軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなことが出来るのは私が好きな人だけよ!

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

「我が儘な子供に言葉を使って説明しても効果が無いことは知っているので、無駄なことは止めることとしようかしら」

「なに?」

ギロリと睨む相手にアイルローゼは薄く笑う。

「聞き分けの無い子供にはその頬を叩くくらいの教育が必要だと私は思っているの……ええ。もちろんそれ以上のことはしない。それ以上のことが必要な子供は才能が無い。才能の無い子供に割ける時間なんて私には無いから」

悠然と佇む女に飛び掛かろうとしたマリスアンは、自分が“殴られ”吹き飛ぶことを感じた。

とても人の力とは思えない強力な一撃だ。

魔力の流れも魔道具の発動すら感じさせなかった攻撃の正体を知り……石畳を転がりながら魔女は叫んだ。

「このペテン師がっ!」

「あら失礼ね」

醜く転がる自称魔女をアイルローゼはつまらなそうに見つめる。

その背後には金棒を片手突きした体勢で、もう片方の手で耳の穴を掻くオーガが居た。

「人の頭に言葉を流すな。耳の中が痒い」

「流石ね。普通の人間相手なら皮膚が裂けて出血してしまうのだけど」

「おい」

「それだけ貴女の頑丈さを信用していたのよ」

会話をしながら別途でアイルローゼは魔法を使っていた。

極僅かな魔力で会話の節々の言葉をオーガの耳に飛ばす。学院時代に色々とふざけて作った魔法の1つ……と呼ぶには余りにも稚拙だが、その断片が役に立った。

アイルローゼがトリスシアに命じたのは至極簡単な物だ。

『適当な場面であの餓鬼を殴れ』

言葉の意味と会話の内容を理解し行動したオーガは、やはり魔眼の中で観察していた通りだ。

「貴女はもう少しオーガらしい振る舞いを止めれば今まで以上に強くなるわよ」

「はんっ! オーガにオーガを辞めろと?」

「ええ。貴女は頭の良い女性なのだから、あと少し冷静に振る舞えばあのカミーラとある程度渡り合えるはずよ。本質がそっくりだから」

腕を組み醜く石畳に這いつくばる餓鬼を見つめアイルローゼはそう言い切った。

暴れん坊のオーガだと言って彼女のことをどこかあの馬鹿弟子は評価を下げているが、アイルローゼから見ればこのオーガほど化ける要素を過分に持つ存在は居ない。

ただ本人もまた『オーガは血気盛んに暴れる者』と思い込み行動している節があるだけにその可能性を見いだせずにいるだけだ。

「今度貴女にユニバンス最強と戦う機会を私が作ってあげる。あれと戦って何かを見つけられれば貴女は今まで以上に強くなれる。見つけられないのであれば……サクッと殺されればいい」

「はんっ! ユニバンスの最強ってあの小娘だろう?」

笑いながらトリスシアは肩越しに『最強』を見つめる。

石畳の上に横になりパンを咥えた白い娘は、間違いなく最強だ。あれに勝てる人物など、

「違うわ」

「なに?」

「ノイエも彼女には負けた」

「……嘘だろう?」

『あの人外の化け物を負かす人物がこの世に居るのか?』

ドラゴンスレイヤーと呼ばれる最強の存在の強さを知るトリスシアは、絶望と恐怖に身を震わせた。

あの化け物に勝る存在など自分では勝てる訳がない。きっと挑んでも簡単にあしらわれるはずだ。

本能が……全身を震わせる。耐えがたい感情に震えが止まらない。

「前言を撤回するわ。貴女の本質は戦士よ」

振り返り相手を見たアイルローゼは、オーガの様子に半ば呆れた。

「ノイエに勝てる存在と聞いて、それと戦えると聞いて……そんなに楽しそうに笑えるのは、貴女の本質が戦いを好んでいるのね」

「ああ。そうだ」

牙を剥いてトリスシアは笑う。

「私はオーガだ。人を食わない鬼だ。けれど私は自分の本質を知っている」

「ええ。約束するけど……死なないでね。あれも貴女と同じ戦闘狂だから」

求める強さ以上に戦う事が好きな人種をアイルローゼは理解できない。

だが狂ったこの世界にはそんな人種も居るのだ。困ったことに。

「機会は作ってあげるから、今はあっちの馬鹿たちを守って貰えるかしら?」

「はんっ! 良いのか? お前……魔法使いだろう?」

「大丈夫よ」

ようやく起き上がった自称魔女にアイルローゼは視線を向け直した。

「私も魔女だから」

「そ~かい」

《ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……》

胸の奥底から湧き上がって来る感情にマリスアンは自分を押さえられなくなっていた。

ここまでも自分を馬鹿にする存在が居る。目の前に居る。

自分は最強であり、この大陸を支配する存在だ。

数多くの魔道具を従え戦力も十分だ。きっと命令すればあれらは今すぐにでも侵攻を開始する。

そして自分も強い。

ドラゴンの力を取り込み、自身の魔力を変質させて植物の力も得た。

人間という下等種を脱して更なる高みに手を伸ばした。

このまま力を蓄え異世界のドラゴンも飲み込みより最強に昇りつめるだけのはずだ。

なのに目の前のあの人間は、あのオーガは言う。自分のことを『弱い』と。

ふざけるな、だ。

だったら見せてやる。

最強の自分の力を……この大陸を支配するべき王の力を。

「オーダー」

ヒステリックに自身の顔に爪を立てて引き裂いていたマリスアンの口が動いた。

紡がれた言葉は異世界語だ。

だがその短い命令文に、この場に居る全ての魔道具たちが動きを止めた。

ゆっくりと頬の皮を付けた指先を、あの憎たらしい女に向ける。

美しく悠然と構える……赤い女にだ。

「あの女を殺せ。最初に殺せ」

ケタケタケタと嗤い声を発してマリスアンは命じた。

「惨たらしく殺してその血肉を私の元に持って来い! 全てこの私が食らい尽くしてやる!」

命令に従い……魔道具たちが動き出した。

その全てが1人佇む女性に向けて歩き出す。

「きゃはは~! 死んだ。これでお前は死んだっ!」

何もかも忘れマリスアンは叫ぶ。嗤う。

「これほどの魔道具を相手にただの魔法使いが対処できるわけがない! 惨たらしく殺してやる! お前の股を引き裂いてその腹から内臓を抉りだして全てを食らい尽くしてやる!」

嗤う。マリスアンは嗤う。

自分が負けることなど微塵も考えていないからだ。

対するアイルローゼは深い深いため息を吐きだした。

もう無理だ。生理的にも感情的にもその他諸々のあれ的にも無理だ。

「……笑わせないでよ三下」

静かに紡がれたアイルローゼの声がその場を確実に冷やした。

「私の股を引き裂くですって? そんなことが出来るのは私が好きな人だけよ!」

一歩踏み出しアイルローゼは自身から一番近くに居る魔道具に指を向けた。

全体的に丸みを帯びた青い色をした滑稽な顔の魔道具にだ。

「何よりこっちは股が裂けるかもしれないと思って踏ん切りがつかないのに!」

感情的に叫び……そしてそれが始まった。

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