軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歌の人が居ない

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「ただいま?」

最愛のお嫁さんの声がした。

おかしい? さっき『行ってきます』と君は言ってなかったかね?

突っ伏していた状態から顔を上げたら奇麗な足が見えた。先生とは違うこれはこれで奇麗な足だ。と、ノイエがしゃがんだ。

あら不思議? 僕の視界に素晴らしい付け根が。

「アルグ様」

「……」

「枕」

彼女の手が僕の体を持ち上げて頭の下に太ももを差し込んで来る。

解放されたら彼女の太ももと正面衝突だ。エビ反りになってしまうが幸せだから許す。

「する?」

「しません」

「む」

また彼女の手が伸びて来て……クルっと体が半周した。

うつ伏せだったのに仰向けになったよ? 何をどうしたらこうなるの?

顔で味わっていた太ももの感触が後頭部に移った。これはこれで素晴らしい。何故ならば視界にはノイエの形の良い胸が……ムギュッと。

「あ~れ~。旦那ちゃんが~」

「ムム?」

「いやん~。旦那君が~吸い~ついて~来るぞ~」

押し付けて来るから吸い付いたまでだ。失礼な。

本気で吸っていたら相手の吐息が危険なリズムになったのでストップする。

今の僕はレニーラという化け物を相手にして燃え尽きているのだよ。

「終わり~?」

「物欲しそうな声を出さない」

「む~」

拗ねて体を起こした黄色のノイエが柔らかく笑う。

やはりシュシュだ。若干フワフワと左右に揺れている。

「旦那さん~」

「何かね?」

「セシリーン~からの~お願い~だぞ~」

「どうぞ」

「……即答か~だぞ~?」

何故に目を丸くする?

セシリーンは日々僕のお願いを聞いて仲介してくれる素晴らしい女性です。そんな人のお願いを聞くのは普通でしょう?

「お世話になってるからね」

「だからって~即答は~凄いぞ~」

フワフワしながらシュシュは笑う。

「本題ね」

揺れを止めて彼女は表情を正した。

「今回の舞台……どうしても音が弱くなるって。下手をしたら死んじゃうって」

「そうなの?」

「そうなの」

「へ~」

レニーラの踊りが凄いのは分かっているけど、音が死ぬって何だろう?

誰か僕に音楽や踊りについて詳しくレクチャーしてください。たぶん永遠に分からない気がするけれど。

「それで現状できる唯一の解決策があるって」

「教えてくれるの?」

「うん。だからお願いなんだぞ~」

答えがお願いとは?

「ノイエに歌わせるんだぞ~」

「……歌えるの?」

そもそもの質問ですが間違えていないはずだ。

「ノイエは~セシリーンの~唯一の~弟子だぞ~」

「そんな話を聞いたことがある」

「事実だぞ~」

我慢が終わりを迎えだしたのかシュシュが揺れ出した。

手を伸ばして掴みやすい箇所を掴んで相手の揺れを止める。

「ノイエの胸を何だと思ってるの?」

「掴みやすかったので、つい」

「……ノイエの大きいもんね」

妹分の胸に嫉妬するな!

「つまり僕へのお願いはノイエを歌わせれば良いの? 今回の鎮魂祭で?」

「だぞ」

「……楽曲は?」

「現在選定中だぞ」

何でも音楽家さんたちに練習して貰っている楽曲の中からノイエが歌える曲をリストアップして吟味しているとか。間に合うんですかね?

「ノイエの説得は引き受けるけど……歌えるのかな?」

「大丈夫だぞ」

「そうなの?」

「施設に居た頃はノイエが歌いレニーラが踊っていたぞ」

「そうなんだ」

だったら最初からそのプランを提供してくれれば良かったのに。

「ただノイエは……」

何故に顔を背ける? シュシュさんや? こっちを向け。

グイグイと掴んでいる物で訴えたら、シュシュがチラリと視線を向けて来た。

「飽きやすいから……」

「それか」

何となく分かった。ノイエが最初から最後まで歌い続けるとか……飽きてどこかに行きそうだ。アホ毛をクルクル回して僕の所に飛んで来る様子が目に浮かぶな。

「最後の数曲だけをノイエに歌わせる方向で、ホリーとセシリーンが話し合ってるぞ」

「了解です。つまり僕はノイエを頷かせれば良いのね?」

「だぞ」

「分かりました。任せなさい」

「任せたぞ~」

ニコリと笑ってシュシュが体を折って来る。

味わうようなキスをされ……しばらくしたらノイエが体を起こす。

「する?」

「死んじゃいます」

「むぅ」

拗ねないの。

「それよりノイエ」

「はい」

「今度の鎮魂祭で歌って欲しいんだ。お願い」

クルンとアホ毛を回したノイエが口を開く。

「嫌」

まさかのお断りか。

「どうして?」

「お姉ちゃんと踊る」

「そっちか」

レニーラと一緒に踊る気で居たのですか?

これは困ったぞ。このパターンは無理にお願いしてもノイエが頑なに拒否する。

そうなれば『アルグ様嫌い』とか言い出すかもしれない。なんて恐ろしい即死魔法だ。全力で回避だ。

ここは相手の希望を受け入れつつだな。

「踊っても欲しいんだけど……歌っても欲しい」

「むぅ」

「数曲だけ、ダメ?」

「むぅ」

「ノイエの歌を聞きたいんだ。ダメ?」

「……」

フルフルとアホ毛を揺らしてノイエが沈黙する。

たぶん迷っているはずだ。『お腹空いた』とか言い出して逃げ出す可能性もあるから、そっとバンザイをしてノイエの腰に手を回しておく。これで逃げ出せないだろう?

「お姉ちゃんと踊ってから僕に歌を聞かせてよ」

「……むぅ」

へにゃんとノイエのアホ毛が元気を失った。何故?

「歌の人が居ない」

「はい?」

「練習してない」

「……」

「出来ないはダメ」

意外とノイエって完璧主義者だったのか?

舞台に立つ以上完璧の方が良いけれど……どうする?

「助けてお姉ちゃ~ん」

「……呼んだよね、アルグちゃん!」

ノイエが青くなって僕の中がとても冷ややかになった。

大丈夫。ホリーは少し落ち着いたんだから……落ち着いたよね? 落ち着け!

体を折ってキスしてくるホリーが止まらない。しばらくたっぷりと味わったらしい彼女が腕で口元を拭った。

「さあアルグちゃんを味わった私は元気いっぱいよ!」

代わりに僕の残り少ない元気を吸いつくされたよ。

「宝玉はもう鎮魂祭まで使えないわ。だから歌姫を外に出すことはできない」

僕を味わって落ち着いたお姉ちゃんが、手を伸ばして撫でて来る。

あの~その部分を撫でるのは何を求めてですか? もう本当に無理だからね? 今の僕は出涸らしだからね?

「でもノイエはたぶんセシリーンが出て来て指導しないと歌わないよね?」

「そうね。あの子って変なところで真面目だから」

本当に困ってますか? 僕は困ってますよ?

「どうしたら良いと思う?」

「打つ手無いわね」

「頑張ってよお姉ちゃん!」

「そう言われてもね……」

まさかのホリーでもお手上げですか?

「待たせたわね!」

バンッと部屋の扉が開いて、天使の姿をした馬鹿がやって来た。

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