軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どうして泣くの?

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

「ただの人間を人形にした程度では、あの夫婦の脅威にもならないのね」

所詮は人を材料に作ったただの実験体であり余興だ。

騎士もメイドも、老いも若きも、男も女も……材料にしたモノで個体差は生じなかった。ただ定められた標的に向かい歩き襲い食らいつくのみだ。

人を道具としたことで、本能のみが肥大化して獣と化してしまった失敗例だ。

それにしてもあの白い小娘はいったい何者なのか……マリスアンは真剣に思考する。

髪の色が変わったと思えば自分の知らない魔法を使いだした。

血の手形を押して回っているのは確実に攻撃力を相手に伝えるための行為に思える。手形が対象者を握り潰すなどふざけ切っている。生きた人間があの攻撃を食らえば確実に破壊される。

「殺すこと、壊すことを目的に作り出した魔法という訳ね」

薄く笑い魔女は次なる仕掛けを繰り出すこととした。

「誰が作った魔法かは知らないけれど、人では無くて物ならどうかしらね?」

《師匠。あれは?》

『……今回は辛いって言ったでしょう?』

《気になってしまって。申し訳ありません》

『はぁ~……あれは召喚の魔女の弟子が作った魔法よ。ちょっと精神的に難のある子で相手を残虐に殺す傾向があって、あの魔法は見た通り手形を押されたら凄く恐ろしいでしょう? だからわざと手形を押してから相手の恐怖を煽って嬲り殺していたのよ。余りにも殺しすぎたから粛清されたけどね』

《そんな魔法がどうして?》

『確認は取れていないけど、あの馬鹿はどうも最後は貴女たちの故郷を根城にしていた感じなのよね。召喚の魔女の弟子が次の弟子……孫弟子に伝えてこの時代まで残ったとかそんなことだと思うわ』

《そうですか》

『……真面目なのは良いけど分かっている? その体の魔力消費量は普段の物よりも格段に多いのだから、極力魔法は使わないこと』

《分かっています》

『それと……私が貴女にあげた魔法は今回だけ使っても良いから』

《良いのですか?》

『ええ。使いなさい。ただし使えば1回で魔力切れになることは保証してあげる』

《そんな保証は要りません》

『ダメよ。その時は大人しく戻りなさい』

《……》

『返事は?』

《分かりました》

『宜しい』

「迫って来るばかりで知性は無いのね」

三桁を越えた辺りからアイラーンは数えるのを止めた。

どうやら敵の標的は自分……この大切な娘であるノイエだということで間違いないらしい。

『ふざけるな』だ。

心の中でそう呟き、アイラーンは増々体を動かす。

最小限の動きで人間を辞めた者たちの間を掻い潜り手形を押しては魔法を行使する。

どれほどの死体を山と積み上げてもまだまだ化け物たちは迫って来るのだ。

《ノイエを殺そうとするなんて絶対に許さない》

人殺しである……自分の最愛の人とその人との間に出来た大切な存在を殺した自分が、人殺しについて語ることなどできない。それでも大切な人を失った苦しみだけは痛いほど知っている。

自死しなかった理由は簡単だ。

そこまで頭が回らなかったからだ。

失ってしまった存在をずっとずっと探し求めた。

殺したのに、自分の手で殺したのに……それでもだ。

ずっと探していた。囚われた牢獄の中でも、処刑台へと通じる階段の途中でも、そしてあの施設でもずっと探し続け求め続けた。

探して探して探して探して……それで力尽き地面に転がっていると必ずやって来たのがノイエだった。

『どうして泣くの?』

そう言っては涙で濡れた頬を拭いてくれた。

『ずっと泣くの?』

そう言っては頑張って体を起こしてくれた。

『泣いてるよ?』

ギュッと胸に飛び込んで来ては抱き着いて来た。

『泣いてるよ?』

誰がとは聞けなかった。ノイエはいつもそう言いながら背後を見ていたから……誰かを見つめるようにボロボロの自分の背後を見ていたから。

『泣いちゃダメ』

無理ばかり言う。いつも無理を言う。

ノイエは本当に我が儘で甘えん坊で……だかこそ自分が泣いているのに無理を言う。

『みんな悲しいから』

涙で濡れた顔でいつもそんなことを言ってくる。

『悲しいと離れられないから』

誰がとは聞けなかった。ノイエはいつも何か違うものを……まるで赤子のように別の何かに目を向けているようなそんな感じがしたから。

『笑おう。……母さん』

その言葉と存在が、どれほど救いになったか分からない。

だから誓った。この子が幸せになるまでは絶対に守ると。

もう幸せになったノイエに自分など必要のない存在だと思っていた。

けれど恐ろしいほどに溢れて来る魔力から……そう思っていたのは自分だけらしい。

ノイエは本当に我が儘で甘えん坊で、そして頑固なのだ。

自分の家族を絶対に手放さない。諦めない。そして笑顔を強要する。

「ノイエ……私は笑えない。あの人とあの子の命を奪った私はもう笑えない」

それでもアイラーンはその表情に薄い笑みを浮かべる。

心の底から笑えなくても人はその表情に笑みを浮かべることが出来るのだから。

ノイエのように全てを失わなければそれが出来るのだから。

「私は笑えない。でもねノイエ……」

パンと胸の前で手を合わせ、魔法を行使してアイラーンは自身の正面を睨む。

「貴女の幸せは私が守るから。貴女に貰った優しさを私が返すから……だからいつの日にか笑って見せて」

だってノイエの笑みはあの場所で得られる唯一の幸せだったから。

「嘘でも良い。作り笑いでも良い。私たちにノイエの笑顔を見せて」

崩れ落ちる化け物から視線を外し、アイラーンは前進を続ける。

「もう私は夫の顔も子供の顔も思い出せないから……だから貴女の笑顔を『幸せの思い出』にしたいの」

我が儘な願いだと理解している。

それでもアイラーンは願わずにいられない。

自分の“娘”の幸せを願わない母親なんて居ないのだ。

娘が笑ってくれるのならば、母親はどんな無理でも無茶でもしてあげられるのだから。

「お母さんは貴女の為なら万を超そうが全てを片付けてあげるから……」

本当にどこからこれほどの化け物が湧いて来るのか疑問に思うほど敵が次から湧いて来る。

だがアイラーンは気にしない。だって自分は母親なのだ。主婦だったのだ。

「母さんはお掃除が得意だったんだからね」

「シュシュ……僕もうダメだ」

「旦那君! 気をしっかり持って!」

無理だった。

生々しい映像と生々しい音声と生々しい臭いで僕の五感の内、3つまでが汚染された。もう1つは胃液で潰されている。残っているのは1つだけだ。それがせめてもの救いだ。

ギュッとシュシュの手を握って……2人揃ってエロエロと中身をぶちまけた。

「旦那ちゃん。もう寝よう」

「それが良いな」

起きている限り僕らは互いに色々な何かを無くしていく。

何処の世にお嫁さんのエロエロを見ながら自分のエロエロを重ね、2人揃ってエロエロする?

エロいことならウエルカムだが現状はエロくないのにエロエロだよ!

「アイラーンが絶好調なのが悪い気がするぞ」

「そうなの?」

「うん」

頷いた弾みでエロエロしたシュシュが口元を拭った。

「普段あそこまで徹底して潰さないもん」

「そっか~」

何の気まぐれか分からないが、今後ノイエの姉たちは絶好調の状態で外に出ないでもらおう。

アイラーンの様な魔法を使われたら僕らの体がヤバいです。

「兄様。お姉様」

唯一動じていないポーラが凄い。

もう眉1つ動かさずに惨劇を見ている。

「何か別の物が来ます」

「はい?」

決死の覚悟で顔を上げたら……本当に違うモノが来た。

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