軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出れないんだけど?

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

「そんなにボロボロになってもまだこの私と戦うと言うの? 滑稽にもほどがあるわね。もう諦めてそこに全員横たわりなさい。1人ずつ惨たらしく殺してあげるから」

つまらん煽りだな。全く。

「滑稽だかこけっこ~だか知らんが勝手に囀るな。ババア」

「なに?」

ギロリととても人とは思えない目を魔女が向けて来た。

もうこの人は完全に人間を辞めているっぽいな。

「そんなに戦うのが怖いなら、優しい僕らが手抜きをしてあげるからさ……かかって来なさい」

「……お前が一番囀っているのだろう? この最弱王子がっ!」

人間辞めちゃってる魔女が吠えた。

もう本当に我慢を知らない人外だね~。

「余り褒めるな。この馬鹿が喜ぶだろう?」

相手の声に反応して座っていた彼女が起き上がった。オーガさんだ。

まだ全身に霜を纏い首にポーラをぶら下げているが……兄としてそっと妹は回収しておいた。

プルプルと震えて抱き着いて来るポーラが可愛いので癒される。

巨人と化け物とか僕の精神を汚染する気かこの2人は。

「また貴女なの? 邪魔なオーガね」

「煩いよ。お前こそ死ねない魔女の癖に」

互いに敵を見定めたのか、2人が周りを無視して向き合う。

睨み合う視線が凶悪だ。

あの間に割って入れるのはノイエぐらいだろう。

小心者の僕は、ポーラを抱いてそっと静かに後退する。

ぶっちゃけこの場で戦えるのはオーガさんだけだ……とあの馬鹿な魔女は思っているはずだ。

舐めるなよ。こっちにはもう一枚だけ勝負の札があるんだ。

接近戦なら本来カミーラ一択だが、そんなカミーラはまだ全身麻痺らしい。

ノイエの魔眼の中ってどんな人外魔境なのかと一度徹底的に調査したい気分です。

となるともう1人……実力は未知数だけど、彼女の運動神経の良さは天才の領域だ。

天才でなければ舞姫などと言う地位は名乗れない。

オーガさんがあの魔女と戦っている隙にレニーラを呼んで挟撃だ。

卑怯と呼びたければ呼べば良い。僕は勝つためならばどんな手段でも使おう。

問題は魔女の背後に居てジワジワと包囲を作っている百鬼夜行の方だ。どうやって倒すか?

「あれは確実に死んだわね」

「グローディア?」

仲直りしたはずのアイルローゼとリグから漂う不穏な空気に慌てていた歌姫は、追い打ちとばかりに聞こえて来た王女だった人物の声に震えた。

「魔女を倒せば旦那様の勝ちでしょう?」

「違うわよ」

「えっ?」

歌姫の指摘にグローディアは気怠そうに息を吐く。

「あの魔女だった化け物を殺しても一度命令を受けた魔道具は動き続ける。特に攻撃に特化した物は独立して行動するように出来ている。命令者が死んでも動き攻撃するのよ」

「……それだと?」

「だから言ったでしょう? 確実に死んだわ」

おかげで面倒臭くて厄介な事態になりそうなのだ。

それを痛感しているグローディアの気は重い。毛嫌いしている従弟とはいえ見殺しにすれば可愛いノイエがどんな風になってしまうか分からない。

深く息を吐き出して……グローディアは視線を部屋の外へと向ける。

「ホリー。そろそろ答えを出さないと、あの馬鹿が死ぬわよ」

「そう」

スッと背筋を伸ばし入って来たホリーの様子にグローディアは僅かに視線を動かした。

一度退出したローロムの足に髪を巻き付けて引きずっていたのだ。

「斬新な髪飾りね」

「そうね」

「……」

魔法の効果か普段よりも髪の毛を伸ばしている殺人鬼の気配が違う。

それを感じ取り背筋に冷たい汗を浮かべたグローディアは自然と相手との間合いを取った。

「何で逃げているの?」

「どこかの殺人鬼が人でも殺しそうな気配を漂わせているからよ」

「そうね」

その指摘はある意味で間違っていない。

「ちょっと殺そうと思ってね」

「えっ?」

まさか本気とは思っていなかっただけにグローディアは素で返事をしていた。

ただホリーの髪は動かない。

この場に居る人物で殺すのは1人だけ……そうホリーは決めている。

「誰を殺す気よ」

「決まっているでしょ」

クスリと笑いホリーは元王女を見た。

「私の心よ」

寂しく笑いホリーは自分の髪を振るう。

やはりこれしか選択肢が無かった。

全員を救うことはできない。最初からそれは分かっていた。

だから自分が悪者になる。その決意を抱いてホリーはこの場に来た。

どんなに嫌われても、どんなに罵られることになったとしても……ホリーは選んだ。

自分が愛する人の無事と、自分が愛する妹の無事をだ。

「ローロム」

「……背中が削れた」

「そんなの放置すれば治る。することは分かっているわね?」

「ああ。分かってる」

クシャッと髪をかき混ぜるように掻いてローロムは立ち上がると、中枢の隅に置かれている平らな石のような物の上へと移動した。

「久しぶりの空なのに……気持ちよく飛べそうにないね」

「旦那ちゃんどうするんだぞ?」

「レニーラを呼び出してオーガさんと挟撃してあの魔女を討つ」

「言ってることが犯罪者の言葉だぞ?」

そう言いながらも反対しないシュシュさんも中々の悪よのぅ~。

「そんな訳でセシリーン」

横たわっているノイエに顔を向ける。

「ちょっとレニーラを宝玉でよろ~」

「仕方ないわね」

大きく息を吐いてそれは動き出した。

全身が怠い。とにかく怠い。

出来たらベッドに飛び込んで惰眠を貪りたい。

けれどまだだ。まだそれをするには早すぎる。

「今回は尻拭いを兼ねているわけだし……あ~。しんどい」

「……ホリー?」

「遊んでないで早く出てくれる?」

平石の上に立ったままのローロムにホリーは深く息を吐いた。

けれどどこかの馬鹿はその場に残ったままだ。一向に外に出ない。

「……出れないんだけど?」

「はい?」

間の抜けた声を発し、ホリーは目を点にする。

目の前の馬鹿はいったい何を言っているのか理解できない。

「だから出れない。どれほど魔力を動かしても、『出たい』と念じても出れない」

「……そんなっ!」

相手の肩に手をかけその場から退かし、ホリーは自ら石の上に立つ。

普段通り『出ろ』と胸の内で念じるが何も変わらない。外には出れない。

「どうして?」

肩を震わせホリーは自分が立っている石を見る。

「まさかっ!」

「正解よ」

その声はいつも唐突だ。何よりその存在がいつも唐突に姿を現す。

頭からフード付きのローブを被った刻印の魔女が不意に魔眼の中枢に姿を現した。

中枢に居る全員の視線を浴びながら、魔女はクスクスと笑う。

「もう1個の宝玉は魔力切れなのよ」

後は待っていればレニーラが出て来て~。

「にいさま」

「はい?」

恐る恐る声をかけて来るポーラの様子に気づく。

上目遣いで、可愛らしく僕の上着をクイクイと引っ張っていた。

「どうかしたの?」

「あの~」

「なに?」

「ししょうが……」

あの馬鹿賢者が何? と言うか悪い予感とヤバいフラグが見え隠れ?

「あのほうぎょくをつかってしまって」

「……はい?」

あの宝玉を使った。あれってどれ? 頭上で輝くロボの上のリスが掲げる物のことですか?

「じつは……」

戸惑う僕にポーラが言葉を選んで説明しだした。

簡単に話を纏めるとこうだ。

ポーラのホムンクルスを作るのに魔力が全然足らなかった。

で、魔力タンクが2つあることに気づいた刻印の魔女とかいう天然トラブルメーカーは閃いた。

結果として1つが空になった。

全てを聞き終えてホリーは穏やかな表情で刻印の魔女を見た。

全てを聞き終えて僕は今にも泣きだしそうなポーラの右目を見た。

『絶対に殺す!』

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