作品タイトル不明
旦那君のはどんな味?
ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室
「何をどうしたら手足の表現だけであんなことが出来るんです~? 不思議です~?」
何を真似しているのか知らないが、チビ姫がクネクネと新種のタコ踊りを披露している。
意外とチビ姫の体が柔らかいことを知った。ポーラよりも遥かに柔らかい。
「あんな風に踊れるのは胸に重りを付けているからなんだよ。だから足腰が強いんだ」
「納得です~」
頷いて……ギランとチビ姫の目が光った。
「って、そんな訳ないです~!」
踊りを止めて飛び掛かって来たチビ姫をクルっと回ったレニーラが掴んで一緒にターンを決める。
振り回されたチビ姫は……独楽のように回って遠ざかって行った。
「旦那君」
「もう少し待ちたまえ」
「ぶ~」
さっさと舞台を見に行きたい彼女が拗ねていた。
仕方がない。こっちにも仕事と言うものがあるのだ。だったらホリーのように手伝えば良いと書類の山を見せたら逃げ出し踊り出す始末だ。絶対にこの恨みを忘れない。
本人は暇潰しの時間潰しでクルクルと簡単に踊ってい様子だが、部屋に待機しているメイドさんたちの視線を集めている。
気持ちは分かるが仕事をしなさい。叔母様に見つかったら人生が終わるよ?
違った意味で一番視線を集めているのはポーラかもしれない。
小さな手足を全力で振るってレニーラの真似をしている。ただ彼女は体が硬い。柔軟を続けているっぽいので初めて見た頃よりかだいぶマシになったけれど。
こうして踊りについて語れるのもレニーラの踊りをちょいちょい見ているからだろうな。
改めてレニーラを見ると、輝かんばかりの笑みを浮かべて回っていた。
着ていたドレスを脱いで、普段着にしている水着のようなベリーダンサーのような格好に戻ったレニーラは、刺激が強すぎると言うことで薄手のショールを身に纏い肌面積をだいぶ抑えている。
『舞台の上じゃない所で他の人に肌を見せるのは嫌かな~』とか言ってポーラにショールを求めたのだ。
裸族なリグはその辺は気にしていなかったが……多少レニーラには羞恥心があるらしい。
「旦那君。手が止まってる」
「休憩だ休憩」
「働け~」
腰に手を置いてレニーラが怒る。が、スルーだ。
ポーラに目を向ければ彼女はそれで理解し、スッと部屋の外へと出て行く。待つことしばし、カートを押して妹様が戻って来た。
「僕が休まないとみんなケーキが食べられないのです。って君たち?」
チビ姫を筆頭にワラワラとカートを囲う女性陣。ポーラの仕切りでケーキが配られる。
で、何食わぬ顔でケーキを受け取っているクレアをどうしてくれようか?
「クレア~?」
「仕事してますから! 朝からしてますから!」
ケーキの皿を抱えて貴族のご令嬢だった人妻が必死に言い訳をしてくる。
「必死の弁明に何かしらの意図を感じるが?」
「気のせいです」
「そうか。ならその顔がふっくらして来たことに何も言わないでおこう」
「……」
カクンと頭を垂らしてクレアが皿を抱えて自分の席に戻った。
体重増加を自覚していてもケーキを食べるのか……流石だ。
「チビ姫はケーキを食べてても太らんな?」
「私は昔っから何を食べても太らないんです~」
「ほう。つまりどんなに食べても胸が育たないと言う訳か」
「そうです~」
笑顔で頷いてから……チビ姫は静かに涙した。
理由に気づけば簡単なことだったな。
我が家に引き取られた頃はガリガリだったポーラは全体的にふっくらとしていい感じだ。健康的な少女に見える。ただ確りと体を鍛えている様子なので全てがぜい肉でもない。
「ウチのポーラを見習ってちゃんと運動をしろ~。クレア」
「追い打ちは酷いっ!」
泣きながらケーキを食べるクレアは……自覚があるのなら少しは運動しなさい。
僕を見ろ。主な運動はノイエたちとの営みだけだぞ? それだけでこの体型をキープしている。それはそれで凄い気がして来たな。
ポーラが僕が頼んだケーキを運んで来た。
二口三口で食べられる大きさの甘さ控えめケーキだ。
僕も結構なケーキ好きだが毎日は辛い。だから少量サイズを提案したら意外と人気らしい。
小さくすると単価が高くなるのだけど、『色々な物が食べられる』とじわじわと人気が拡大しているらしい。最近はお店の方から売り場面積の拡張を提案されている。
赤字店なのに大人気店と言うのは普通のオーナーからすれば大問題店なんだろうな。
だが気にしない。あの店はノイエを喜ばせるために存在しているのだ。
「旦那君」
「何さ?」
ケーキを摘まんで静かになっていたレニーラが、初めてと言っても良いぐらいの笑みを浮かべている。
「なにこれ?」
「ケーキですよ」
「……私の知ってる味じゃない」
「今はそれが普通です」
「うま~」
狂ったようにレニーラがケーキを口に運ぶ。
そんなに食べると太るぞ? 今のケーキはカロリーの化け物なんだから。
レニーラが食べていたケーキってあれでしょう? 硬いパンの中に砕いた木の実を入れて焼いたヤツでしょ?
十年前のケーキなど、今の世ではお婆ちゃんがたまに作る程度の存在なのだよ。
今はちゃんと生クリームと柔らかいスポンジで作られたケーキが主流だ。
材料費は跳ね上がるが、人気となればどうにかなる。ならないのは僕のこだわりが強いせいだ……ブロストアッシュが赤字店なのは僕のせいだろうか?
「涙が止まらない」
「泣くなよ」
「美味しいよ~」
「……ポーラ?」
「はい。にいさま」
自分が食べる手を止めてポーラが追加発注に走る。
流石で来た妹様だ。で、出来ていないどこぞの姉は、ポーラが食べていたケーキを掻っ攫った。
みんな気を付けろ! あそこにハゲワシが居るぞ!
「旦那君のはどんな味?」
「発言が卑猥だ」
「良いから味見をさせろ~」
だから発言が卑猥だが、一口分だけ残っていたケーキをレニーラが掻っ攫う。
モグモグとしてから……何故か笑みが消えた。
「甘くない」
「甘いから。これはこの紅茶を飲みながら食べるといい感じで楽しめるのです」
「そうなの?」
今度はティーカップを掻っ攫って……案の定苦悶の表情を浮かべる。
「しぶ~!」
「だから味わえ」
「こんな面倒臭いケーキは要らない。私は安易に食べられる方が良い~」
あっさりと僕のケーキを見限って、今度はクレアの元へと走っていく。
流石にチビ姫を狙わないのは、あれが腐っても王妃だからだろう。
こんな風に時間を潰し、太陽がだいぶ西に傾いた頃……ノイエを呼んで僕らは完成間近の舞台へと向かうこととした。
(C) 2021 甲斐八雲