軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こんなに嬉しいお土産は無いわ!

ブロイドワン帝国・帝都上空

気づけば空の上に居た。

ノイエは無意識で空気中に漂う埃に対して足踏みをする。

ほぼ無意識で埃を強化し踏みつけることで高度を維持するのだ。

一般的な魔法使いにでは決してできない超人業だ。

次はどうすれば良いのか分からない。

お腹が空いたが良く分からない。

肩が痛いけど良く分からない。

背中の荷物は……良く分からない。

キョロキョロと辺りを見渡したら何かが聞こえた気がした。

『彼の元に戻れ』と姉に言われた気がしたのだ。

視線を下に向けると居た。

大好きな人だ。

その顔を見ているだけで胸の中が暖かくなって、ずっと一緒に居たくなる人だ。

出来ることならずっと一緒に居たい。ギュッとしてるだけでも良い。でも赤ちゃんが欲しいから頑張る。このところ頑張っていない気がする。今夜から頑張る。今夜で良いのか? 別に今からでも良い。でも外ですると怒られる。何で怒るんだろう? チュッとするのは何処でも怒らないのに。

分からない。でも怒られないならチュッをしよう。

落下速度と落下地点の調整をほぼ直感で行いながらノイエは落ちる。

近づくにつれて胸の奥が熱くなる。

また耳元が煩くなって来たけれど我慢だ。

嫌なことは我慢しないとダメなのだ。そう教わった。誰に? 分からない。

でも良い。

彼が居るから。

無事に着地したノイエは、顔を上げた。

「帰った」

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

ズシッとした重さを感じさせる背負い袋を背負ったノイエが残念魔女の上に立つ。

狙ったのか天然か……たぶん天然で狙ったのがノイエだと思う。

『あそこで良いや』とばかりに着地したんだろう。

「アルグ様」

「はい?」

「ん~」

両手と唇を伸ばしてノイエが迫って来た。

本当にノイエは甘えん坊だな~。

僕も両手を広げて待ち構えると、抱き着いて来たノイエがキスしてくれた。

最初は軽めで途中から大人のキスへと移行する。濃厚なのをして……ノイエが離れてくれません。

「ちょっとノイエ」

「はい」

呆れた様子で歩いて来た先生が僕に抱き着くノイエに声をかける。

「頼んだ物は?」

「ん?」

「私が悪かったわよ」

質問を理解できない人。それが僕のノイエです。

先生もノイエを理解しているのか、彼女が背負う背負い袋の封を解いて中身を見る。

何故か首を傾げて空を見て……また中身を確認した。

「上出来よノイエ!」

「はい」

「こんなに嬉しいお土産は無いわ!」

上機嫌の先生とかレアである。

そんなに凄い魔道具でも入っているのかな?

興味を持って僕も頑張って背負い袋の中身を覗き込む。

宝石に宝石に宝石に……で、残りはプレートだね。たぶん未使用のプレートが大量に。

「でかしたノイエ!」

「はい」

宝石が入っている理由は謎だけど、未使用のプレートはデカい。

特に術式の魔女である先生から見たら最高のご褒美だ。

「帰ったらお肉を食べ放題しても良いぞ」

「はい」

僕の言葉にノイエが嬉しそうにアホ毛を揺らして抱き着いて来た。

本当に可愛いお嫁さんだな。

「アルグ様」

「ほい?」

ただ一瞬で切り替わることがあるから要注意だ。

「お腹空いた」

「任せなさい」

こんなこともあろうかとノイエ用の食事は残してある。

最後のサンドイッチという名の塊を取り出しノイエに手渡す。

特大フランスパン型ロングサンドイッチをノイエがモキュモキュと食べだした。

何て微笑ましい。その姿だけでも何時間だって見ていられる。

「で、魔道具の方は?」

「……ホリーたちを信じるしかないわね」

食事を開始したノイエを挟みようやく先生と向かい合う。

何故か彼女は頬を赤くして僕から顔を背けた。

あれ? 僕ってば先生を怒らせるようなことをしましたっけ?

「……とりあえず馬鹿弟子」

「はい」

「荷物を纏めて」

「はい?」

撤収ですか?

「そろそろあれの氷が砕けそうなのよ」

あれって……あれか。

ポーラが氷漬けにしたマシュマロ野郎が、知らない間に解き放たれそうになっていた。

全身を覆う氷に亀裂が走り、今にでも砕けて飛び出してきそうだ。

背後で馬鹿な弟子と愛らしい妹が帰りは支度をしている。

気配と物音でそれを感じながら、アイルローゼは自分の赤くなっているであろう表情が落ち着くのを待つ。

もうダメだ。彼の顔を見るだけで緊張してしまう。

『意識しないように』と自分に言い聞かせるのが逆に良くないのかもしれない。

そのことで余計意識してしまい……意識しないようにしても意識してしまうからもう無理だ。

《でもでもでもでも~!》

また頭を抱えて蹲りたくなって来た。

問題は後だ。この後なのだ。

撤収してから……ユニバンスの王都に直行するのは良くない。

ノイエが回収しているであろう魔道具を見せる訳にもいかないし、何より自分の姿を晒すのも面倒だ。

ここは一度、別の場所に飛んで……そうなることを見通して刻印の魔女は事前に手を打っていたのかもしれない。

『一回しか使わせてあげないけど……貴女なら扱えるでしょう?』

本来の自分の体を準備している時に魔眼の中で言われ受け取った魔法。

そっと自分の左手に目を向け、アイルローゼは軽く握ってから広げた。

掌には赤い円形の線とその中を埋め尽くす複雑怪奇な模様が浮かび上がる。

正直『扱いきれるのか?』と問われると、全身に嫌な震えが走る。

自信はない。けれど自分は術式の魔女だ。

こうして描かれた魔法を読み解くことが、自分を魔女へと至らしめた結果である。

《読み解けないじゃない。読み解くのよ》

自分の心にそう言いきかせ、アイルローゼは掌の模様を消した。

別のことを考えたおかげで落ち着くことが出来た。

軽く微笑みアイルローゼは、その目を妹が踏みつけボロボロになっている自称魔女へと向けた。

「もうお終いかしら?」

「……」

ヒビ割れボロボロと崩れる表情を残念な存在が向けて来た。

「本当にごめんなさいね」

軽く腰を折りアイルローゼは惨めな存在に頭を下げる。

「ここまで貴女が弱いとは思ってなかったの。それとも私が強すぎたのかしら? 昔はここまで強くないと思っていたのだけれど……」

皮肉であり本音だ。

ただ本音の部分はアイルローゼが本当にそう感じたことである。

昔よりも今の方が強くなっている気がするのだ。

肉体は本来の自分の物であり、あの日……魔眼に飲み込まれた日から何も変わっていない。

だが恐ろしいほどに魔法を扱える。昔よりも効率よく魔力を動かし魔法が使えるのだ。

「……そういうことね。ホリーが聞いたら喜びそう」

気づいたアイルローゼはまた小さく笑う。

本当にあの刻印の魔女は嘘つきな生き物らしい。

たぶんあの魔眼の中は魔力の扱いが難しく作られているのだ。

でも自分たちはそれに気づかず、魔眼の中で魔法を使い殺し合いをしていた。

結果として知らず知らずに訓練をしていたのだろう。

そうなるように仕向けたのは間違いなくあの性悪の魔女だ。

本当に掌の上で弄ばれているような気がして気持ちが萎える。

「まあ良いわ」

今の時点では何をどうやっても勝つことのできない相手だ。

ただ彼女が望むことを成し得るのであれば……どれほどの無理難題なのかを思い知らされる。

あれとほぼ同格の魔女を打倒するなど不可能としか思えない。

「そろそろ私たちはこの場所からお暇するわ」

「……」

ボロボロと崩れる存在は何も答えない。

「貴女も魔女を自称するのなら分かるでしょう? この場所はもう直ぐ滅ぶって」

スッとアイルローゼは天を指さす。

「あれを感じられるのならば逃げ出す時間をあげる」

「……ヨユウカ?」

カサカサにヒビ割れた口元が動き微かな声が伝わって来る。

それは人工的で、どこか作られたような音だった。

「ええそうよ」

クスリと笑いアイルローゼは肩越しに自分の背後を見た。

「私たちはまだまだ強くならないといけないらしいの。だから貴女に機会をあげる」

視線を戻し術式の魔女は言葉を続ける。

「復讐しに来なさい。貴女にその気概があればだけど」

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