作品タイトル不明
大人になっちゃった!
ブロイドワン帝国・某所
男はガタガタと震えながらそれを見ていた。
太陽が昇るところをだ。
東の空から広がる光が闇を食らい消してゆく。
その様子を男はガタガタと震えながら見ていた。
鼻の曲がった男だ。
自分がどうしてこんな場所に来たのか……今となっては分からない。
ただ逃げることも出来ずに震えていた。
《終わってくれ……終わらせてくれ……》
そう心の奥底から強く願いながら昇る太陽を見つめていた。
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
全体的にぼんやりと明るい場所をその人物は進む。
全身をフード付きのローブで隠した人物だ。
この場所はそれほど広くはない。というよりも荷物が多すぎて自由に動き回れる場所が少ないのだ。
今も転がっている魔道具を蹴り退かし、通路を進んでいた。
《掃除してくれる人が欲しくなるわね》
招待すれば“左目”から連れて来ることもできるが、それはそれで面倒臭い。
この場所の秘密はまだ多く、その全てを明かせない。
静かに歩いて通路を曲がる。
広い空間にはガラス容器に封ぜられた生物標本のような人の姿があった。それも複数だ。
《ここは自動的に清掃されるから良いんだけど……》
1つ1つの標本……の様に見える左目の住人たちの肉体を確認しながら進む。
誰もが全裸でガラス容器の中に浮かんでいた。
別にこんな手間のかかる安置方法など必要とはしなかったが、その人物はあえてこうした。何故ならば見た目は重要だからだ。
ふと足を止めた。
銀色の長い髪が特徴的な女性の前でだ。
《ちゃんと着床してたから問題は無さそうね》
「ちゃんと育みなさい」
ポンポンとガラス容器を叩いてまた歩き出す。
向かう先は別にある。
何歩か進みまた足を止めた。
中身は赤く長い髪が特徴的な女性だ。間違いなく美人であり、スラリとした足は……まあ美しい。負け惜しみではない。それなりに美しい。
でも胸は貧相だ。少女かと思わせるほどに申し訳程度だ。
相手の弱点を見つめひと通り胸の内で嘲笑してから、ポンポンとガラス容器を叩く。
「足掻いて見せなさい。術式の魔女」
ニヤリと笑いその人物は歩き出す。
「私が唯一、後継者にしても良いと思ったのは貴女ぐらいなのだから」
言葉を残しその人物はさらに奥へと向かう。
たどり着いた場所は、またガラス容器の前だった。けれど今まで見て来た物とは明らかに大きさと形状が違う。
しいて言えば試作中の実験道具のようにも見え、雑多な配管などが見て取れる。ただその配管が何処に繋がっているのかは……いまいちよく分からない。
中には膝を抱くようにして眠る少女が居た。
プカプカと容器内を漂う少女は、ドラグナイト家の末妹であるポーラだ。
《自分で頑張ると言ったのだからその言葉を現実にして見せなさい》
そっと容器に背中を預け、ローブ姿の人物は薄っすらと笑う。
「こんなサービス、滅多にしないんだからね」
頑固な弟子に対して師匠である人物はそう呟いていた。
ブロイドワン帝国・帝宮内地下室
「夜が明けるわ」
音も立てずにその場所に来た人物は椅子に腰かけている男性に声をかけた。
身動き一つしない男性は……虚ろな目で天井を見上げている。時折薄く開いた口からは吐息の様な笑い声がこぼれ落ちる。
彼の名前はハルツェン・ウム・セルスウィンという。
セルスウィン共和国の国家元首だ。
そんな彼は椅子に腰かけ、脱力していた。
「もう直ぐよ」
訪れた人物……魔女マリスアンは背もたれを掴み体を前屈みにすると、相手の耳元にその血で濡れたような鮮やかな赤色をした唇を寄せた。
「もう少しで貴方に、貴方が望むような復讐をさせてあげるわ」
それを望み彼はこうして人間を辞める実験を受け入れたのだ。
まあマリスアンとしては説明が面倒だったので、詳しいことは話していない。もしかすると人でなくなるという部分も割愛したかもしれない。
実験が進むにつれて彼は『騙したな! 魔女よ!』と叫んでいたかもしれないが、決して騙してなどいない。ただ『復讐の手伝いをする』とだけ約束をしたのだ。
その方法に口出しされるいわれはない。
「大丈夫よ。国家元首様」
そっと相手の首に腕を回して魔女は彼の頬に唇を当てた。
「ちゃんと貴方は復讐を果たす」
そうでなければここまで準備した意味がない。
「けど……最後に笑うのは私。この私なのよ」
クツクツと喉の奥で笑い魔女はゆっくりと相手から離れる。
「……」
「何かしら?」
薄く開いている相手の唇から声がこぼれた気がして、魔女は耳を澄ませる。
「腹が……空いた……」
「あら? ごめんなさいね」
クスクスと今度は声を立てて魔女は笑う。
「貴方が食べ過ぎてしまったから、この帝都で生きている人間は2人だけなのよ」
「……」
「その内1人は昼までに何も無ければ殺す手はずになっているから、その時連れてきてあげるわ」
笑いながら魔女は地下室を出た。
腐臭を纏い部屋を出た魔女はゆっくりと地上へと向かう。
《この帝国に存在する魔法の全てを以て迎え撃ってあげるわ……あの馬鹿夫婦を》
クツクツと笑い魔女は歩く。
真っ暗な地下室の廊下をだ。
ブロイドワン帝国・帝宮内とあるベランダ
「確りして」
「む~り~」
ベランダの手摺りに身を乗せ、小柄な少女の様な容姿を持つ女性が、全力で胃の中の物を吐き出す。
二日酔いだ。昨晩飲み過ぎたツケだ。
「死ぬ~」
「だから飲み過ぎは良くないと」
「強く言ってよね」
「言ったでしょう?」
相手の身を案じつつも半ば呆れて見せる女性は、年の頃が二十代後半か。
褐色の肌とくすんだ金色の髪が特徴的だ。
整った容姿は悪くないが、酷い怪我を負っているのか……腕や足にはシーツを裂いて作られたのであろう包帯が巻かれている。
「言っても飲み続けたのは貴女よ」
「うるせ~。最後の酒になるかもしれないんだ。飲むでしょ?」
「ならその苦しみを甘受なさい」
「それとこれとは別~。うぷっ」
エロエロと生々しい声を響かせ少女は中身を戻す。
悪臭でしかない匂いを嗅がされ……女性は心底呆れながら横たえている体を少しだけ起こして空を見た。
太陽が昇る東の空をだ。
「水持ってこ~い」
「ここで動けるのは貴女かあの化け物だけよ」
「なら水持ってこ~い。化け物~」
本当に死が迫っているのか……女性は一瞬真剣に悩んでしまった。
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
今朝はポーラが起こしに来てくれなかった。
おかげでノイエのスイッチが朝から入って襲われたよ。
何でこれから出かけるのに疲れなきゃいけないの?
二回戦ほど終えて気づいた。やはりポーラが来ない。
彼女の部屋を覗きに行けば無人で……仕方なく僕が朝食を作った。
作っていく傍からノイエが食べてしまうので、彼女が満足するまで新しい競技を堪能することなった。
それも終わり旅支度も済んで気付く。
ポーラが居ないとリグの故郷に移動できない。
「ロボ。どうにかしろ」
『なんでやねん』
「こっちのセリフだ!」
軽く蹴り飛ばして留飲を下げた。
室内に居ても仕方ないので別荘に鍵をかけて回り、僕らは外でポーラの帰りを待つこととした。
「アルグ様」
「はい?」
ぼんやりと木陰で時間を潰していると、抱き着いていたノイエがアホ毛を振るってある一点を指さす。
「小さい子?」
「何故に疑問形?」
指さす方を見るとたぶんポーラが居た。
いつも通り箒に跨り……あれ? 何かが変だ?
「兄様。姉様」
飛んで来たポーラが箒を掴んでそのまま自由落下して来る。
見た感じ10mの急降下だ。
スタッと着地した彼女は何かが違う。具体的に言うと……
「大人になっちゃった!」
そう。身長が伸びて大人びていたのだ。
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