軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ニクが居ません

ユニバンス王国・王都内

「団長」

「おう」

「近衛騎士の配置は完了しました」

「そうか」

鷹揚に頷きユニバンス王国近衛団長たるハーフレンは簡易式の椅子の上で足を組み替えた。

朝からフル装備で待機している。昨日からこの状態だ。

国の守護たるドラゴンスレイヤー夫妻が他国に向かいドラゴンの脅威から国を守るため守護の任に着いた。とは言っても近衛の仕事は王城と王家の守護だ。故に王都からは出ない。

外で国軍を指揮している大将軍に比べれば楽な仕事だとも言える。

だがハーフレンとて決して楽な仕事をしているわけではない。こうして存在を見せることで国民に安心感を与えるという役目があるのだ。

だからこそのフル装備だ。炎天下でのフル装備だ。

《暑い……》

メイドが日傘を差し出しているが変わりはない。

《あと数日はこれをせねばならんのか……》

事務仕事から解放されるが、これはこれで地獄でしかない。

とは言ってもあの馬鹿な弟の代わりなどしたくはない。何処の世に罠だと分かっている場所へ飛び込まなくてはならない。出来ることなら逃げ出すことを考える。

《それでも行くのがあの馬鹿か》

苦笑してハーフレンは顔を上げた。

ジリジリと容赦なく照り付ける太陽に目を向け……その目が点になった。

ふよふよと箒に跨った小柄なメイドが視界の端から端へと移動して行ったのだ。

錯覚かと軽く目頭を揉んでまた空を見れば、今度は巨大な包みを背負った存在が宙を蹴って移動して行った。

そんな芸当が出来る人間などただ1人しか居ない。

「……」

流石に言葉が出ない。出て来ない。

喉の奥に張り付いた感じで激しい抵抗を見せる。

「……アルグスタ~!」

だが彼は怒りで声を発する。

それは自分の弟に対する怨嗟の声だった。

ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機所

「……」

空を見ていたルッテはそれに気づいた。

ほぼ反射的に祝福を使い確認もした。間違いない。

この国で通行の邪魔だからと言った感じで宙を舞うドラゴンの頭を踏みつけ移動する人物など1人しかいない。隊長だ。隊長のノイエだ。

そんな彼女はこれでもかと荷物を背負って移動していた。

先を行くのは彼女の義理の妹であるメイドだ。何故か箒に跨り移動している。

「ルッテ様。あれは?」

「あっうん。隊長ですね」

「ですよね」

唯一ドラゴン退治の切り札となっている同僚のモミジの声でルッテは我に返った。

これから集めているドラゴンを退治しに向かう予定なのだが、集めている場所を問答無用な存在が横切って行ったおかげで彼女の仕事は極端に減った。

代わりにドラゴンの死体が極端に増えている。

「昨日から帝国の方に向かったと?」

「私もそう聞いてるんですけどね~」

頭を掻いてルッテとしても笑うしかない。

昨日帝国に向け転移魔法で彼女ら夫婦は移動したのだ。けれど翌日には王都上空を大荷物を抱えて移動している。これは間違いなく大騒ぎになるはずだ。

「……アルグスタ様ならどうにかするんだろうけど」

「ですね」

何故か2人は最初から諦めた様子でそう呟くのだった。

ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘

「あ~寝そう」

足を温泉の湯に浸して寝っ転がる。枕が良いから寝落ちしそうだ。

とりあえず砂漠しかないリグの故郷に居ても仕方ないということで移動することにした。

ただし僕らが持っている魔道具だと行き先が王国の中庭か、帝国の帝都となる。どっちに行っても厄介だ。

そんな訳でポーラの中の悪魔の出番だ。

『温泉行かない?』『行く』のあっさり交渉で終了した。

先に僕らが別荘に飛ばされ、後からポーラがやって来た。悪魔の転移には人数制限でもあるのか謎だが、やって来た彼女はさっさと体をポーラに返して引っ込んでしまった。

で、問題だ。

今回は僕らだけで別荘に来た。

別荘の周りには塀や罠が存在していて宙を舞うドラゴン以外は簡単に入って来れないが、それでも生活するには不便だから常駐する管理人などは居ない。

掃除やら何やらを全部僕らでするしかない。

まずは食料の調達と言うことでポーラとノイエに行って貰った。ノイエだけ行かせるとお肉しか買って来ない。魚や野菜も食べたいのです。だからしっかり者のポーラの出番だ。

僕らは留守番である。こうして足湯に浸かっているのは、最初掃除でもと思ったんだけど……もう少しでリグが戻ってしまうのです。

ならば戻るまでのんびりしようと思ったのです。

「これって楽しいの?」

「最高の景色です」

「ふ~ん」

乗り気では無かったリグに膝枕をしてもらっている。

はっきり言うと僕の視界の大半は飛び出している塊で何も見えない。時折リグが眠りかけては僕の顔に双丘を押し付けて来るから視界がゼロになることもある。

「ねえリグ」

「なに?」

「実は王女様だった一件はどうする?」

「……聞かなかったことにする」

視線を遠くに向けて彼女は重たい口を開いた。

「ボクは魔法使いで医者だ。義父さんの養女でナーファという妹も居る。出自はそれで良い」

「良いの?」

「君はボクが王女様の方が良いの?」

「全然。気にもしないよ」

そっと手を伸ばしてリグを抱き寄せる。

問題はリグのお腹に頭頂部を預ける格好なので、抱き寄せると顔の大半がプリッとしたモノで覆われた。

「何がしたいの?」

「おかしいな。ちょっとこう良い雰囲気になるはずが……リグの大きすぎ」

「煩い」

「でも嫌いじゃない」

「……煩い」

リグが『黙れ』とばかりに胸をギュッと押し付けて来た。

「リグはリグのままで良いよ。ただ名前はそのままで良いの?」

「良いよ」

胸を離して彼女は体を起こす。

「リリアンナなんて知らない。それにリグ・イーツン・フーラーの名を汚してしまったからね。それを従姉に押し付けて本来の名前を名乗るだなんてことは出来ない。

悪名とこの名前はボクが最後まで手放さずに居るよ」

「そっか」

意外とリグってば真面目なんだよな。

普段は裸族の寝子だけどさ。

「リグがそれで良いなら」

「うん」

フッと頭のクッションがなくなり僕はしたたかに後頭部を打ち付けた。

おおう……リグさん。戻るなら戻ると言って欲しいものです。本気で。

「で、僕は重要なことに気づきました」

「なに?」

日が沈み掃除を終えた温泉に家族3人で浸かる最中、僕はその重要なことを思い出した。

「ニクが居ません」

「……さっき食べた」

それは君らが買い込んできたお肉だよね? 僕が言っているのはリスのニクだよ? 大丈夫?

「兄様大変です」

「どうしたポーラ?」

のほほんと温泉に浸かっているポーラが小さく手を上げる。

「宝玉も1つ足りません」

「なに?」

2つあるでしょ? リグが消えて元に戻り……その隣に緑色した球体が鎮座していた。

「紛らわしいんだ! このロボは!」

『なんでやねん』

投げたハリセンを食らいロボは転がって行った。

『ハ〇ハ〇』は流石に寄せ過ぎだからと言うことで、発声できる言葉を悪魔に言って変更させた。『なんでやねん』ならば問題無いはずだ。僕はそう思う。

「つまり僕らは後でリグの故郷にニクと宝玉を回収しに行かないといけないわけか」

「ですね」

のほほんとしているポーラが簡単に頷く。

もう君は色々と開き直ってしまったの?

出会った頃の恥じらいを思い出して。あの頃の君は僕に肌を見られることを必死に抵抗していたよ?

「何ですか兄様?」

「ポーラから恥じらいが無くなってしまったと……兄として後悔しているところです」

「あ~。無理無理。結構早い時点でこの子は貴方のお嫁さんになるって決めていたから」

「って悪魔だったんかい!」

のほほんと細目にしていたから気づかなかったわ!

悪魔にハリセンを投げつけ……今日の所はさっさと寝よう。本気で眠いです。

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