作品タイトル不明
ノイエな口調で!
ユニバンス王国・王都王城内
「それで……今朝からノイエは勤務に戻ったのだな?」
「そのようです」
近衛団長を連れその昔国民に対し使用していた演説用のバルコニーに立ち、国王シュニットは王都郊外へと目を向ける。
抜けるような青空の中で1人の女性が宙を踊るように進んでいた。
遠目で見ると白い妖精のようにすら見える。
長い白銀の髪をなびかせ宙を移動するドラゴンスレイヤーは、空中で蹴りを一発入れて方向転換すると自分に襲い掛かろうとしていたドラゴンを捕まえ……その口に手をかけて上下に引き裂いた。
血肉を撒き散らすドラゴンを置き場と化している場所に投げ込む。
流れるような動作でその全てを行ったドラゴンスレイヤーたるノイエは、次の獲物を求めてまた宙を蹴り突き進んでいく。
天空を支配する強者であるドラゴンを狩る狩人。それがユニバンス王国が誇るドラゴンスレイヤー、ノイエ・フォン・ドラグナイトだ。
「元気そうであるな」
「あれが不調な様子など想像できませんがね」
「そうだな」
弟の言葉に苦笑し、シュニットは室内へと戻る。
国王の執務室に……今日、一番会いたい人物は居ない。
朝一で国王命令で登城を命じたのにも関わらず、あの馬鹿者は来ていないのだ。
ゆっくりと額に手を当て、シュニットは静かに頭を振った。
「ハーフレン」
「早朝にドラグナイト家に対し騎士を派遣しました」
「ならば何故あれは居ない?」
「……明日以降、登城するとのことです」
十分すぎる間を取り、近衛団長はそう返事をした。
「ハーフレン」
「はっ」
「私はこの国の国王だと思うのだがな?」
「はい」
「……それであれは臣下であったな」
「はい」
「……何故居ない?」
これはもう完全に怒っていると理解し、ハーフレンは内心で肩をすくませた。
「何かあれば陛下があれを庇い立てて来た弊害かと」
「つまり近衛団長は私が悪いと言うのだな?」
「悪いとは断言しませんが、甘やかしすぎたとは言えるでしょう」
「そうか」
容赦ない弟の言葉に兄であるシュニットは静かに目を閉じて深く頷いた。
「明日あれに会って……今後の方針を決めるとしよう」
「ドラグナイト邸を強襲しないのですか?」
念の為の提案だ。実行しないとハーフレンは理解していたからこその質問だ。
「近衛でノイエを押さえられるのか?」
「無理でしょうね」
「ならノイエが復帰したのだ。今日より無理をさせた者たちに休養を与えるべきであろう?」
「そうですね」
応じてハーフレンは待機していた部下に国王の指示を伝えるように走らせる。
「忘れていました。陛下」
「何だ?」
今思い出したかのようにハーフレンは口を開いた。
「現在ドラグナイト邸に“魔女”が滞在している可能性があると、我が家のメイドが申していました」
「……近衛団長?」
「あくまで可能性の話だったので」
告げて来る弟にシュニットは苦笑する。
もし近衛にドラグナイト邸への強襲を命じていれば、近衛団長は迷うことなくそのカードを切っていただろう。つまり『現在ドラグナイト邸に魔女が“滞在”している』と。
居ると言う可能性ではなく、居ると断言してだ。
「どうも私だけがあれに甘いとは限らないと思うのだが?」
「そうでしょうか? 少なくとも自分よりかは甘いかと」
「そうか?」
「はい」
「ならば、そういうこととしよう」
何だかんだで弟に対し甘い兄たちであった。
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「……」
「ほ~れ。ほれ」
「……にゃん」
相手の目の前でお手製の猫じゃらしを揺すったら、猫が可愛く飛びついて来た。全力でじゃれるのでそのまま捕まえる。
「なぁん」
「うりうり」
「なぁあん」
顎の下をくすぐったら全身を揺らして猫が甘い声を出す。
うむ。我が家の猫は本当に可愛い。だから全力で甘やかす。今の僕には癒しが必要だ。
午前中は昨夜の行為で色々と燃え尽きてしまったので、体力の回復に努めた。
午後からこっそりお城に行こうかと思ったんだけど、ジッとこっちを見ている先生を無視することが出来ずに結局寝室でゴロゴロしていた。
今日はお休みで良いやと思っていたら……突然猫に襲われた。
たっぷりとキスされてから、猫がアイルローゼの冷たい視線に気づいて逃げ出したのだ。
それを捕まえるために急いで猫じゃらしを作ってカーテンの裏に隠れた猫を誘導した。
「ファシーが借りて来た猫のようね」
3人掛けのソファーを運び込み、それで横になった先生が僕らを見て呆れている。
お腹を出して『もっと撫でて』状態の猫に呆れている様子だが、ぶっちゃけノイエの無茶で腰が砕けて立ち上がれない先生も今のファシーと同レベルな気がします。
「何よ?」
「腰は大丈ぶっ!」
先生が投げて来たクッションが僕の顔を直撃した。
「にゃん?」
「あ~。気にしなくて良いから」
「にゃ~」
甘える猫がスリスリして来るので頭を撫でる。
うりうりと撫でていたら、猫が何かを感じて立ち上がり歩いて行く。
開いた窓からリスが飛び込んで来て、置かれているタオルで手足を拭う。真面目か?
「おいで」
ファシーが呼ぶと、リスが死地で女神にでも出会ったかのように喜んで見える。
そして全力ダッシュからの飛び込みだ。ファシーの胸に飛び込んで喜んでいる。
「偉い。頑張った、ね」
うりうりとファシーがリスを撫でると、リスが本当に嬉しそうに尻尾をパンパンに膨らませる。
もうあのリスがどんな感情なのか僕には分からない。何故かファシーの腕に体を擦り付け、喜びを体現しているようだ。
リスがビクッと震えて動きを止めた。
「ん?」
ファシーが怪訝な声を上げる。
何とも言えない沈黙に、何故かファシーがふらりと歩き出した。
リスを猫持ちにして窓に向かって歩いて行く。
何故か全力で振りかぶると、彼女は掴んでいたリスを迷うことなく投げ飛ばした。
「どうしたの?」
「知ら、ない」
お怒りなファシーさんがタオルを掴み自分の腕を拭きだした。
もしかして……あのリスは粗相でもしたのか? と言うか発情したのか? マーキングか?
「お風呂入る?」
「いやん」
猫はやはり風呂が嫌いらしい。
だが汚れた猫をそのままにはしておけない。
「ノイエが来たらみんなで食事がしたいからお風呂です」
「いやん」
逃げ出そうとする猫を捕まえて抱え上げる。
観念したのかファシーが甘えて来た。
「アイルローゼは?」
「そろそろノイエが帰って来ると思うから一緒に入るわ」
「了解です」
ならばこの猫とお風呂に入るか。
「にゃー」
「はいはい」
「なぁー」
「暴れないの」
全裸に剥いたファシーを全身丸洗いし、湯船に向かう。
僕より年上だと言うのにその裸体はポーラと大差ない。
全体的に未熟に見えて……ロリコンと呼ばれたら僕は否定が出来ない。
「にゃ?」
「ファシーは可愛いね」
「なぁ~」
スリスリと甘えて来る彼女は可愛い。
ただ現在のファシーは猫耳フードを外しているから猫ではない。
「ファシーさん」
「にゃん?」
「今は猫じゃ無いでしょ?」
「……」
指摘したらファシーが一瞬で真っ赤になった。
慌てて両腕で頭を隠す。
「い、や」
「ほほう。ファシーも恥じらいますか」
「見ない、で」
「可愛いな~」
本当に何て可愛いのでしょう。この子は。
ツンツンとファシーの頭を突いていると、彼女が前髪越しにこちらを見た。
「アルグ、スタ、様」
「なに?」
「アイル、ローゼと、したの?」
全力で彼女の顔から顔を背ける。
だが小さな手が伸びて来た僕の頬に触れるとグイっと元の位置へ。
「した、の?」
「……はい」
認めよう。そして僕は逃げない男で居よう。
「した、んだ」
「はい」
「……にゃん」
猫に戻ったファシーが僕の首に噛みついて来た。
「痛い痛い」
甘噛みだけど大げさに痛みを強調したら、ファシーの口が離れた。
「……する」
「はい?」
「私も、する」
「ノイエな口調で!」
一度火が付いた猫は自分が肉食獣であることを思い出し、本当に容赦がないんです!
抵抗空しく……結局ファシーに襲われ、マウントポジションを得た猫の猛攻に伸びていると、ノイエに抱えられてやって来た先生から、汚物でも見るような目を向けられました。
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