軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃避は許さないぞ~!

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

先生は何を口走っているのだろうか?

ノシノシと歩いて来るオーガさんが邪魔で先生の姿が見えない。だがその声だけは聞こえて来た。

本気でそんな理由なんですか?

「あ~。分かるぞ~」

分かるんだ。

隣に居るシュシュの声に顔を向けると、彼女は腕を組んで片方の手を頬にあてていた。

「私も最初の時は、『あっ裂けるかも』とか内心思ったぞ~」

「の割にはガッツリやっていくよね?」

「ん~。最初だけだぞ~? 次もそう思ったからそんな物だと思うようになって気にしなくなったぞ~」

なるほど。

「でもノイエの祝福が原因だとみんな知って納得したぞ~」

「あ~」

それは何とも言えない。

ノイエの場合は祝福でどんな傷も元通りに回復してしまう。

つまり永遠の処女だとリグの診察で判明している。

「こっちの体だと最初痛かったけど、次からはそうでもないぞ~」

生々しいな。

「初めての時はワインの瓶でも押し込まれたような感じだったぞ~」

その表現は男性からするとゾッとするな。

ただシュシュの言葉を聞いて背後の荷物共がまた騒ぎ出した。

『ユニバンス王家の血筋は立派らしいと言うのよね。一度見て見たい』とか『私の経験からだと立派な物より長い方が……『具体的に!』』などと言う低俗な話だ。

そっと振り返り馬鹿な荷物の口に猿ぐつわを噛ませておく。

ミシュは相変わらずだから問題無いが、リリアンナさん(仮)は今までどんな体験をして来たのだ? これはたぶん聞くも涙語るも涙の……リグが暴走しそうな案件かもしれない。落ち着いて話が聞けるようになるまで2人を引き合わせることを避けるとしよう。

「で、そんな先生は……シュシュ?」

僕が2人分の荷物の整理をしていると、何故かシュシュが押し黙っていた。

ノシノシと歩いて来るオーガさんの方に目を向け、何故か膝を抱いて体育座りの体勢だ。

「シュシュさんや?」

「……最悪だぞ~」

迫り来るオーガさんがですか?

いつも通り上機嫌でこっちに来るね。あんなに目を爛々と輝かせて……大暴れして満足したのかな?

「旦那ちゃん」

「ほい?」

肩越しに振り返ったシュシュの顔色が悪い。

「一緒に現実を逃避するんだぞ~」

「何を仰るシュシュさん。今から先生の圧倒していく様子を……はい?」

スッとシュシュが指さす方に目を向けた。

巨躯のオーガさんの背後だ。

とんでもない発言をした先生が居るらしい方向だ。

「……」

一度見つめてから目を閉じ頭の中で反芻する。

やはり理解できずにもう一度見てから、頭の中で思考を巡らせる。

ごめんなさい。僕の頭だと理解できませんっ!

「解説! 求む解説!」

「しても良いけど条件は一緒にここで現実を忘れることだぞ~」

「良し分かった。ただしノイエの封印を解け!」

「ほ~い」

テンション低めでシュシュが適当に腕を振るうと、ノイエを覆っていた封印魔法が霧散した。

もうノイエを守る必要が無いと……気づけば僕らを覆うドーム状の封印まで無くなった。

「シュシュ? 流石に全消しは……」

「大丈夫だぞ。もう敵は私たちに近づくことも出来ないぞ」

どんよりとした声でシュシュが体育座りで抱き寄せている膝に顎を乗せた。

「術式の魔女アイルローゼがどうして恐ろしいのか、旦那君もその目に焼き付けると良いぞ」

焼き付けると言うか今起きている現象が全く分からない。

横たわっているノイエを抱きかかえてシュシュの元へと運んでいく。僕も彼女の横に座り、ノイエを抱えるようにして背後から抱きしめてあげる。こうすれば魔眼の中の人たちも先生のあの行為が見えるはずだ。

「で、あれって何なの?」

ノイエ成分を吸収しながらの観戦だ。やはり幸せな気分になって来る。

まあその幸せ成分を吸収しても目の前で起きている現象は良く分からない。

「あれがアイルローゼが天才と呼ばれる所以だぞ」

「なの?」

そう言われてもやはり良く分からない。

「アイルローゼの凄さは……大魔法を使えることでも、術式を芸術的に刻めることでも、新しい魔法を作り出すことでも、新しい魔道具を作り出せることでも無いんだぞ」

1人でそれだけやれる先生は普通に天才だと思いますが?

「一番恐ろしいのは観察力と応用力なんだぞ。わたしはずっとアイルローゼの前で魔法を使うが怖かったんだぞ」

「どうして?」

ギュッと自分の膝を抱きしめシュシュはこっちに顔を向けて来た。

「全てを盗まれてしまうんだぞ」

「はい?」

「言葉の通りだぞ」

息を吐いてシュシュは気怠く見える動きでまた先生が居る方に顔を向けた。

「アイルローゼはノイエの魔眼ばりに使用された魔法や魔道具の術式を見て解読して自分の物にしていく。だから学院に所属していた頃は、アイルローゼのことを陰で『略奪者』と呼んでいた人も居たんだぞ。ただその話を聞いてからアイルローゼは学院の魔法使いから魔法を奪わなくなったぞ」

「それってつまり?」

「私たち魔法使いは所有している魔法が生命線にもなるんだぞ。それを奪われてしまうことは、模倣されてしまうことはとても恐ろしいんだぞ。人によっては一族で秘匿している魔法もあるから……それを他者が使うことは、恐怖でしかないんだぞ」

そっか。

キュッとノイエを抱きしめたら、ヒクヒクと彼女が咥えているパンが上下した。

「でも先生は学院でそれをすることを止めたんでしょう?」

「だぞ~。だからアイルローゼが『略奪者』なんて呼ばれていることを知っているのは同期の私たちぐらいだぞ。まあ大半の同期はみんなお墓の下だし」

そう聞くとシュシュたちも意外とハードな人生を歩んでいるんだな。

「だったら先生はようやく色々と吹っ切れたのかな」

「ん~?」

僕の言葉を不思議に思ったのか、納得がいかなかったのか、シュシュがこちらに顔を向けて来た。

「だって先生って何だかんだで甘くて優しすぎるでしょ? だからその陰口が意外と心に傷を作ってて使えなくなってたのかもね。でも今は使ってる。それって過去を乗り越えたってことじゃないの?」

トラウマを制した先生はこれからも成長するってことだ。

「きっと違うぞ」

「はい?」

僕が奇麗に纏めたのにシュシュが水を差してきた。

「たぶん自分ひとりで全ての魔法が使えるようになると面倒なお願いが増大して自分の趣味である術式の研究が出来なくなるから止めただけだと思うぞ」

「またまた~。僕が先生のことをよく言うから拗ねちゃって~」

「あん?」

若干凶悪に変化したシュシュの目が僕を見た。

「旦那さんは基本アイルローゼの評価が高すぎるぞ。あれはとんでもないズボラで面倒臭がりなんだぞ。掃除なんて全部リグや弟子に押し付け、食事も面倒だからって病人の介護のように食べさせてもらったり」

それは若干引く。

「何よりあれが証拠だぞ」

指さすシュシュに釣られて視線を向ければ、やはり僕の頭では理解できない展開が続いていた。

どうして青い未来の猫型ロボットが、両手持ちの巨大な剣を持ってあそこで無双しているの? 君のそんな姿は、テレビ越しで見る全国の少年少女たちが泣くよ?

「自分で戦うのが面倒臭いからああして魔道具の命令権を奪って戦わせる。それがアイルローゼなんだぞ」

「きっとそれは1人で戦うのが辛いから仲間を得ようと、」

必死に言い訳する僕の視線の先で、何かしらのアニメキャラらしいロボが自壊した。

それも何体か纏めてだ。あっ戦う猫型ロボの数が増えた。

いったい同型を何体作ったんだ? あの馬鹿賢者は?

「旦那様?」

「……僕の目には何も見えません!」

「現実を見るんだぞ~! 逃避は許さないぞ~!」

襲い掛かって来るシュシュの腕を掴んで制する。

だって君が一緒に逃避しようと言ったんじゃないか~!

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