軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ご飯が呼んでる

ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領

「で、そろそろ質問の受付を終了しようと思うのだけど?」

ゴロゴロダラダラと砂の上を転がっている悪魔がそんなことを言って来た。

何を勝手に? 僕の質問は……落ち着けお姉ちゃん。その手を離せ。そしてリグよ。野生化から人に戻って服を着ろ。

「勝手に終わるな」

「だって~。魔眼の説明ってこれで十分でしょう?」

「え~っとお姉ちゃん?」

「ん?」

「何か質問は?」

「色々あるけれど」

忙しく動いていた手が止まりホリーが顔を上げた。

「質問しても、」

「確実に妊娠する方法を知りたい?」

「……そろそろ私は戻ろうと思うの。魔力の回復もあるし」

「ちょっとお姉ちゃん?」

「またね。アルグちゃん」

首に腕を回してホリーがキスして来た。

こうもあっさりと買収される姉って……と呆れていたらノイエの色が抜けた。

「もう止まらない」

「何がっ!」

「ん~」

首に巻きついていた腕に力が戻り、ノイエが僕を押し倒すようにキスして来る。

変なスイッチが! ノイエさんが暴走しました!

「落ち着いてノイエ!」

「無理」

即答? 何故?

「ここまでして……無理」

「あっ」

色々と忘れていたが今のノイエさんは全裸なのです。

犯人は僕扱いですか? ビックリです。

「あの~ノイエ?」

「する」

「ここでは」

「分かった」

何を分かったの? ねえ? ノイエさ~ん!

襟首を掴まれズルズルと僕は引っ張られて……物陰へと移動した。

「さて。夫婦仲良くしている間にご飯でも作ろうかしらね」

起き上がった小柄なメイドは右目から模様を消そうとする。

「質問」

「……何かしら?」

本来の体の持ち主に意識を返そうとしていた魔女は、それを止めて相手に目を向けた。

褐色の肌が砂の多いこの場所には良く似合っている。

「魔女の体は何処にある?」

「あの不器用な」

「アイルじゃない。貴女の」

「……」

フッと鼻で笑い少女は自分の目を、右目を指さした。

「知らないの? それとも聞き逃していた? 私の体はこの目よ」

「……」

「私は自分の体を触媒にしてこの魔眼を作り出した。それだけのことよ」

「そう」

リグの返事に魔女の右目が元に戻る。

一瞬辺りを見渡した少女は、自分を見つめているリグに気づくと頬を真っ赤にする。

「どうしてはだかなんですか!」

「そろそろ寒い」

「ふくをきてください!」

「たぶんそれでも寒い」

「もう!」

怒りながらも焚火の方へと走り少女は薪を足す。

その様子を眺めながら軽く自分の腕を擦ったリグは、小さく息を吐いた。

「なら誰が魔女を魔眼にしたのか……聞きそびれた」

「待ってホリー」

「大丈夫よセシリーン」

戻って来たホリーが静かに近づいて来る。

その様子に歌姫は酷く怯えながら自分のお腹を守るように両手で庇う。

ただホリーはとても穏やかな笑みを浮かべていた。

人を殺すような気配など微塵も発せずにだ。

「分かってるわ。貴女の本体は右目にある。だから手出しできない」

「ええ。その通りよ。だからお願い……どうにかして子供を殺そうとするのは止めて」

「うふふ。だから心配しないでって言っているでしょう?」

優しくやわらかな声音が怖い。

セシリーンの耳を使ってもホリーの胸の内が分からない。

何故なら今のホリーの心は大変穏やかなのだ。怖いほどに。

「貴女の子供に手を出さないわ」

「本当に?」

「ええ。そして貴女にも手を出さない」

ここまでの譲歩を見せる相手がやはり怖い。

セシリーンの知るホリーは決して優しくも甘くもない。計算高くて冷徹な存在だ。

「ねえセシリーン?」

「はいっ」

「子供は自分の手で育てたいわよね?」

「はひっ」

壁に背中を押し付けてこれ以上後退できない状態で、歌姫は相手の言葉に激しく同意する。

全力で頭を上下に振るのだ。

「なら暫くは子育てに専念するわよね?」

「はひぃっ」

「だったら外に出て彼とする必要は無いわよね?」

「……えっ?」

ようやくセシリーンは理解した。

「出来たら彼に会って」

「会って何をする気なの? まさか彼に会って妊娠の報告とお祝いを受けたいと? この私を差し置いて? 最初に?」

「……」

はっきりと言葉に殺意を感じた。気のせいか自分の顔の前に言いようの無い気配を感じる。

それこそ見えない目の前を刃が行き来しているような気配だ。

「……我慢します」

「分かってくれて嬉しいわ」

ポンと手を叩き禍々しいホリーの気配が沈静化する。

自分と子供の安全のためだ。セシリーンは涙を呑んで納得しようとした。

「……ねえホリー?」

「何かしら?」

やはりダメだった。

セシリーンは覚悟を決めて口を開いた。

「協力する。協力するから……早くホリーも妊娠して! そうして貴女が最初の報告や最初のお祝いを受けたら出ても良いでしょ?」

「もちろんよ。私もそこまで厳しいことは言わないわ」

「ええ。だからお願い。早く妊娠して」

「それは全て魔女次第ね」

《馬鹿らしい》

部屋の隅に座り2人の会話を眺めていたグローディアは呆れ返る。

何が楽しくて自分の身を危険にさらす行為を、妊娠などしたがるのか理解できなかった。

《リア義母さんは強く望んでいたけれど……私には無理ね》

自分が母親になることなど想像できないグローディアとしては、あの2人の考えはどう頑張っても理解できない。何より自分が望んでいたのは子供ではない。母親だったのだから。

「お帰り」

「……ただいま」

ノイエを連れて戻ってきたら、ポーラが怒ってお嫁さんを連れて行った。

僕が悪いんじゃありません。ノイエさんのする気スイッチが入ってしまったのです。

桶に入れた水を使いノイエの体を清めていくポーラは……もうすっかりノイエの保護者と化している気がする。

ノイエの方が義姉のはずなんだけどな。

「ご飯」

「ありがとう」

本日の晩御飯は……謎の肉とチャーハンのようなライス炒めだ。

軽くスプーンで掬い口に運ぶと、胡椒の風味とピリ辛さが広がった。

「うん。美味しい」

「そう」

何故かリグの頬が赤い。

「リグは食べたの?」

「うん」

視線を遠くしてリグが頷く。

「作りながらつまんだ」

「そうなんだ」

つまりこれはリグの手料理か。意外とスパイシーで美味しい気がする。

「これもキルイーツ先生に習ったの?」

「料理の方法は義父さんに教わった。味付けは自分の舌で模索した」

「そうなんだ」

「でも」

「はい?」

砂の上でイジイジとリグが指を動かす。

「この味が出せたのはアイルのおかげ。アイルが再現に付き合ってくれた」

「そうか」

何だかんだで先生は甘いと言うか優しいんだよな。

「辛すぎとか怒らなかった?」

「怒った。調味料を入れ過ぎて」

「火が通ってないとか」

「言われた。生過ぎるとか、焼きすぎとか」

「何度も怒られた?」

「うん」

両膝を抱いてリグが口元を膝で隠す。

「でも全部食べてくれた」

「そっか」

そのおかげで今の僕は美味しいご飯を食べられるのです。

「ねえさま」

「ご飯が呼んでる」

「ふくを!」

「お姉ちゃんと一緒」

「きてますから!」

うん。一応リグは服を着てはいる。ただ面積が少なく露出面が多いが。

僕とリグの間に座った下着姿のノイエが、『ご飯頂戴』とばかりにアホ毛を揺らす。

呆れながらもリグが料理に使った大鍋をノイエの前に置いた。

「お姉ちゃんが?」

「うん。美味しくないけど」

「……」

スプーンを装備したノイエが黙々と食事を口に運ぶ。

普段のモフモフ振りが嘘のようなゆっくりとした速度でだ。

「お姉ちゃん」

「なに?」

「美味しい」

「……ありがとう」

ノイエの感想にリグの表情も緩んだ。

さて。腹ごしらえをしたら……自然と視線が動いた。

止まったままのロボが動き出さないと魔道具探せないじゃん!

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