作品タイトル不明
あざ~す
旧フグラルブ王国領・王都廃墟
早朝から砂の上で正座とは、我が人生どうしてこうなった?
「本当に馬鹿なの? 貴重な時間を何だと思っているの?」
「うむ。それはそれは大変貴重な時間を過ごせました! 後悔も悔いもありません!」
「死にさらせや!」
「あざ~す」
悪魔が振り下ろしたハリセンが僕の頭を猛烈に叩いた。
キラキラと星が奇麗に舞うもんだな。
「分かっているの? あの子は基本お人好しの馬鹿なのよ!」
「馬鹿とは失礼な。ノイエが良い子なのは認めるが」
「大馬鹿のお前は黙ってろ!」
「あざ~す」
またハリセンが振り下ろされた。それを僕は黙って食らうしかない。
ノイエはこっちを見ながらもきゅもきゅと山のような果実を口に運んでいる。
リグはゴロゴロしながらこっちを見ているが大変眠たそうだ。
「少しは時間が貴重だとか考えないの? 普通こんな状態が長く続くとか思わないでしょう?」
「思いませんでした!」
「だったらどうして根掘り葉掘り話を聞かない!」
「不条理なり!」
勢いに任せて叩かれた気がする。
「だって流暢にノイエが喋るんだよ!」
振り下ろされ後頭部に置かれているハリセンをそのままに頭を持ち上げる。
真っ直ぐ迷いのない目で僕は相手を見た。何度でも言おう。後悔など無い。
「ノイエの言葉攻めだなんて貴重過ぎて永遠に保存しておきたくなったわ!」
「お前のその中身のない頭の中にでも保存しておけ!」
「下からのアッパーは酷い!」
まさかの二刀流に変化し、悪魔が地面すれすれからのアッパー気味の一撃を顔面に!
「本当に馬鹿なの? あれを見なさい!」
ハリセンを一本消して悪魔がノイエを指さす。
もきゅもきゅと幸せそうにアホ毛を揺らして彼女が果実を食べているね。
「もう完全にリラックスしてるじゃないのよ! ある意味いつも通りよ!」
「でもまだ多少は会話が成立するよ? そうだよね? ノイエ」
「はい」
もきゅもきゅが止まらないがノイエが頷いて来る。
「だぁ~! これだから見えざる者は!」
見えないんなら無理を言うなと言いたいが?
「あの子の周りには亡霊が集まってもう雑音だらけなのよ!」
「つか見えないし、昨日払ったのに早くない?」
幽霊ってそんなに大量に居るものなの?
「この馬鹿は!」
「あざ~す」
止まらないハリセンにまた目の前で星が舞った。
「あの子は聖女なのよ! その特性から自然と死者を集めてしまうの!」
「……つまり?」
「体育会系の全寮制な男子校の校舎内に半裸の美少女を置いた感じよ!」
何て危ない。それはもう必ず事件になってしまう。
「あれは存在するだけでワラワラと死者が集まるの! 挙句に背後霊を気にして除霊をしないから集まる一方なの!」
「つまりユーリカが悪いと? 本当に使えない姉だな」
あれ? 何故か首が冷たくなって意識が……。
ノイエが投げて来た果実が僕の前を過ぎてリグの傍で止まった。
違和感が消えて意識が戻った。
「ノイエ。食べ物を投げるのは良くない」
「ん。分かった」
飛んで来た果実の砂を払いリグももきゅもきゅと食べ始める。
ノイエはマイペースで大量消費中だ。
「はい先生」
「何よ?」
「だったらユーリカをどうにかすれば良いと僕は思います」
「……あれが許すと?」
フリフリとアホ毛を揺らすノイエは相変わらず可愛い。安定の可愛らしさだ。エンドレスでずっと見ていたい。
ああ。見たいで思い出した。
「ノイエ。耳を塞いで」
「もきゅ」
返事がおかしくなっているがノイエは果実で耳を塞いだ。ノイエだから許す。
「刻印の魔女よ」
「何よ?」
「……あとでこっそりアイルローゼ先生の秘蔵のローアングル録画を」
「このお猿がっ!」
「あざ~す!」
特大ハリセンが僕の頭に叩き落とされた。
「ってその特大ハリセン欲しいんですけど!」
何て素晴らしいアイテムを! 声を大にして『寄こせ』と言いたい。
「あん? 『大きくなれ』と思いながら出せば出るわよ」
「マジか……マジだ!」
僕のハリセンが大きくなっちゃった!
「ただし消費魔力が大きさに比例して増えるから気を付けてね」
「おおぅ……」
ガクッと疲労が。ほぼ徹夜明けな体には辛すぎる。
「で、どうするの? もうあの子と普通に会話とか無理だからね」
「……大丈夫。今日からノイエの耳元で中の姉たちを唆そうかと」
グイグイと冷たい何かが僕の首を強引に絞め続けるんですけど!
「ユー」
ビクッと震えて冷たい何かが首から離れた。
流石ノイエだ。一言で姉を制するなんて。
「まあ良いわ。人が折角……」
ピタリと悪魔が動きを止めた。
「しまった! この子のことを聞き忘れた! だぁ~。泣き出した。泣くな弟子よ!」
ジタバタと悪魔が暴れ出した。
「どうしたの?」
傍から見ていると恐怖映像だ。
砂の上を洋画のホラーばりにポーラがブリッジをして暴れている。
「昨日あの子から貴方のお嫁さんになる許可は得たんだけど」
「ちょっと待て。その話を詳しく具体的に」
「その質問は、ひとまずこっちに置いといて」
両手で何かを持って悪魔が横にそれを置いた。
「そもそもあの子ってこの弟子をどう思っているのか知らなかったのよね~。それを聞こうかと思ってたんだけど」
「ああ。ポーラは可愛い妹だって言ってたよ。でもお姉ちゃんは大変だからもうしたくないとか」
コクンコクンと何故かアホ毛で頷くお嫁さんが居るよ。
「だって。良かったわね。だから待ちなさい。まだこの馬鹿と話が……最近自己主張が激しいわね!」
フッとポーラの右目から模様が消えると、彼女はトコトコと歩いて行ってノイエに抱き着いた。
ただ妹に抱き着かれてもノイエは動じない。もきゅもきゅと果実を口に運び続けている。
「うむ。これでひとまず寝れるかな」
「……そろそろその緑の球体に触れたら?」
リグさんや。現実と言う嫌なことを思い出させるなよ?
何より僕はファースト派ではない。種派だ。緑よりメタリックな赤の方がしっくり来るのだ。
『ハ〇ハ〇』
「それを言うな~!」
立ち上がって思わず緑色の球体を蹴る。
結構遠くに飛んでいき……コロコロと転がって帰ってきやがった。
「何をどうしたらロボがロボになる!」
「だからロボじゃないの?」
「ジャンルが違う!」
僕の言葉が理解できないのか、リグが『何を言ってるの?』と言いたげに首を傾げている。
「どうしてこうなった! ポーラ!」
「……いらっとして?」
「何処のゆとり世代だ!」
「むらっともしたと」
「欲情したらロボがこうなるんか!」
「どこかのばかじゃないし、じょうだんだそうです」
「ですよね! って誰が馬鹿じゃい!」
うちわサイズのハリセンを呼び出してポーラに向けて投げる。
ウキウキとしながら待ち構えるポーラに向かい飛ぶハリセンを、何故かノイエのアホ毛が掻っ攫った。
クルっとアホ毛が持ち手に巻き付いて、自分の方に引き寄せて彼女の頭を叩いて消えた。
「もきゅ」
「何故喜ぶ?」
そしてポーラは何故悲しむ? 僕のハリセンをご褒美扱いしないでください。
「はぁ~。何か朝から疲れたよ」
「それはほとんど寝てないから」
ゴロゴロしているリグからのツッコミが止まりません。それを言ったら君もだよね?
「ボクは魔眼に戻れば寝るだけだからね」
視線に気づいたらしいリグが起きだし背伸びをする。
脱ぎ散らかしている衣服を回収するとそれを身に着けだした。
「少しお腹が空いたかな」
「あ~。それは分かる」
果実はノイエが制覇する勢いだ。
これは何か別の保存食でも。
「ポーラ? 何か食べるものはある?」
「もうないです」
「はい?」
ギュッとノイエに抱き着いているポーラがこっちを迷いなく見る。
「もうねえさまがたいはんを」
「……」
母国を出て約1日。いきなり大問題を抱えました。
(C) 2021 甲斐八雲