホリーや刻印の魔女のような難しい話はセシリーンには分からない。

もしかしたら自分が感じている感覚が、何かしらの答えの1つなのかもしれない。

でもセシリーンはそれを公にする気は無い。

自分が気づけることなのだから、ホリーたちがもう気づいていてもおかしくはない。

下手に知ったようなことを言えば、1の言葉が10の言葉の刃と化して戻って来るかもしれない。

恐ろしすぎてそんな地獄は見たくもない。

「あら?」

気づけば眠った猫がグイグイと胸を押してきた。

猫の習性なのか、ファシーの母親を求める行動なのかは分からない。

でも可愛いからついセシリーンはその行為を許してしまう。

昨夜あれほどノイエと2人で彼を襲っていた人物と一緒であることを忘れて。

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