軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その話、乗った!

「ん~」

魔眼の中に戻って来たシュシュがフワフワと揺れている。

ここ最近の様子からすればあり得ないほどの好調さ加減だ。

「動けるようになったのね?」

「だぞ~」

フワフワしながらシュシュは自身の調子を確認する。

ホリーに捕まり、……されてからしばらく大変だった。どうにか歩けるまで回復したが、それでも絶不調で辛すぎる。問題は肉体的な不調ではなく精神的な物だったのだ。

これなら一度死んで楽になった方が良いとも思ったが、自分を除けば外に出れるのはファシーぐらいになってしまう。

今のファシーなら特に問題は無いと思うが、何かの間違いが起これば後悔してもしきれない。

這って中枢まで戻り、必死の思いで立ち上がればノイエに呼ばれた。自然と体が動いていた。

外に出て彼を見たら込み上がる想いが止まらなかった。

頑張った。今までで一番頑張ったと思う。

「ん~」

思い出したら色々と恥ずかしくなって、シュシュはフワフワし続ける。

「で~、セシリーン~」

「レニーラなら暫くすれば来るわよ」

「ん~」

だったら自分の出番はないとシュシュは中枢を出て行こうとして足を止めた。

入り口に右側に小さいのに大きいのが居た。そして左側に立って歩く猫が居た。

逃げられない。入り口塞がれれば、ここは袋小路なのだ。

「シュシュ?」

「何だぞ~?」

「たくさんするのはどう?」

医者のサガか、ただの好奇心か……リグがそんな質問を投げかけて来る。

何も言わずに逃げるのは難しそうだ。何故なら歌姫も耳を澄ましている。その必要が無い距離なのにだ。

「ん~。スッキリは~したぞ~」

「そう」

「でも~」

フワフワしながらシュシュは思う。

確かにあれはあれで悪くなかった。自分の不調が完全に消えたと思う。ただ代わりに別の気持ちが大いに膨らんで……あのまま一晩中彼に抱き着いて甘えていたくなってしまった。

「私は~やっぱり~1回が~良いぞ~」

やはり複数回は愛情が薄れてしまう感じがした。

最後なんてただしているだけだった。気持ちは良かったが。

「1回に~全力が~私には~あってるん~だぞ~」

「そうなんだ」

頷いたリグは中枢へと入り、座っている歌姫の足を枕に横になった。

ただジッと見つめて来る猫の気配が……何となく嫌な感じがする。

「ファシー? 何か~言いたい~のか~だぞ~?」

「……いっぱいして、ズルい」

「ん~」

「わた、しも……したかった」

「んん~」

身の危険を感じてシュシュはフワフワし続ける。

姿を現した猫は……身を丸めて今にも襲い掛かりそうな気配だ。

「先手必勝!」

動きを止めたシュシュが素早く魔法を放つ。だがファシーはそれを読んでいた。

咄嗟に体を前方に投げ出しコロンと一回転して立ち上がる。あとは全速力で間合いを詰めるとシュシュに抱き着いた。

「しまっにゃ~」

押し倒されてシュシュはファシーの手により口を塞がれる。

「もがっ!」

「ズル、い」

「もが~!」

「見てた」

「もっがぁ~!」

猫に喉を甘く噛みつかれ、シュシュは悲鳴を上げた。

「どうも~。って何かあったの?」

中枢にやって来たレニーラは、その場の状況に戸惑う。

歌姫の足を枕にしてリグが寝ているのはいつものことだ。

ただシュシュが必死に両手両足をジタバタとしているのが良く分からない。

普段着にしているメイド服が開けて……彼女の胸元に顔を押し込んでいるのは尻尾の様子からしてファシーのはずだ。

「何ごと?」

とりあえず全てを知っているであろう歌姫に聞いてみる。

「ファシーが外に出た時にちょっとした行き違いがあって……結果として近しい格好をしたシュシュを代わりにしている感じかしらね」

「ふ~ん」

意味が分かったような分からないような……レニーラは深く考えるのを止めた。

「で、旦那君は?」

「シュシュの相手をして燃え尽きてるわ」

「何をしてるんだか」

『したから燃え尽きたのか……』などの酒場ジョークが頭の中をよぎったが、レニーラが口にする事は無かった。

軽い足取りで中枢の中に入り、レニーラはノイエの視線で外の様子を確認する。

腰を抜かしたように動きを止めている彼を、ノイエが何度か困りながら奇麗にしていた。普通にタオルで拭けばいいのだが……色々と考え込んでしまうのがノイエらしい。

「セシリーン」

「何かしら?」

「宝玉はどんな感じ?」

「ん~」

軽く頬に指をあててセシリーンは計算する。

「短い方が明後日ぐらいね」

「そっか~」

「急ぎなの?」

相手の問いにレニーラは何となく苦笑する。

「何だろうね……たぶんこれは私が背負った業とかいうものなのかな?」

「業?」

「うん」

頷きレニーラはその場でクルリとターンを決めた。

「私は根っからの踊り子なんだよ。色々と言ってもやっぱり踊りたくなる」

「つまり踊りたいのね?」

「うん。だって大きい舞台で踊れるんでしょ?」

笑いレニーラは外を見る。

彼を拭き終えたノイエが、そっと相手をベッドに横たえて……自分はベッドから抜け出した。

軽く足踏みすると、そのまま無音の世界で踊り出す。

音が無くともノイエは踊る。踊っていた。

「私はノイエの師匠だしね。弟子がこんな風に踊っているなら私も踊りたい」

「なら踊りなさい。貴女は踊れるのだから」

優しい声音でセシリーンは舞姫にそう促した。

そうしないと元王女様が……その辺の事情は呑み込み口にせずにだ。

「ただね~」

突如としてレニーラは腕を組むと体を傾げた。

「旦那君にあんなことを言った手前……何をいまさらって感じもするんだよね~」

「平気よ。彼なら喜んでくれるわ」

「ん~。それもそれで何か嫌だな~」

正直面倒臭いと思いつつ、セシリーンは言葉を続ける。

「だったら彼に何か要求すれば? 前回のグローディアじゃないけど、『温泉に行きたい』とか?」

「ん~?」

右から左へ……体を傾ける方向を変えレニーラは悩む。

「何か安くない? これでも私って舞姫って呼ばれてたわけでしょ? 処刑されたってことで伝説になってるんでしょ? そんな私が温泉に浸かるぐらいで……そうか」

ポンと手を打ってレニーラは小躍りし始めた。

「セシリーン。グローディアは?」

「たぶんいつもの所よ。うん居るわ」

音で確認しセシリーンは断言する。

あの元王女は、刻印の魔女から受け取った魔法書を読んでいる様子だ。

「そかそか。ちょっと行ってくるね~」

「何をしに?」

「決まっているでしょ」

その目を輝かせレニーラは胸を張る。

「踊る対価として温泉を1つ貰うのよ。で、グローディアに転移魔法で移動できるようにして貰う」

「それは……」

そんなことをすれば外の彼の負担が大きくなる気がする。

『止めるべきだろうか?』と悩むセシリーンだが、自分たち専用の温泉と言うものには興味が引かれる。

「その話、乗った!」

「のわっ!」

突然の声にレニーラは驚き飛び跳ね、流石のセシリーンも一瞬呼吸を詰まらせる。

何の前触れもなく突如姿を現したのは、常にローブとフードで存在を覆い隠す刻印の魔女だった。

「温泉。自分の温泉。実に素晴らしい!」

何故か拳を握り喜び振るえる魔女に……セシリーンは呆れ果てる。

「でしょでしょ?」

「実に良い。転移魔法の方は私も協力しよう」

「さっすが魔女!」

「任せるが良い」

あっさりと話が纏まり……彼がまた厄介ごとを背負い込むことが確定した。

《ごめんなさい旦那様》

そっと歌姫は胸の中で外に居る彼に謝った。

《私だとこの2人を止める手立てが無さすぎる》

逆に止める手立てを持つであろうファシーは、シュシュの胸に吸い付いてまだ甘えていた。

《頑張って……本当に》

セシリーンに出来ることは、ただ祈ることだった。

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