軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こんなところに美人が居る

ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室

「ねえ? まだなの? 仕事舐めてるの?」

「うわ~んっ!」

マジ泣きしているクレアが必死に書類の仕分けをする。

お店に寄ってからの登城となり、だいぶ時間が押してしまった。するとホリーが『私のせいだからね』と言って僕の執務室に来るなり、挨拶も無しで真っすぐ僕の席へ移動して椅子に座る。

書類なんて言葉と数字の糞つまらないゲームだと言いたげに、あり得ない速度で処理していく。

叔母様のメイドたちの手助けを得た時よりも早い。

僕のサイン式ハンコがうねりを上げて仕事をして行き、右から左に書類の山が移動していく。ついにはクレアの方が圧倒的に追いつかなくなって泣き出した。

「いつもケーキばかり食べて怠けているから仕事が遅いのよ。彼の部下であるならもっと根性見せてくれるかしら? 舐めてるの? ねえ?」

高圧的で人を拒絶するようなホリーの言葉にクレアの怯えと涙が止まらない。

余りにも本気で泣くので、何事かと飛び込んできたイネル君も協力して仕分けをするがそれでもホリーの速度は狂っている。

ただしそんな3人の様子をソファーに座って眺めている僕が一番の鬼畜だろう。

あ~。紅茶が美味しい。

タンッと音がしてホリーが手にする書類の束を整えて山の上に置いた。

「今日はこれぐらいで勘弁してあげる。でも次に来た時にまた温い仕事をしていたら許さない」

ワラワラと髪の毛を動かし幼い夫婦に恐怖を与える鬼女が居る。

互いにきつく抱きしめ合って震えるあの夫婦は……きっと今夜あたり大興奮でハッスルするんだろうな。

あとでお土産用のケーキセットでも注文しておくかな。

「しつれいします」

遅れてようやく天使がやって来た。

我が家の心のオアシスであるポーラだ。

「にいさま」

「ん?」

「おうひさまとへいかが、ぜひにあいたいと」

「あれに?」

「はい」

あれで納得しちゃダメだよ?

手招きしてポーラを呼びよせ、軽くデコピンを放つ。

避けることなく額に僕の指を受けたポーラは、何故か嬉しそうに両手で額を押さえた。

「お姉さんでしょ? 『あれ』と呼ばれてあっさり受け入れない」

「……もうしわけありません」

深々と頭を下げてポーラが謝罪して来る。

その様子が可愛らしいから特別に許そう。

「で、ホリー? そっちの教育は終わった?」

「……私が鍛えて良いの?」

「あ~。ごめん。色々と大変なことが起こりそうだからやっぱ止めて」

「分かったわよ」

『フンッ』と鼻息を残し、腕を胸の前で組んだホリーが僕の元へと歩いて来た。

凄く不機嫌だ。ここに来るまでの馬車の中が嘘のようだ。

「で、ホリー。陛下たちが会いたがっているから……」

街娘の衣装はダメか? 流石に失礼か?

リグの時は……着替えが無かったんだけどね。

「ちょっと着替えて貰える?」

「分かった」

渋々といった様子でホリーが頷く。

「ポーラ。ホリーを衣裳部屋に。代金はいつも通りドラグナイト宛で」

「かしこまりました」

僕の命令に従いポーラがホリーを連れて部屋を出て行く。

残りの紅茶を一気に飲み干し、ソファーから立ち上がると……ガクガクと震えたクレアが近づいて来た。

「何だ? おもらし人妻?」

「今日はしてないし!」

「なら前にしたのは?」

「えっと……」

反射的に指折り数えだして、ハッと気づいてその手を止めた。

「してないから! ずっとしてないから!」

「嘘つけ~。片手か両手で数え切れるくらいに粗相しているだろう?」

「してないもん!」

調子を取り戻したクレアが吠える。

「で、何事かね? 僕はこれから陛下に会うのだよ」

「あの……先ほどの人は?」

「ああ。彼女? ホリーです」

「……」

「ちょっと有名で『死の指し手』と呼ばれているウチの知恵袋。参謀とも軍師とも呼んでます」

僕の言葉にクレアの顔から、見る見る血の気が失われていく。

「大丈夫……なのですか?」

「大丈夫大丈夫」

ピラピラと手を振って僕は気軽に答える。

「怒らせなければ殺されないから」

「……」

クルンと目を回して卒倒しようとするクレアを、見事にイネル君が背後から抱きしめる。

「流石旦那さんだ」

「アルグスタ様?」

僕がクレアを揶揄ったことに気づいているイネル君が、怒ったような呆れたような表情を見せる。

「大丈夫だって。本当に怒らせなければ噛みついたりして来ないから」

「なら良いんですけど……」

「それとクレアが起きたら今日は切りの良い所で帰っちゃって。僕の方もそうするんで」

「分かりました」

大事そうにクレアを抱きしめてイネル君がソファーに運んでいく。

ホリーは怖そうに振る舞うだけで、実は人見知りなのではと僕は思っているのです。

「あら? こんなところに美人が居る」

「褒めてくれるの?」

「ホリーが美人なのはずっと前から認めているけど?」

「……もうっ」

若草色のドレスに着替えたホリーが、頬を赤くして恥ずかしそうに両手で隠す。

赤面した顔を隠したのであって、ニマ~と笑う肉食の素顔を隠したわけではないと信じよう。

「で、ポーラがそこで絶望しているのは?」

「無理矢理ドレスに胸を入れてたら……」

「ああ納得だ」

一生懸命にポーラはホリーの胸を押してドレスに収めたのだろう。

結果としてその胸の凄さを終始味わい尽くして絶望したと言うことか。

何か最近胸ネタが多いな。リグに次いでホリーと言う巨乳族が立て続いたことが悪い。

あとはジャルスだっけ? レニーラが言うにはリグ未満ホリー以上らしい。

あれはできたら会いたくない。カミーラと違って完全に戦闘狂らしいしね。

「……はい。にいさま」

どうにか振るえる足で立ち上がったポーラが、エプロンの裏から紙の束を取り出した。

「なに?」

「読めば分かる」

チラリと視線を向けた妹様の右目に模様が浮かんでいた。

ならそのまま紙の束をホリーに回すと、彼女は流れ動作で紙の束を捲り続けて最初に戻った。

「大胆ね。でも面白い」

クスリと笑いホリーが紙の束を僕に押し付けて来る。

こんな分厚い物は見たくないのですが?

「出来るの?」

「私を誰だと思っているの?」

「なら無事に手伝ってくれたらご褒美を上げる」

「つまらない物でなければ受け取ってあげる」

2人が顔を見合わせて笑い合う。

ホリーが元に戻って良かったような気がするが……あの暗黒面に落ち切った姿を見ているから恐ろしい。

今後は定期的に愚痴を聞いて暗黒面に堕ちないようにカウンセリングして行かないと。

「ほらお兄様」

右目を閉じたポーラが僕に向かって笑いかける。

「今日ぐらいは美しいお嬢様をエスコートしてあげるぐらいの優しさを見せても良いと思うのだけど?」

「……そうだね」

ただし暗黒面に堕ちていないホリーは美人でスタイルの良い女性です。

軽く手を差し出すと、彼女が少し驚いた様子で僕の手を掴む。

「えっと……私、貴族のマナーとか」

「黙って背筋を伸ばして偉そうに歩いていれば大丈夫よ」

ポンとホリーのお尻を叩いてポーラが元に戻った。

「ごあんないします。にいさま。おじょうさま」

恭しく畏まるポーラの姿に緊張するホリーが何処か可愛らしい。が、そろそろこのツッコミを入れるべきなのだろうか?

否、口にした時点で僕の死が確定するから我慢だな。

ホリーはお嬢様と呼べるような年齢では無いと……飲み込んで我慢しておこう。

見た目が若いから誤魔化せるってもんだしね。

静々と歩くホリーの姿に、廊下を行く男性女性が二度見をしてくる様子が大変面白い。

種明かしはしないでおこう。そっちの方がちょっと楽しそうだしね。

ゆっくりと歩き、僕らは陛下夫妻が待つ国王様の執務室へと入って行った。

(C) 2021 甲斐八雲