軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ほぉりぃ~!

ユニバンス王国・王都魔法学院女子寮地下

「あう。あ~う」

「おはよう。エクレア」

「あ~う」

今朝も元気に愛娘が手を大きく動かしている。

フレアは娘の為に作った寝床から我が子を抱き上げ、片手で器用にメイド服の前を開いた。

まずは朝ごはんからだ。

今が朝なのかは地下室であるこの場所では判断できない。けれど日々培った体の中の時計はそう簡単に狂ったりなどしない。故にフレアは今が朝だと信じていた。

んくんくと食事をする我が子は本当に愛おしい。

こうも周りの目を気にしない場所に来たのは良くなかった。

全力で我が子を甘やかしている。物心つく頃には厳しく接して、出来れば次世代の国王陛下の専属メイドとして何処に出しても恥ずかしくない人材に育て上げる予定だ。

「もう良いの?」

「あ~う」

「はいはい」

軽く背中を叩いてゲップを吐かせ、口元を拭って一度ベッドの上に横たえる。

急いで自分の身支度を整え……フレアはようやくベッドの上に目を向けた。

始めた見たような気がする。

彼女の寝ている姿は何度か見ている。が、ここまで燃え尽きている姿は初めてだ。

ベッドの上でうつ伏せになり、もう動きたくないと言いたげに周りの全てから意識を隔離している様にすら見える。

ノイエは完全に力尽きていた。

「一晩でそんな風になるなんて……まだまだ子育てなど出来ませんよ」

流石のドラゴンスレイヤーも子供相手にはその力を振るえないらしい。

滑稽と言うか可愛らしい年下の元上司の姿にフレアは我が子を抱きあげて部屋を出た。

ツーンと鼻を刺すアルコールの臭いに一瞬メイドは眉をしかめる。

犯人は3本のワイン瓶を空にしていた。

「先生」

「……何よ」

ソファーの上で膝を抱えて座っている師である人物にフレアはため息を吐く。

これはあれだ。自信を持って作った魔道具が思ったように動かなかった時の反応だ。

「失敗したんですか?」

「……してない」

「なら“成功”したんですか?」

「“性交”は……したわよ」

返事も昔のままだ。

ただ唯一違うのは、今にも泣きだしそうな顔をして……師である彼女は両手を伸ばしてきた。

「貸して」

「……エクレアをですか?」

「そうよ」

「でも」

「良いから貸して」

請われると断るのが難しい。

昔からの習慣でフレアは師である彼女に近づき娘を手渡す。

「……フレアが産んだのよね?」

「公表できませんけど……先生?」

抱きかかえている我が子の頭に手を置く師に、フレアは何とも言えない目を向ける。

様子と言うか雰囲気が、探求心溢れる魔女そのものに見えたからだ。

「この大きさが出て来たのよね?」

「……もう少し小さかったですよ? 生まれた時は」

「でもこの大きさが、この胴体よりかは細くなかったわよね?」

「ええ」

「だったらどうしてこれより細いのがあんなに痛いのよ!」

「……」

察した。何処か気配が違うとも思ったが、あの術式の魔女がそんなことはしないと思い込んでいた自分自身に冷や水を浴びせられたような気持ちになったフレアは、一度自分の胸に手を置いて呼吸を整えた。

魔女も女性だったらしい。当たり前だけれど。

ただここに居る男性はあの人だけだ。そう考えると意外というか想定外だった。

あの術式の魔女が……あの人は厄介な女性から愛される天才なのかもしれない。

「あくまで噂話なのですが……ユニバンスの血を引く男性は大きいそうですよ」

「この胴体よりも?」

「そこまでは決して……」

そんな太い存在だったら流石のフレアも全力で泣き叫んでいる。

ただ初めてした時は自分の体が引き裂かれると感じたのは間違いない。何よりあの頃はまだ自分の体も成長途中で未成熟だった。本当に色々と間違いだらけだった気がする。

「彼のあれは……大きい方だと思いますが、アルグスタ様のあれはそんなに?」

「あん? 誰の何がですって?」

「……失礼しました」

人を殺しかねない視線にフレアは素直に謝罪した。

フンッと鼻を鳴らしてエクレアを抱くアイルローゼは、そのお腹の部分に顔を埋める。

「貴女も将来、無理矢理に棍棒を突っ込まれて泣くことになるのよ」

「先生。出来ればそのような言葉はまだエクレアには」

「事実でしょう?」

「……相手が全員太いとは限りませんし」

「でも突っ込まれて苦しむのよ」

もうダメだ。

フレアは悟った。

師であるアイルローゼに何を言っても無駄だ。きっと彼女としてはすんなりと受け入れられると思っていたのだろう。結果としてその幻想は現実によって打ち砕かれて、完全に防御に徹している。

精神的にも肉体的にも完全に守りに回ったのだ。

「先生は苦しかったんですか?」

「……凄く」

「でも少しは嬉しさとか?」

「痛かった」

「こう、幸せな気持ちとか?」

「突っ込まれた瞬間に全部吹き飛んだ!」

エクレアを抱き寄せ吠える相手に掛ける言葉が見つからない。

知らなかった師である人物の面倒臭い一面に……フレアはそれに気づいて視線を動かす。

自分たちが使っていた部屋から、彷徨うようにノイエが出て来たのだ。

疲れ切った様子でヘロヘロにさせたアホ毛を漂わせ、重い足取りでやって来た。

「……お姉ちゃん」

「何よ」

「アルグ様は?」

「あの馬鹿ならあっちで寝てる」

「はい」

そこでようやくフレアは気づいた。まだ今日はアルグスタの姿を見ていない。

師であるアイルローゼと2人だけの時間を過ごしていたのなら、逃げ出したとか殺されたとかは無いはずだ。たぶんきっと。

カサカサのボロボロな状態でノイエは指さされた扉へと向かった。浴場だ。

その扉に手をかけ、迷うことなく飛び込んでいく。

「おはよう」

「ビリビリはもう……あっノイエ」

開かれたままの扉の向こうから彼の声が聞こえて来てフレアはほっと息を吐いた。

「何か魔法で体を痺れさせられてね、丁度助けを」

「いただきます」

「って迷いがない! ノイ、もがっ」

唐突に生々しい音が響いて来たのでフレアはダッシュで扉に近寄り全力で閉じて魔法を使って封までする。

強化魔法はフレアが得意としている魔法だ。強化した鍵はそう簡単に突破できない。

「……あんな風に出来ないの」

「あれは特殊な例だと」

「貴女だっていつだか王子様と濃厚なのをしてたって」

「あっ、あれは!」

視線と言葉が泳ぐ。否定も出来ない。何せ事実だ。

「感極まったと言うか、ずっと押し潰してきた感情が爆発したと言うか……つい我慢できなくなって」

「そうでしょうよ」

キュッとエクレアを抱きしめアイルローゼは自分の身を丸くする。

「私もそんな気持ちで臨んだはずだったの。それなのに……」

ウルウルと瞳にいっぱいの涙をためる師に、愛娘が良し良しと言いたげに頭に手を置いて撫でる。

「もう無理っ! あんなに痛いのは無理っ!」

「ですけど先生? あまり時間を置くと良くないですよ?」

覚悟を決めてフレアは先達として経験の無い師を生温かな視線で見つめる。

「何でよ?」

「ですから痛くならないように馴染むまでするんです。諦めずに」

「……あれを?」

絶望しきった表情で自分を見てくる相手に、フレアとしてはもうどうでも良くなって来た。

「ですから人体は慣れますから。何より私だってエクレアを産んだように多少太くても体の方が対処します。ですから今は我慢して」

「むぅりぃ~!」

完全に我が儘娘と化したアイルローゼは聞く耳を持ってくれない。

エクレアを抱え込んで全力の拒絶だ。

どうしたものかと悩むフレアは……どうして自分はこんな馬鹿らしいことで悩んでいるのかと言う議題に直面し、思考の放棄を考え始めた。

ガンッ!

「お腹空いた」

強化魔法で強化したはずの鍵と扉を強引に突破し、半裸姿のノイエが姿を現す。

メイドとして色々と言いたくなったことを飲み込み、フレアは視線を師に向ける。

先ほどまでカサカサのボロボロだったノイエが、ツヤツヤのピカピカになっていることが信じられないと言った視線を向けていた。

フレアとしてもその気持ちは分かる。このドラゴンスレイヤーは特殊な例だ。

「ノイエ様」

「はい」

「食事の調達に行ってきますので、その間アイルローゼ様のご相手をお願いします」

「はい」

頷いたノイエは、真っすぐソファーに向かい直進する。

姉が抱いている赤ちゃんを取り上げ、そして丸まっている姉を抱え込む。

「ちょっとノイエ!」

突然のことで声を上げる姉にノイエはまた浴場へ足を向けた。

「ダメ」

「何がよ!」

「アルグ様、まだ元気」

「だから何がよ!」

ジタバタと暴れる姉をノイエは構わず運ぶ。

「1回は失礼」

「なっ!」

妹の言葉にアイルローゼが凍り付く。

今この子は何を言ったのか……その様子が凍った表情から読み取れた。

「3回やってようやく体が温まるって青い人が言ってた」

「ほぉりぃ~!」

師である人の全力の叫びは閉じられた扉でかき消された。

フレアは大きく息を吐くと……浴場の扉に魔法を使い強化し、食事を求めて地下室から出る隠し通路へと向かった。

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