作品タイトル不明
アイルはそんなに凄くない
ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領
「たたけばいいそうです」
「これで?」
「はい」
悪魔と通話したポーラが言うには、僕のハリセンでロボの頭を叩けば良いらしい。
勝手に人のハリセンを不思議アイテムにクラスチェンジするなと言いたいが、そういう仕様に変化しているなら仕方ない。
取り出してロボに向かい振りかぶると、何故かノイエが僕の前に来て頭を差し出した。
「ノイエさん?」
「ん」
『叩いて』と言わんばかりに頭を差し出してくる。
どうして叩かれることを望むのでしょうか? これは由緒正しい凶器だからね?数 多の芸人がこれを食らい表舞台から去って行ったという……そんな事実はないけれど。
「ほい」
「んっ」
パシパシパシと気の抜けた音を響かせハリセンがノイエの頭を叩く。
威力が無いのは僕のやる気が無いからだ。誰が好き好んで大切なお嫁さんの頭を叩くだろうか?
「むっ」
「膨れないの。あっちでリグでも抱いてなさい」
「むぅ」
怒った様子で頬を膨らませたノイエがリグの元に行き彼女を抱き上げる。
何だろう? あのノイエの胸に乗っかる大きな肉まん2つは? 自己主張が激しい。
「ノイエ。痛い」
「……大きいの良くない」
「仕方ない。育ったんだから。それにノイエも大きいよ」
「……むぅ」
苦情を言ったら褒められたものだからノイエが返答に困っている。
本当に愛らしい我がお嫁さんだ。
「ノイエがもっと強く叩いて欲しいみたいだけど?」
「言うなリグよ。夫としてそれを許せない時もある」
「そっか。君はノイエの尻を叩きたいんだね?」
「ちょっと待て」
ぬいぐるみか猫のように、ノイエの両手で抱きかかえられているリグさんの発言に大変不必要な言葉があった気がします。
お詫びと訂正を求めたいと思います。
「誰が尻を叩くって?」
「君。良くお城で小さな子らの尻を叩いている」
「あれは躾です」
脳内お花畑の義理の姉の教育の為に、僕は泣く泣く彼女を躾けているのです。よってあれは暴力ではありません。ギリセーフなのです。
「それにボクとする時も」
「ノイエ。そこのおっぱいな人物の口を塞ぎなさい」
「はい」
スッとノイエの手が動いてリグの口が閉ざされた。
知らない間にリグも恐ろしい言葉を吐き出す存在になっていた。
ってノイエさん? 何故若干期待げな眼差しを僕に向けているのですか? 叩かないからね? 振りじゃないよ?
「にいさま」
「ほい?」
危ないノイエとリグを警戒していたら、可愛い妹が僕の服の袖を引いた。
「おうひさまのかわりならわたしが」
「……」
「だいじょうぶです。いたくないので」
顔を真っ赤にしてプルプルと震えている妹様は何を口走っているのでしょうか? そろそろ本格的にポーラを一度修道院的な場所に預けて穢れを浄化しないとダメな気がするよ。
出会った頃のポーラはあんなにも純粋で清らかだったのに。これが都会の洗礼なのか?
「ポーラ」
「はい」
「ちょっとあっちで正座して反省してなさい」
「はい」
何についての反省なのか説明しなくてもポーラは言われたままに歩いて行って正座した。とても奇麗な正座だ。
「まあ良い。とりあえずロボの再起動からだな」
再びハリセンを構えてロボの頭に視線の先を定める。この距離で空振りするとかは流石にない。
「おっきろ~!」
バシッ! ゴキッ!
大変嫌な音が響いてゴロゴロとロボの頭が砂地を転がる。
あれ~?
ハリセンを消して歩いて近づき、そっとしゃがんで両手で持ち上げる。
首から先のロボの頭だね。うん。何か首らしき部分のパイプから奇麗に千切れているな。
「誰か~! この中にお医者さんは居ませんか~!」
「居るけど無理だね」
「頑張ろうよリグ!」
「無理」
「誰か~! 助けてくださ~い!」
砂漠の真ん中で何かを叫んでしまった。
だって聞いてないし! 頭が取れるとか聞いてないし!
「ノイエ~!」
「はい」
「先生は? アイルローゼは?」
「……誰?」
首を傾げるなノイエ。みんな君のその記憶力を理解しているけれど、実際に忘れられているのを知るのは心に大ダメージだから!
「赤い髪が長くて美人でお尻から足の曲線が完璧なまでに奇麗な君のお姉ちゃん」
「「……」」
何故かノイエとリグが冷たい目を僕に向けて来る。
背後には……頭の無いロボの首から下が居るね。うん居る。
「褒めすぎ」
「むぅ」
「はい?」
背後に向けていた視線を戻すと、若干ノイエさんのアホ毛がお怒りに。
あら不思議。もう1つの宝玉は何処に消えたのだろう? と言うか宝玉担当の我が家のペットであるニクはどこに行った? 食われたか? あのワニっぽいのにパックンされたか?
暴走する思考の中でリグがまた口を開いた。
「アイルはそんなに凄くない」
「キィ~!」
「食わないよ。全く」
日が沈み熱せられていた砂が冷えだしたのか辺りの空気が冷たくなっていた。
1人焚火の前に座っていた 食人鬼(オーガ) は、暖を求めて近づいて来たリスを捕まえる。
何故だか抵抗が激しい。食わないと言っているのに失礼な獣だ。
「あまり言うことを聞かないなら頭から食らうぞ?」
「キィ~」
哀願するような弱々しい声を発しリスは巨躯の女性に指でつままれる。
猫持ちの体勢で首の後ろを掴んだリスを、オーガは色々と観察し始めた。
「ただの獣だな。これを守っていろとは……意味が分からん」
この場から突如居なくなったメイドが残した言葉がそれだった。
『その子はとても大切な存在なの。何かあると弟子が泣くのよ』と。
弟子やら何やら意味が分からないが、ただ子供が泣くのを見るのは好きではない。
仕方なく捕まえて焚火の近くに置いておく。
「それよりこんな場所で待機って……寝るしかないだろう? 全く」
これまた預かった透明な球を枕にオーガはゴロリと横になると、紺と黒が織りなす天空を見上げた。
金色の砂金をぶちまけたように満天の星空が広がっている。
「まあ星見て一杯するのも悪くない」
一杯ではなくワイン瓶を口にし一気に喉の奥へと流し込む。
「休むだけ休んで暴れられるならアタシには文句なんて無いんだけどね。ん?」
気づいたらリスが胸の上に登っていた。
クリリとした目でオーガを見つめ、そのまま腰を下ろして身を丸める。
「アタシを寝床にするなんて剛毅なリスだね。気に入った」
ガハハと笑って彼女は適当に砂の上で指を伸ばす。ワインの瓶を捕まえて一気に手繰り寄せた。
「そこで寝る名誉をくれてやろう」
もう眠っているのかリスからの返事は無かった。
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