作品タイトル不明
私は可愛い王妃様です~
ユニバンス王国・王城内国王夫妻寝室
「今夜もシュニット様を独占です~」
満面の笑みを浮かべベッドの上へとやって来た相手に、ユニバンス王国の王妃が飛びつき抱き着いた。
「分かっていると思うがキャミリー?」
「分かっているです~。お仕事はちゃんとするです~」
言いながらも少女のような容姿の王妃は夫である彼の足の上に腰かけると、背中を預けて甘えだした。
「これが幸せです~」
「キャミリー?」
「幸せが短いです~」
とは言ってもここ数日は相手を独占している。あの強敵である“仕事”よりも自分の方に多く時間を割いている。圧倒していると言って過言ではない。
「それでキャミリーよ。西部は本当に任せても大丈夫だと思うか?」
『にゃはは』と笑っている王妃が表情を正した。
「あれはアルグスタおにーちゃんへの宿題です~。きっとどうにかするです~」
「つまり西部以外の問題にあたるべきだと言いたいのだな?」
毎晩情報を持ち寄り話し続けた結果、王妃の中では西部の問題はそこまで高くは無かった。
それを察した国王……シュニットは小さく頷き返す。
「ならば他の地区について問おう。お前は何処が一番問題が起きると?」
「決まっているです~。東部です~」
迷うことなくキャミリーは明言した。
「何故だ?」
「クロストパージュ家は大きく強くなり過ぎたです~。王家という後ろ盾を得てしたい放題です~。みんなそう思っているです~」
「お前はそう思うか」
「です~」
相手に背中を預けたままでそっと肩越しにキャミリーは相手を見た。
「大きくなれば周りから妬まれるです~」
「確かにな」
「それにクロストパージュ家には昔から嫌な噂があると聞いたことがあるです~」
それは古くから言われている陰口だ。
「血の呪いか。そのせいで男が余り生まれないと言われているな」
「です~」
にゃぱっと笑ってキャミリーは軽く咳払いした。
「魔力を持つ女性と言うことでクロストパージュの血統はこの王国に多く広がっています。どの貴族も血筋を遡ればクロストパージュ家に通じるほどです。それを快く思わない貴族は多いのです」
「自分たちから魔法使いを得ようと嫁がせておいて酷い考え方だ」
「それが貴族です。その貴族を減らそうとする陛下とそれを支持するクロストパージュ家……他の貴族たちは面白くないでしょうね」
「だったら国のために働き、自身の存在意義を示せば良いものを」
苦笑しシュニットは優しく王妃の頭を撫でてやった。
「お前ならクロストパージュ家をどう攻める?」
「……一番簡単なのはハーフレン様が得意としている方法だと思います」
「つまりは暗殺か」
血の呪いを持つクロストパージュ家を相手に用いるならこれ以上の手段は無い。
あとを継ぐ直系の男性が極端に少ないのだ。
故に……それ等が居なくなれば後継者争いで家が割れかねない。
「ならばお主はどう対策を取る?」
「決まってます」
『コホン』と咳払いをしてキャミリーは相手に甘える。
「アルグスタおにーちゃんのおかげで、この国の暗殺者の数は減ってます。だから暗殺者となりそうな人物を調査し先手を打てばいいのです~」
「お前と言う者は本当に恐ろしいな」
「酷いです~。私は可愛い王妃様です~」
『にゃはは』と笑いキャミリーは体を捻ると、相手の頬にキスをした。
ブロイドワン帝国・帝都帝宮内
「明日の正午までは待つわ。それ以上待って何も無ければユニバンス王国に向け進軍を始める。宜しいかしら?」
「へ~い。その旨を本国に伝えておきます」
「そうしてくれる」
ベランダに姿を現した化け物の一方的な宣言に対し、ユニバンス王国の騎士であるミシュは欠伸交じりで返事をしていた。
身構えても仕方ない。礼儀作法も面倒臭い。何より相手は化け物だ……こちらもそれに匹敵する化け物を連れて来なければ勝負にならない。
よって色々と諦めミシュはワインの瓶に手を伸ばす。
「それにそっちの道具は……来てくれない方があと数日長生きできるわよ?」
んくんくとワインを煽る馬鹿から視線を巡らせ、横たわる女性に化け物は視線を向ける。
「死ぬことが決まっているなら明日でも数日後でも変わりません。私はただ時間が来るのを静かに待つだけです」
「そう。つまらない女ね」
吐き捨てるように言葉を放ち、帝都を支配する化け物は建物の奥へと消えて行った。
耳を澄まして相手が離れたことを確認し、ミシュは空にした瓶を置いて次を探す。
「本当に好きなのね。お酒が」
「……これだけが私の嫌な現実を忘れさせてくれる存在なのよ」
掴んだ物が空だったので、ミシュはそれを股間に運び太ももで挟む。
「本当は血の通った男性のこれを味わいたいのにっ!」
「……無理矢理は痛くて辛いだけよ。それに毎日されると何も感じなくなるし」
「……」
ただの道具として扱われていた経験のある女性……リグの言葉は本当に重かった。
ずっとこうしてベランダで生活して来た2人には言葉に出来ない繋がりが生じていた。
つまり……もういい歳なのに独身女性だと言う残念な共感だ。
「でも私まだ処女だし~」
「はん。その年齢で処女ってだけで男は引くわ」
「うっわ~。自分なんてガバガバじゃん」
「煩いわね。使ってないと自然と締まって行くのよ」
「うっそだ~」
ケラケラと笑いワインとつまみでミシュは機嫌を良くする。
片や亡国の王女を演じる女性は、スープに浸して柔らかくしたパンを口に運ぶ。
リグの体はボロボロで正直辛いがまだ死ねないのだ。
だから必死に腹を満たして活力を得ようとする。
「ぷは~。で、リグさんや」
「何よ?」
「もし運良く生き残れたら……その後は?」
「本物の王女様を探すわ。貴女の国に居るのでしょう?」
「前上司が隠しているっぽいけどね」
「ならその前の上司様を紹介して。何をしても、どんなことをしても……私はリリアンナ様に逢って謝るの。そう決めたのよ」
「で、その後は?」
「……死ぬまで王女様にお仕えするわ。それが私のしたいことよ」
「かぁ~。おもっ」
中身の入ったワインを見つけ、ミシュはそれを軽く煽る。
「自分の幸せとか探さないの?」
「……必要ないわよ」
パンを食べる手を止めてリグは相手を見つめる。
「どうせ長くは生きられないのだから」
「そっか~」
ゴロッと横になり干し肉を口に運んでモグモグしながらミシュは夜空を見上げる。
この夜が終わり朝が来れば……自分たちには死の時が迫って来る。
きっとあの化け物のことだ。手など抜かずにちゃんと殺しに来ることだろう。
「貴女こそ結婚はしないの?」
「あはは~。相手が居ればいつでもするよ~」
「そう。する気が無いのね」
「人の話を聞いてたかな?」
上半身を起こしてミシュは相手を見る。
食事を口にするようになって多少回復して見えたリグではあるが、あくまで多少だ。
全身には酷い怪我を負い、その治療は全く出来ずにいるのだ。
無事に生き延びても……現在進行形で確実に命の火は消えだしている。
「私は相手が居れば結婚するよ?」
「つまり相手が見つからない限り結婚はしないということでしょう?」
「……」
「貴女はその気が無いんでしょう?」
相手の言葉に押し倒されるようにミシュはまたゴロッと横になった。
「……なんか良く分かんないんだよね~」
「何が?」
「今までたくさん人を殺してきたからか、自分が結婚して子供を産むとか想像できない」
淡々と、ただ淡々とミシュは言葉を紡ぐ。
「もし私が子供を産んでも……きっと考えることは決まっている。『この子は誰を殺すんだろう? この子は誰に殺されるんだろう?』ってね。
きっと私は生まれた我が子を愛せないと思う。と言うか愛っていうものが良く分からない」
「それは」
「分かってる。実際産まなきゃってことでしょう? でも私の中には愛情は無い。死は誰にも平等で必ず訪れるものだと理解してから……私は相手に対して何も思わなくなった」
『あはは』と空しくミシュの笑い声が響いた。
「はっきり言えば、私は今すぐにでもこんな風に会話している貴女を殺すことが出来る。躊躇なく一瞬でね。それは私にとっての当り前だから……」
一度口を塞いでミシュは今一度星空を見た。
「私みたいな殺人鬼は、このまま消えてなくなれば良いんだと思う。たぶんそれが私の宿命って奴なんだと思うよ」
「そう。……そうなのかもね」
リグとしては相手に掛ける言葉が見つけられなかった。
全てを諦め、そして死を伴侶としてしまっている相手に対して。
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