軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前の愚痴をすべて聞いてやる!

ガタゴトと揺れる馬車の中で、ホリーが僕から離れてそっと窓の外を見ている。

いっぱい泣いて、いっぱい喧嘩して……それでいっぱい謝り合った姉妹は、ようやく家族に戻った。そんな気がする。

ただホリーはもう普通には戻れない。ファシーほどではないけれど悪名で有名な部類だ。遺族が残っていれば復讐を考えるだろう。それほどのことをしたのだ。

何より形の上では捕まり処刑されている。地道に『あの日』の加害者は全員魔法で狂わされた説を強行したとしても……反対意見も多い。当たり前だ。その説は前に否定されている。

だから異世界魔法と魔竜なる存在を加えて押し出したとしても……魔竜を召喚したのがグローディアだからな~。その罪を他に押し付けるとしても本当に厄介だ。

昨夜からのことで体は疲労の限界に達し、今も頭を酷使する僕って生き急ぎ過ぎてないか?

僕の基本は田舎でノイエとまったり生活のはずだ。まったり生活なら5日に一度ホリーが出てきても良いな。5日に一度ならば!

「ねえアルグちゃん? 何を考えてるの?」

「田舎でまったりハーレム?」

「……本当に何を考えてるの?」

物凄く心配そうな目で見つめられました。

ポーラは小首を傾げない。君にはまだハーレムと言う単語は早すぎます。知られるとお兄さんは色々なことが心配になるので却下です。

「茶化さないで答えて」

「茶化してないんだけどね」

本気でまったりハーレムを考えてました。

「もう……馬鹿」

「酷い。お姉ちゃんが馬鹿って言った」

「茶化すのが悪いのよ」

「馬鹿って言う方が悪いんです」

「……そうね」

笑ってホリーが僕を見る。

まだその目は若干赤い。あれだけ泣けば回復に時間がかかるよね。

「私は姉さんたちに会うのが怖かった。絶対に拒絶されるって……でも前の時にノイエの中から見た時にそれが間違いだって気づいた」

「だね。で、どうして会いたいって言わなかったのさ?」

「どうしてかしら? 元気にしているって知ってたからかしらね?」

「はい嘘つき」

僕の指摘にプイっとホリーが顔を背ける。

「何かホリーとコリーさんって似てるよね?」

「……姉妹だもの」

「そうだね」

だからお互いを庇ってしまう。

自分が姿を現し、問題が生じることをホリーは嫌っていた。

たぶん会いたいという気持ちを全て押し潰してだ。

「大丈夫。あのお店って馬鹿兄貴に頼んで密偵衆が周りに配置されているから」

「……そうなの?」

「何なら今度叔母様に頼んで引退したメイドさんを売り子で雇っても良いしね」

大人気商品だから中古でもなかなか手に入らないのがスィーク印のメイドさんだけど……卸元ならその伝手でどうにかなるかもしれない。

問題はノイエが自分の姪だと知った叔母様が今後どう動くかだ。

「あの2人は何があっても守るから心配しなくていいよ。ホールンさんの家族もね。僕がホリーに出来ることってそれぐらいだしね」

ホリーの家族は僕が絶対に守る。そう決めているしね。

「……馬鹿」

「何故に?」

「本当に馬鹿なんだから」

フワっと動いたホリーが僕の首に腕を回し押し倒してきた。

アカン……お姉ちゃんの変なスイッチが! 助けてポーラ! お兄様の大ピンチだよ!

しかし妹様はこちらに背を向け窓の外を眺めている。裏切ったか!

ギュッと抱き着くホリーからは直で良い匂いがする。

どうして女性ってこう良い匂いがするのかな? これがフェロモンなのか? 男を狂わせているのか?

「アルグちゃん……何を考えているの?」

「どうして女性ってこう良い匂いがするのかなって?」

「……本当に何を考えているの?」

正直に答える度に冷たい声を食らう羽目に!

「もう」

頬に暖かな感触がした。

キスをして来たホリーが唇を頬に押し付け……チロチロと舐められた。蛇かっ!

「大好きアルグちゃん」

「知ってる」

「愛してる」

「結構前から」

「ずっと一緒に居たい」

「毎晩襲い掛かってこないなら」

「……」

スッとホリーが僕から離れた。

「返事に愛情が無い!」

「あるわ!」

「どこによ! 今の言葉のどこに愛情があったのよ!」

「あったよ! ねえポーラ?」

突然矛先を向けられたポーラがビクッと体を震わせ、恐る恐るこっちを見る。

「無かった」

「あった」

「「どっち?」」

僕らの問いに妹様はプルプルと震え……口を開いた。

「ありました」

「ほら?」

「あん?」

危ない目つきでホリーはポーラを見る。

ビクッと増々震えるポーラが慌てて口を開く。

「にいさまはじぶんをまもろうと……じあいをみせてました」

「「自愛?」」

またもホリーと言葉がかぶる。でもある種正解だ。

僕は愛情いっぱいに自分を守ろうとした。だってまだ生きたいしね。

玄孫を抱くまでノイエと一緒に生きると僕は決めているのだから!

「アルグちゃん?」

「何でしょう?」

「その子の言葉の真意を聞いても良いかしら?」

「大正解ですが、何か!」

「むきぃ~! 憎い……愛しい人が殺したいほどに憎い!」

両手で僕の首元の衣服を掴み、髪の毛をワラワラと動かしホリーが凄んでくる。

恐ろしい視線から解放されたポーラは、僕らにまた背を向けて……俗世間から解放された超絶者のようだ。だが裏切り者だ。僕はこの恨みを決して忘れない。

「どうして愛してくれないのよ! 私はこんなにも愛しているのに!」

「だってな~。ホリー重いし」

「胸が大きいから仕方ないのよ!」

そっちじゃないからね?

ホリーは身長が低い方だから、同じ身長の女性の平均から比べれば重いかもしれない。その大きな胸の分だけは。

そっとポーラが自分の胸に手を当てて沈んでいるのはスルーしておこう。僕が復讐する前に天罰が下ったらしい。これで先ほどの裏切りは許してあげよう。

「……胸の大きな女は嫌なの?」

「大とか小とか関係ないかな?」

人それぞれ個性があるから良いのです。

全員が全員、同じ大きさで同じ形をしていたら僕が楽しめないじゃないですか!

喜びを奪うなと言いたい。

「なら何が不満なの?」

「肉食過ぎるところ?」

「それはっ! ……ごめんなさい」

驚くほど素直にホリーが謝って来た。

まだどこぞの悪魔が使った力が働いているのか? 悪魔恐るべし!

と、ホリーがまた僕の首に腕を回して抱きついて来る。甘えて来る。

「私はたぶん人として色々と欠落しているんだと思う」

知ってる。

「今『知ってる』とか思った?」

「ぜんぜん」

思っていませんってば……ホントウダヨ?

「そんな壊れた私にも絶対に譲れない、捨てられない、裏切られないものがある。それが家族なの」

「うん」

「私は家族が……お姉ちゃんと弟が全てだった。それだけ居れば良かった。でもノイエが加わって……貴方と云う存在が現れた」

「うん」

「ズルいのよ。この存在。いつも適当に振る舞いながら時折カッコイイの。本当にズルいのよ」

自分の評価をそう聞かされると恥ずかしいです。

何よりポーラさん? 激しく頷きすぎではないですか?

「本当にズルいの。私の心を鷲掴みにして……」

「謝った方が良い?」

「謝らなくて良い」

なら謝らない。

「私の心をこんなにも独占しておきながら、他の子にも手を出して」

「と言うか僕の愛情の大多数はノイエに」

「あん?」

何でもないです。視線で殺そうとしないで。

「分かってるわよ。アルグちゃんがノイエをどれほど愛しているかって」

良かった~。その愛まで放棄するように言って来たらどんな惨事になっていたことか。

「でも私だってアルグちゃんのことが好きなの。考えすぎて自分の気持ちを押さえられなくなるくらいに」

「で、貯めすぎて壊れるならどこかで吐き出してよ?」

「……あの自己主張が激しい人たちの誰に言えばいいの?」

えっと……あれ? ノイエの中の人って恋愛相談できる人とか居るの? と言うより愚痴を吐くことが出来そうな人ですら居ないかも? 歌姫さんは……何か遊んでそうで信用できない?

「どこで吐き出すの?」

「僕にでも吐き出して。今度から」

それしか無いわけです。

「分かった」

薄く笑ってホリーが僕の唇に自分の物を押し付けて来た。

えっとポーラさん? ここからは見ちゃダメだからね? と言うか窓の外……ノイエの姿が遠くに見えるのは気のせいですか? 覗いてますか? 何かを期待してますか? 僕が死ぬからね!

唇を離したホリーがジッと僕の顔を見る。

「なら今度からお姉ちゃんは大好きなアルグちゃんに愚痴を言うことにします」

「おう。どんと来い」

「愚痴を聞いてくれないなら……気が済むまでアルグちゃんを玩具にします。泣き叫んでも知りません」

「任せろホリー! お前の愚痴をすべて聞いてやる!」

愚痴を聞かないと僕が死ぬ。マジで死ぬからね?

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