作品タイトル不明
自分で頑張るか、他人を頑張らせるか
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
「ノイエ? まだ起きてる?」
「……はい」
「寝てたよね?」
「違う」
「正直に言いなさい」
「寝てない」
間違いなく頑固モードに突入したからこれ以上の追及は意味をなさない。
寝がえりを打って横を向く。隣にはウチの可愛くて美人なお嫁さんが横たわっていた。
「寝てない」
「はいはい」
顔を近づけて頬にキスするとノイエの言葉が止まった。
「なに?」
「ん~。ちょっと緊張してるのかも」
「どうして?」
「ノイエは怖くないの?」
「……怖いは分かる。アルグ様が消えるのは怖い」
ノイエも寝がえりを打って僕の方に体を向けて来た。
「消えるのはダメ」
「はい」
「ずっと一緒」
「だね」
「お肉は牛3頭分まで」
「誰への言葉だ?」
「果実はおやつに含まれる」
「あの馬鹿賢者か」
手を動かし良し良しと頭を撫でるとフルッとアホ毛が回った。
「アルグ様」
「なに?」
「……足が好き?」
「足も好きです」
「私のは?」
「大好きだよ」
「赤いお姉ちゃんと比べたら?」
「美しさならアイルローゼかな。でも一番好きなのはノイエの足」
「……はい」
腕を伸ばしてきたノイエが僕の背中に手を回してギュッと抱き着いて来た。
僕の胸に彼女の胸が触れ、柔らかなクッションとなる。
「なに?」
「最近リグのばかり見ていたせいか、普通の大きさに安心感を覚えました」
「大きいのは嫌い?」
「嫌いではない」
「小さいのは嫌い?」
「嫌いではない」
「私のは?」
「大好物です」
ギュッとノイエを抱きしめ返して存分に彼女の胸の感触を味わう。余は満足じゃ。
「アルグ様」
「なに?」
「緊張は?」
「ん~。薄まったかな」
「はい」
そっとノイエがキスして来る。
いつもの感じと違い軽く唇を触れさせる感じでだ。
「それで良いの?」
「今はこれ」
「そっか」
もう一度同じキスをしてノイエがクルっとアホ毛を回した。
「大丈夫。起きたら頑張る」
「ですか」
「それに……忘れた」
「思い出そうか?」
気になるからちゃんと最後まで言いましょう。
「忘れたことは忘れたままで良い」
「名言っぽいことを言ってるけどノイエの場合いつもだよね?」
「違う。覚えてる」
「なら明日することは?」
「……すぅ~」
お~い。ノイエさん?
「起きなさい」
鼻を抓んで刺激するとノイエの瞼が開いた。
「なに?」
「寝て起きて無かったことにしない」
「寝てない」
「なら答えなさい」
「何のこと?」
「ノイエさん?」
「知らない」
顔を振って鼻を抓んでいた僕の手から逃れたノイエがギュッと抱き着いて来る。
「アルグ様」
「何でしょう?」
「大好き」
「僕もだよ」
「ずっと一緒」
「そうしようね」
「赤ちゃん欲しい」
「歌の人が産んでくれるって」
「……本当?」
ブワッとノイエのアホ毛が起き上がった。そして大暴れだ。
落ち着けアホ毛。と言うかこのアホ毛は本当に毛なのか?
何よりノイエのこの興奮具合は……そう言えば僕ってノイエにこの話を正式にしたことってあったっけ? いつものようにノイエが立ち聞きしていて、言ったつもりになってただけかな?
「歌の人に赤ちゃん?」
「らしいよ」
「アルグ様の?」
「らしいね」
「……嬉しい」
ちょっと苦しいぐらいにノイエが抱きしめて来る。
「嫌じゃないの?」
「どうして?」
それは……夫が浮気して……と言うかセシリーンとは結婚しているから、側室と言うか愛人と言うかそんな存在が正室のノイエよりも先に子供を産むって言うことに対しての不満は無いのかな?
「ノイエが先に産みたいとかは?」
「後で良い」
即答でした。何故迷わない?
「どうして?」
「お姉ちゃんは必要」
「……」
少し腕を緩めてノイエが真っ直ぐ僕を見る。
「お姉ちゃんが居て良かった。赤ちゃんにもお姉ちゃんが居た方が良い。きっと楽しい。きっと嬉しい」
「そうだね」
そんな魔眼の中の人たちが狂喜乱舞するようなことを言わない。
本当にまたカオスな宴が催されなけれ良いけど。
「家族は仲良く」
「そうだね」
「いっぱい笑える」
「そうだね」
「私のように」
「そうだ……ちょっと待て」
「なに?」
聞き捨てならないとはこのことか?
「ノイエは笑っていると?」
「笑ってる」
「いつも」
「はい」
「……」
「なに?」
これはどう解釈したら良いのだろう?
「笑って見せて」
「分かった」
若干フルフルとアホ毛が揺れた。
「笑った」
「もっと大きく元気よく」
「はい」
左右にアホ毛が大きく揺れた。
「頑張った」
「いっぱい笑った?」
「はい」
「そっか……」
つまり僕の推測であった『ノイエの感情はアホ毛を見ろ』は間違いでは無かったらしい。
学会に何かしらの何かを提出するべきかもしれない。何の学会かは謎だけど。
「アルグ様」
「ほい?」
ふとノイエがジッと僕の目を覗き込んできた。
「小さい子」
「えっと……」
「妹」
「ポーラか」
小さい子は複数いるから困るです。
「ポーラがどうかしたの?」
「……あの子は最後」
「何が?」
「小さいから最後」
「どういう意味?」
「妹は最後で良い」
「……」
ノイエさん的には自分の子供を最後まで『妹』で居てさせてあげたいと。
「我が儘だな」
「我が儘じゃない」
「なら何?」
「……妹が一番楽」
「ノイエさん?」
ちょっと目力を込めて相手の瞳を覗いたら、スッとノイエが瞼を閉じた。
「すぅ~」
迷いなく急速潜航で寝落ちしたよ。
本当にノイエは可愛くて……そんな彼女の寝顔を見ていたら僕も眠くなって来た。
目を閉じてノイエを抱きしめて呼吸を落ち着かせる。
気づけば緊張なんて物を忘れていた。
「ししょう」
『さっさと寝なさい。明日は忙しいんだから』
ベッドの上で横になっているポーラは天井を見上げながらまた口を開いた。
「ししょう」
『ダメよ。これ以上は手を貸さない』
「ぜんぜんかしてません」
『貸したわよ。見えないだけで』
「いみがありません」
『それでもよ』
そっと目を閉じたポーラがゆっくりと瞼を開く。
右目に模様が浮かんでいた。
「ユーアの馬鹿は馬鹿だけどその強さは間違いなく私たちの中で最強だった。その最強を殺すのだからこれくらいの敵に負けて欲しくないのよ」
『でも』
「デモもテロも無いの。少しは根性を見せろって話よ」
『……』
全力で拗ねだした弟子に対して、師である刻印の魔女は胸の内で嘆息した。
「私はね……頑張らずに救いを求める人は嫌いなのよ」
仕方なく弟子に語り掛ける。その声に勘の良い弟子はやはり気づいた。
『ならがんばります』
「言葉だけなら」
『がんばります』
「……どこぞの姉と同じね。圧が強い」
《全く……仕方ない》
「なら少しは頑張って見せなさい」
『はい』
元気に頷く少女に魔女は薄く笑った。
「じゃあ選ばせてあげる」
『えらぶ?』
「そうよ」
ベッドに横たえていた体を起こして、刻印の魔女はそっと壁に掛けられている鏡を見た。
「自分で頑張るか、他人を頑張らせるか……貴女はどっちを選ぶのかしら?」
『じぶんです』
「即答ね。悪くないわ」
我が儘な弟子の期待に師である魔女は応えることに決めた。
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