作品タイトル不明
血断!
ブロイドワン帝国・帝都宮廷内
最初気づいたのはポーラが立っていたからだ。
蹲っていた僕らが気づけなかったのは視界に入るのが遅かったからだ。
ただ近づいて来る物の存在を見ていると、どんどん顔が上へと傾いて行く。
巨大だ。巨大な……あの魔女は僕らをエロエロ殺しにする気なのか?
「旦那ちゃん。ごめんね。私は先に逝くぞ」
「許さんぞシュシュ~!」
「もう無理だよ」
横たわったシュシュが胸の上で手を組んで目を閉じた。だが許すかこの馬鹿っ!
無理矢理起こしてそれでも目を瞑っているから胸を揉んで強制的に……まだ閉じるかっ!
だったらこっちだって手段は選ばん。
「にゃ~!」
服を脱がし始めたらシュシュが慌てて瞼を開いた。
「旦那君っ!」
「一緒に死のうぜ。シュシュ」
「もう死んでるぞ~!」
絶叫するシュシュの顔を無理矢理動かし、2人で迫ってくる存在を確認し……エロエロした。
もう無理。胃の中は空っぽだから胃液しか出ないよ。喉が痛いよ。
「酷い裏切りだぞ……」
「逝く時は一緒だろ?」
「ぞ~」
地面に伸びる僕の傍でポーラがクルっと銀色の棒を回した。
「大きいだけです」
「「……」」
あれを見てそれだけしか言わないポーラに僕とシュシュは女神の姿を見た。
きっと女神とはポーラのことを言うに違いない。
「ただ大きいですから……姉様の魔法が通じるか不安です」
「あ~。大丈夫だぞ~」
口元を拭いシュシュがまた横たわろうとしているので全力で妨害する。
「だからスカートを捲るのはダメだぞ~!」
「ならば裏切るな。一緒に死のう」
「告白だとしたら嬉しいのに……」
何を言う? 僕らは夫婦じゃないか。精神的に死ぬ時は一緒だとも。
「アイラーンの魔法が酷いのはあの手形だけじゃないぞ~」
「なの?」
「だぞ~」
顔色を増々悪くしてシュシュは何処か吹っ切れた様子を見せた。
「あの魔法はアイルローゼですら『趣味が悪い』と言って習得を止めた魔法なんだぞ~」
「先生が?」
術式大好き、魔法大好きの先生が習得を止める魔法だと?
「つまり……これ以上酷い物が見えるの?」
僕の問いにシュシュは静かに微笑んで横たわった。
「旦那様。抱きしめてあげるから2人で一緒に寝よう」
「……それが良いかも」
僕に向かい手を伸ばしてくるシュシュに促されるように僕は彼女の胸に顔を押し付けた。
ボリューム不足だけれど今はその足らないモノが丁度良い。
「兄様もお姉様も遊んでないでちゃんとして下さい」
「「無理っ!」」
「もう」
怒った様子でため息を吐くポーラは時折棒を振り回している。
ブンッと音がしたと思ったら、グシャッと鈍い音が響く。
ウチの可愛いポーラさんが迷うことなく人形たちを吹き飛ばしていくのです。
「ポーラ」
「何ですか?」
「お兄ちゃんもうダメだ。後は頼んだよ」
「もうっ」
シュシュの胸に顔を押し付けて色んなストレスを我慢する。
もう無理。もう無理です。
「あっ」
ポーラのその一言に僕らはつい反応してしまった。
体を起こしてシュシュと2人でそれを見る。
アイラーンが迫って来る巨大な存在に向かい歩き出したのだ。
《何をどうしたらこんな見た目最低な化け物を作れるのかしら?》
ゆっくりと歩きながら、アイラーンは迫って来る者たちに手形を付けて魔法を行使する。
今の自分ならどこまでもこの魔法を扱えることが出来る。魔力の心配など必要としないからだ。
地面に伏せる人間だったモノにはもう目を向けず、アイラーンは前を向く。
《巨大な相手を倒す方法を知っているのは……あの施設のおかげね》
ノイエと出会ったあの場所で学んだ知識が役に立つ。
人の身でありながらドラゴンという脅威に立ち向かうために学んだ知識という武器だ。
軽く前のめりになり、アイラーンは一気に駆けた。
相手は巨大な人型だ。人間らしい部品を無理矢理合体させて作り出した物だ。
人の尊厳など持ち合わせていない人物の手による最低な魔法だろう。
自分が扱う魔法も決して気分の良い魔法では無いが。
相手の間合いに飛び込んだアイラーンは迷うことなく片方の足を狙う。厳密に言えば膝をだ。
右膝に数多くの手形を押し付けて一気に離れる。離れながらも胸の前で手を合わせた。
発動した魔法が一斉に巨人の膝を抉る……が、膝を覆っていた肉片が消失し、姿を現した物に舌打ちする。
「ゴーレムに肉片を巻き付ける意図を説明して欲しいわ……本当に」
だが答えは意外と早く見られた。
ゴーレムは動き手近な人形を掴むと、肉片を失った自分の膝に押し付ける。
押し付けられた人形は、モゾモゾと動いて膝に纏わりついた。
「最低ね」
呆れ果てながらもアイラーンは息を吐く。
肉を纏っているのは魔法の直撃を受けた時の緩衝材なのだろう。確かに補修材は手近にあっていくらでも手直しが出来る。
醜悪であっても機能的だ。
「……本当にノイエのおかげよね」
普段ならこれほどの魔法を行使していれば貧血で卒倒していたはずだ。
けれど持続できるのは可愛い娘の祝福が失われる血を回復してくれるからだ。何よりまだまだ魔力が底を見せない。
本当に恐ろしい我が儘娘だ。母をここまで酷使するのだから。
「自分でも扱えなかったこの魔法の限界を見られるだなんて」
ゆっくりと手を上げ胸の高さにまで手を上げる。
ギュッと手を握り……ゆっくりと掌から血が滴るのを眺める。
『流れよ流れよ流れよ』
いつ以来なのかも思い出せない。自分が魔法語を綴り魔法を行使するだなんて。
アイラーンにはこの魔法本来の威力を発揮することが出来なかった。圧倒的に魔力量が足らなかったからだ。だが今はその心配を必要としない。ノイエの魔力量は底知らずだ。
『我を作りし血よ肉よ……今再び形を変えて武器となせ』
滴り落ちる血液の粘度が増し、ドロドロとした物へと変わる。
『全てを断ち切る断罪の刃となれ』
小さく息を吐いて、そして吸う。
「 血断(けつだん) !」
大きく腕を振るってアイラーンは自分の血で作った刃を放つ。
ホースの先端を握り細めた水のようにアイラーンの手から放たれた血色の刃が、巨大なゴーレムを縦方向で襲った。
「あ~。最悪だぞ~」
「はい?」
これ以上の最悪があるのですか?
「私はもう寝る」
「裏切るな、シュシュ!」
「にゃは~! 何処に手を突っ込んでいるんだぞ~! ダメだぞ~! 今の下着は本当にダメなんだって!」
スカートの中に腕を差し込んだらシュシュが必死に抵抗した。
ここか? ここが良いのか?
「ちょっと本気でダメなんだって!」
そう言うな。僕も現実逃避がしたいだけなのだよ。
「あっ」
指を動かしていたらシュシュが動きを止めた。
その視線はアイラーンの方を見ている。だが僕は君を裏切ろう。見ないからな?
ベチャベチャベチャベチャ……
生々しい音に耐えられなかった。
恐る恐る視線を動かしたら、アイラーンが巨人の頭から股間まで赤い刃を振り下ろしていた。
普通の物語ならパカッと左右に割れるはずだ。僕はそう思っていた。けれど現実は違った。
巨人は頭から股間まで硫酸でも掛けられたようにグズグズと融けだしているのだ。
もう最悪だよ。はっきりと正面から見たよ。
「シュシュ」
「ん」
「ごめん」
「平気」
そっと彼女の手を取って僕らは2人場所を変える。
並んでエロエロと……今日の僕らは本当に仲が良い。
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