軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグ様をイジメた

「……こんな所に居たのね。ファナッテ」

毒を消し進んできた女性は、床に転がる死体に手を伸ばした。

髪の色と長さ、何より形も残らず肉体が破壊される人間などこの魔眼の中には数人しか居ない。

故に自信を持って自分が仕えるべき主人だと判断できた。主人の名はファナッテと言う。

「また毒をまき散らして……」

掴んだ死体を見つめ、不意に床へと叩きつける。

一度二度と……その目に涙を浮かべて何度も叩きつける。

「分かっているでしょうファナッテ? 貴女に自由なんてない。貴女に救いなんてない。貴女には……」

握っていた手の中に残る物を投げ捨てて、床の染みと化している存在を踏みつける。

「何も無いの」

暗く……深い闇の底が見つめて来るような目を向け、もう一度床を踏む。

「約束の時が来たら働きなさい。ファナッテ」

このゴミのメイドとしてそれらしく振る舞うために……ミジュリは魔法を使う。

自分の周りに存在する『毒』を無害な物へと変えていく。

「私の復讐の為に貴女は生きているのだから。だからまだ狂ってなさい」

喉の奥で笑い、ミジュリは周りの毒を浄化する。

「あの忌まわしき……を亡ぼすまで」

その機会があるのかは分からない。

何より自分の復讐に気づいているあの忌々しい魔女は、復活に気づけば最強最悪の終末魔法を使って消滅させて来る。本当に厄介な相手だ。

「でも大丈夫。私は諦めない。絶対に諦めない」

その為になら使えるモノは何でも使う。

心にそう誓ってこの憎い存在のメイドになったのだから。だからこそ誓う。

『あの一族に復讐するまでは決してこの気持ちを忘れない』と。

「ミジュリは真面目で優しくて優秀なメイドなんだよね。何でもファナッテに仕えてて、あれが毒を撒き散らすと魔法を使って無害化するの」

「そうなのね」

レニーラの説明を聞き、悪魔が頷く。

確かに聞く限りは普通だ。ノイエの中に居る人の中では普通過ぎる。

「で、そんなメイドをあの魔女は殺していたのね?」

「そうだよ~。理由は知らないけどね」

レニーラが言うには、本当に理由を知る人は居ないらしい。

ただミジュリが動いていると知ると先生は静かに立ち上がってそれを液体にしてきていたらしい。

融かされるミジュリもただではやられない。先生の腐海とミジュリの魔法とで真っ向勝負になり、最終的には先生が魔力量で押し切っていたとか。

そこまでしてメイドさんを殺す理由が謎だ。

「まあミジュリも……セシリーンくらい胸があったから」

「胸が理由で殺して回るなら、貴女も殺されているでしょう?」

「そうだった」

ケラケラとレニーラが僕の上で笑いだす。止めて~! 振動で、振動が! あっ

「もう旦那君はだらしないな~」

本当に誰か助けてください。

「まあ良いわ。その3人ね?」

「私が知っている人はね」

「十分よ」

座っていた椅子から悪魔が立ち上がり軽く背伸びをする。

「残りはそこの馬鹿に調べさせるから」

「むが~!」

「あら抵抗するの?」

クスッと笑って悪魔がポーラの胸の上に手を置く。

「貴方の可愛い妹は文字通り私の手中よ? この意味は分かる?」

この悪魔め。我が家の癒し枠、ポーラに何をする気だ?

「エロい格好をさせて貴方の前でポールダンスでもしようかしら?」

止めて~! もうこれ以上ポーラを汚さないで~!

シクシクと涙する僕は悪魔の言葉に逆らえないと理解した。

「素直に頷けばいいのよ」

暴君ばかりだ。

王都のお城だと僕が暴君認定されているけれど、僕なんてこんなにも弱い立場なんだ。

こんなに虐められ、そして愛人っぽい嫁さんには縛られ拘束されて延々と搾取される。はた目から見たら僕なんて可哀想な奴隷だよ?

「で、ご褒美は?」

こちらの気も知らないでレニーラが嬉しそうに悪魔に手を伸ばす。

お願いだからもうこれ以上動かないでください。お前の中には別次元の生物が根付いて生きているのか? あっ

「そうね。復活したら魔女にでも教えておくわ。あれが扱えるのは彼女ぐらいだろうし……と言うかあんな魔法必要なの? ずっと元気に見えるけどね」

「必要なの! 旦那君にはこれ以上頑張って貰わないと!」

僕に死ぬと言っているのかレニーラよ?

「そう。なら機会があれば教えておくわ」

告げてポーラの右目から模様が消えた。

見る見る小柄なメイドの顔が真っ赤になって、慌てて両手で顔を隠す。

「にいさま! おねえさま! なにを!」

「子作り?」

「ことばがろこつです! かくしてください!」

慌てたポーラがシーツを掴んで僕らを隠す。

ただウチの妹様が終始一点を見つめていたのは……どうにかしなければ。このままではあの悪魔の手によってポーラが汚されて行く。

「アルグ様?」

「……」

仕事を終えたノイエは王都から真っすぐ別荘に帰って来た。

ノイエぐらいにしか使えない徒歩による強行突破だ。目の前にドラゴンが居ようともワンパンで退治してしまう。

だから王都から直帰した彼女は、食事からの温泉を楽しんで 寝室(こっち) に来た。

ベッドの上で完全にのびている僕を見て、首を傾げたノイエはようやく理解したらしい。

抱えていたポーラを放って慌ててベッドに駆け寄る。

「ダメ」

「……」

「消えちゃダメ」

ギュッと首に抱き着いて……ノイエさん。心配するあまり君が僕にとどめを刺そうとしていますよ?

「消えないよ」

「本当?」

「本当です」

ただ下半身が僕の物じゃないんです。

こんな元気の無い、力の入らない腰から下を僕は知らない。

立って歩くことすらできない。全てレニーラが悪いのです。

「朱色の人?」

「はい?」

首から腕を離したノイエがジッと僕を見る。

「悪いのは誰?」

「えっと……レニーラかな?」

いつも以上に真っ直ぐノイエが僕を見るので、つい反射的に答えてしまった。

「分かった」

キョロキョロと辺りを見渡し、ノイエはポーラをロックオンする。

「何処」

「はい?」

「朱色の人は何処」

ズンズンと接近して来るノイエにポーラが震える。あんなに怯えるポーラは珍しい。

しかしやりたい放題したレニーラは夕方には消えてしまった。代わりに姿を現した宝玉は、やる気のないリスがその上に乗ってたれている。たれリスだ。

「かえりました」

「何処に?」

「ねえさまのめです」

「……」

進行方向を変えてノイエは壁にかかる鏡に向かった。

「んは~」

「レニーラは馬鹿?」

「酷いなリグ~」

魔眼の中枢でレニーラは床の上にのびていた。

診察したリグが出した結論は、ただの疲労だ。

上機嫌で横になり、レニーラは機嫌が良さそうに笑顔を浮かべる。

「あんなに旦那君といっぱいしたんだから絶対に妊娠したと思うんだ」

自信を持ってレニーラは断言する。

ただ話を聞いていたセシリーンは努めて冷静に思う。

妊娠は、回数じゃなくてタイミングなのではないのかと。

「あら?」

お馬鹿なレニーラの自慢を聞いていたセシリーンの耳に、外の会話が飛び込んできた。

「レニーラ」

「な~に。セシリーン」

「ノイエが貴女に用事があるみたいよ」

「私に?」

リグと話していたレニーラは寝っ転がったまま体勢を変え、ノイエの視界に目を向ける。

ズンズンとノイエの視界には彼女の顔が映る。たぶん鏡の前に立ったのだろう。

『朱色の人』

外から声が届く。ノイエの声だ。

「もうノイエは~。私はレニーラだよ」

名前を憶えてくれない妹兼弟子にレニーラは不満を口にした。

まだ彼女には余裕があった。機嫌も良く、幸せいっぱいだったからだ。

けれどそのレニーラは外からの声で絶望のどん底に落ちる。

『アルグ様をイジメた』

抑揚のない淡々としたノイエの声なだけに、レニーラはビクッと全身を震わせた。恐怖した。

口調からしてノイエが怒っている。間違いなく怒っている。

「違うのノイエ! ちょっとだけ悪ふざけがっ」

慌てて外に向かいレニーラは言い訳を綴る。だがその声が妹に届くことはない。

代わりに……死刑宣告にも似た声がやって来た。

『お姉ちゃんなんて……嫌い』

「はうあっ!」

絶叫しレニーラは胸を押さえて動かなくなった。

何となくレニーラの手を取ったリグは……静かに首を左右に振る。

「死んでる」

「……人って言葉で死ぬのね」

苦笑しながらセシリーンは大きく息を吐いた。

自分に向けられた言葉ではないと分かっいていたが、ノイエの『お姉ちゃんなんて嫌い』という言葉が耳に届いた時は全身が震えて冷や汗が出た。

直撃を受けたレニーラは、確かに耐えられないだろう。

死体と化した舞姫をリグがゴロゴロと押して中枢から追い出した。

「それにしてもノイエがあんなに怒るのは珍しいね」

「そうね」

昨夜のノイエは、レニーラと一緒に凄く嬉しそうに彼を玩具にしていたのにだ。

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