軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今回は成功報酬とする

ユニバンス王国・王城内国王政務室

「初めてお目にかかる。私がこの国の国王、シュニット・フォン・ユニバンスだ」

「はっ初めみゃして! 私ぎゃレニーラれす!」

ガチガチに緊張したレニーラがペコペコと頭を下げ続ける。まるで壊れた玩具のようだ。

挨拶からの自己紹介でたぶん3回は噛んだ。普段のレニーラとは違う姿が新鮮ではある。

お兄様もレニーラの緊張を感じ取ったのか、柔らかく笑って彼女に席を勧める。

緊張著しいレニーラは右手を動かせば右足を動かすほどだ。それでもちゃんと歩くのは凄いな。

僕としてはまず陛下に肩の荷物を降ろして進呈する。

テーブルの上に置いたチビ姫は……両膝を抱いてシクシクと泣いていた。

ただ慣れた手つきでチビ姫を回収し、自分の隣に座らせるお兄様は凄い。

で、レニーラさん。陛下の対面の席を勧められたんですけど……君は何処まで歩いて行くの? そっちは壁しか存在しませんが?

「お~い。レニーラ。こっちだよ」

「ひゃいっ!」

ビクッと反応し、何故かキレッキレのターンを決めて我が悪友が戻って来る。

気のせいか逝っちゃった目をして……レニーラが椅子の背もたれに手をかけると奇麗に飛び越えて着席した。人間緊張しすぎるととんでもないマナー違反をするらしい。

「陛下。レニーラはこの手の行いに慣れてなくて」

「構わんよ」

あの~。そのお兄様の視線は何ですか? 何故に生温かな半笑いなのですか? もう色々と諦めているのですか? ねぇ?

「で、自己紹介にあった通り彼女が舞姫ことレニーラです」

「です」

勢い良く頭を下げてレニーラがテーブルに頭突きした。

事前に何かを察してていたメイドさんたちが、テーブル上の飲み物を回避したおかげで惨事は起きなかった。

「緊張で行動はおかしいですが、舞台に上げれば仕事をしますのでご安心を」

「です」

また頭突きした。

飲み物を一度戻したメイドさんたちが全員で持ち上げて回避した。凄いぞメイドさん。

「ただこれを見て信じられないと思うので、ポーラ」

「はい」

スッと姿を現した妹様が、数人のメイドさんを引き連れて来た。

連れて来たメイドさんはそれぞれ笛を手にしている。

「見て貰った方が早いと思うので」

百聞は一見に如かずってね。

ポ~っと上気した様子で、チビ姫がフラフラしている。

隣に座るお兄様は、目頭を押さえて何やら考え込んでいた。

笛を演奏していたメイドさんたちは燃え尽き、メイド長に見つかったら怒られるであろうけれど全員が床の上に座り息も絶え絶えだ。

演奏していなかったメイドさんたちは全員が興奮冷め止まない様子だ。

緊張でガチガチだったあのレニーラは、踊り終わって軽く足踏みをしていた。今履いている靴の具合が面白くないのだろうか? 知らんけど。

「今日は軽く踊って貰いましたがどうでしょうか?」

「……感想を聞くのか?」

苦笑して顔を上げた陛下の様子からしてこのプレゼンは成功だろう。

で、プレゼンって何なのでしょうか? 学生だった僕には単語しか知りません。

「彼女は鎮魂祭の舞台に立ってくれるのか?」

「はい。ただ踊るに至り、彼女は1つだけある物を求めています」

「ある物?」

怪訝そうな表情を見せるお兄様とここからは交渉の時間です。

レニーラはポーラが飲み物を手渡しタオルも渡している。

そっちは任せた馬鹿賢者。こっちは任せろ。

「彼女が求める物とは……免罪符か?」

「いいえ違います。彼女は自分の罪を背負って生きて行くそうです」

つか生きろ。こっちを見るな。お前は顔に出る。

「では何を求める?」

「王家が所有している温泉の1つを」

「何?」

この言葉は予想していなかったのか、お兄様も呆気に取られる。

「彼女は踊りを愛し体を酷使します。ですから温泉に浸かり体の調子を整えたいそうです。そんな彼女が望むのは温泉です。

今回の報酬として王家に対して彼女が求めるのは温泉の所有権。そして僕に求めているのは手にした温泉の管理です」

「……なるほど」

頷いて陛下が笑みを見せる。

「つまり温泉の権利をドラグナイト家に引き渡せばよいと言うことか?」

「名義は彼女の名でも構いません」

「それだと管理が面倒であろう?」

「苦労をするのは税務担当の者でしょうね」

陛下に会う前に肩に乗せていたチビ姫に聞いたら、何でも王家以外の温泉には税金がかかるらしい。

贅沢税の一環で、まあ『それを払ってまで温泉持ってる俺って凄くない?』という自慢だ。

「そこまで話が纏まっているのなら場所も決まっているのであろう?」

「……」

実は決めてない。

チラリとポーラを見れば、天使の姿をした悪魔は『が・ん・ば』と声を発せず唇を動かした。

「北の地にある温泉が良いのですが」

「前回お前がノイエと訪れた場所か?」

「そこです」

と言うか、僕が知る数少ない温泉の1つだ。

ノイエと一緒に行っては……前回彼女が肉食獣化して僕に襲い掛かって来た場所である。

ノイエと水着は破壊力満点だと言うことしか覚えていない。ただあの水着姿は素晴らしかった。

「あの場所か……まあ問題はあるまい」

腕を組んでお兄様が頷いた。と言うか問題とかあるんですか?

「知らないのか?」

「はい?」

「王家が主有している温泉は他の温泉とは薬効が違う」

「……」

そう言われると前に誰かにそう言われた気がする。誰だったっけ?

「普通の温泉は水だが、王家所有の温泉は魔水と呼ばれる湯が湧いている」

「魔水ですか?」

何か寝そうな響きだな。

「何か特別な効果があるのですか?」

「私も専門ではないので詳しくは知らないがな。後で魔女に聞くが良い」

「……」

陛下の言う魔女は術式の魔女アイルローゼのことだろう。けれど現在僕の傍に居るのは刻印の魔女と言う悪魔だ。邪神に捧げるタコ踊りをする悪魔だ。その姿は天使だけど。

チラリと見たら悪魔が自分を指さしアピールして来る。知ってる様子だ。

「後で確認しておきます。それでその北の温泉なら宜しいのですか?」

「ああ。構わん。あの地であれば反対する者は居ないであろう。何よりお前が主有するのなら税収が増えることとなるしな」

「そこはご安心を」

我が家のノイエも温泉を欲しています。そしてレニーラが欲しています。

つまり家族ラブなノイエの財布はゆるゆるを通り越してフリーです。いくらでもお金を吐き出す物と化すのです。

「ただしアルグスタ」

「はい?」

話が纏まったと思っていたら陛下が釘を刺してきた。

「今回は成功報酬とする。それで良いか?」

「構いませんよ」

僕の返事は決まっている。

「舞姫の舞いがある限り、もうその温泉は彼女の物です」

そうだろう? レニーラ。

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