作品タイトル不明
話はすべて聞き終えたので
「それでアルグスタ? 何故、ヒルスイット家のことを調査しているのか聞いても良いかしら?」
バキバキと叔母様が指を鳴らしながら問うてきます。聞くと言うより吐かせるの間違いでは? それも絶対に拳を使った古き時代の交渉ですよね? 現代っ子の僕には良く分かりません。
ジリジリと腰かけている椅子の背もたれに背を押し付ける。何だこのプレッシャーは!
「せんせい」
「何かしら?」
怖い物を知らないのか、僕の太ももの上に居るポーラが口を開いた。
「どうしてしらべてはいけないのですか?」
「……」
魔王、ではなく叔母様が止まった。
流石我が可愛い妹だ。今夜は……無理だな。ノイエとの先約があった。ならば明日だ。明日なら家族3人川の字になって眠ることを愛しいお嫁さんに進言しようと思います。
大丈夫。ノイエは話せば分かるから! 最近はかなり怪しいけど!
「ふむ。貴女は知らないのですね? ヒルスイット家のことを?」
「べんきょうぶそくでもうしわけございません」
「良いのですよ。あの家のことはわたくしが隠していますから」
シュンとするポーラが悪い訳ではない。だってあの家のことは叔母様が……待てよ? そうか。そう言うことか。ギュッとポーラを抱きしめて僕は決意を固める。
こんな時こそグローディアだな。あの馬鹿従姉に全て押し付けるのがマイブーム!
「叔母様」
「何かしら?」
ポーラに向ける表情と明らかに違うのですけど? 殺意しか感じません。
「実は……全てはグローディアの入れ知恵でして」
「……ほう」
「僕も悪いんですけどね。ただここ最近一方的に叔母様との交渉が……これ以上深く踏み込まれますと本当に色々と拙いんです。ですから何か交渉材料が手に入ればとあれに催促したら」
「ヒルスイット家のことが出たと?」
「はい」
絶対零度の視線が笑えないほどに恐ろしいんですけど!
「ただグローディアは『交渉材料になるかもしれない。けれどお勧めはしない』と言ってました。僕が独断で動いたことは……何よりここまで叔母様の琴線に触れるとは思わなかったのです」
「で、しょうね」
せめて目元だけでも緩くして~。笑ってよ叔母様~!
「陛下からヒルスイット家のことを聞き、『あっヤバい』と思ったけれど後の祭りです。僕に出来ることは誠心誠意頭を下げて」
「その陛下から1つ聞きました」
「はい?」
何を言い出しますか?
「何でもノイエは憑依させることで、あの術式の魔女を呼び出すことが出来るとか?」
「……」
何してくれてるのっ! お兄様っ!
「過去にそのような不思議を扱う貴族家がありましたね? 名はラングル家だったかと? 確か貴方の実家……ルーセフルト家が没落させた貴族だった記憶が?」
マジか? この叔母様……何処まで知っている?
「何より貴方が動く時は、全てノイエ絡みのはず。つまりは今回のヒルスイット家のこともノイエが絡んでいるのでしょう?」
「そんなことは……」
ヤバい。そろそろノイエ召喚か?
「アルグスタ」
「はい」
静かに殺意を漂わせる相手に僕はギュッとポーラを抱きしめる。
右手にほんのり小粒な感触が? 今は良い。あとで確認すれば良い。
「人の目はとても多くのことを語るのです。今の貴方の目は……嘘つき特有な動きをしています。いつもの貴方ならもっと上手く嘘を言うのに、今回はグローディアに罪をかぶせれば良いとそう思い安易な選択をしましたね?」
目の前の化け物は、本当に化け物でした。
「アルグスタ」
「……はい」
「わたくしが本気になる前に全てを語りなさい」
「……出来ません」
覚悟を決めるか。敵はあの叔母様とメイドランドのスタッフ全員。
卒業生も含みますか? この国の大半のメイドを敵に回すとか無いよね?
最悪はノイエからのカミーラかな? 姐さんなら最強種の叔母様と戦ってみたいとか言い出すと信じよう。
「出来ませんか?」
椅子に座り直した叔母様が軽く両腕を広げる。
「出来ません」
「このわたくしと争うことになっても?」
「ええ」
だって僕はノイエの夫ですから。
僕が不利になるようなことは問題ない。けれどノイエが不利になることは絶対に許せない。彼女に降りかかる不幸は全て僕が受け止めよう。命がけでもね。
「陛下からは暴れることを禁じられているのですがね?」
「僕もこの手は使いたくないんですけどね」
軽く腰を浮かせようとしたら、太ももにポーラが座っていて無理でした。
「……馬鹿らしい。それに胸が痛いのよ」
唐突にその声が響いた。僕の間近、目の前からだ。
小さな手が僕の手を押しのける。掴んでいたのはやっぱり胸でしたか。
「私は鎮魂祭の下準備で忙しいの。一番使いたい人材が病んでるしね。それに鎮魂する魂を増やさないで欲しいんだけど……ご主人様?」
振り返ったポーラは右目を瞑っている。つまりそう言うことだ。
「で、そっちの叔母様」
遠慮のないポーラの姿をした悪魔の発言に、叔母様の背後に居るメイドたちが騒めいた。
特にミネルバさんがこの世の終わりのような表情を浮かべている。
「貴女ですか? 前にもそうやってポーラの体を使っていましたね?」
「ええ。これでも姉さまの秘術を受け継いでいるので」
「……そうですか」
地の底を這うような静かで恐ろしげな声が!
「で、提案。背後に居る馬鹿なご主人様は、姉さまのことに関すると頑なになるから絶対に引かない。なのでこういうのはどうかしら?」
ポンと手を叩いてポーラが笑う。横顔が笑ってる。悪魔の笑みだ。
「今回のことは全てを話す。けど干渉しない。それで手打ちにしてくれると助かるかな?」
「手を打たなければ?」
「そうね」
クスクスと笑う魔女が、その手を動かす。
余りにも早すぎる動きに誰も対応できない。描かれた金色の文字の綴りを押して彼女は魔法とした。
「私ってば本当に強いよ? あの術式の魔女に匹敵するくらいに」
放った魔法は叔母様の背後に居るメイドたちを狙った物らしい。
全員が顔色を変えて体を動かそうとしているが身動きが取れない様子だ。
何その時間停止? ちょっと欲しいかも?
他意はない。ちょっと悪戯したいお年頃なだけです。
「ご回答をどうぞ」
「……分かりました。一切干渉はしないと誓いましょう」
「うんうん。やっぱり貴女は私が見込んだだけのことがある。もう30歳ぐらい若かったら全力で仲間に引き込んだんだけどね~。その足だともう無理でしょう? 本当に残念残念」
ケラケラと笑い悪魔が振り返った。
僕にだけ見えるように右目の瞼を開く。
「今回の手伝いは高くつくわよ?」
「いつも通りに請求して」
「ん~。でも術式の魔女はしばらく無理そうだし、代わりにあの青髪の痴女で良い?」
ホリーお姉ちゃんで何をする気ですか? と言うかいつもならコリーさんに作らせる服の順番を譲れとかじゃないの? 何を企んでいるの?
「ご返事は?」
「先生みたいにしないでよね?」
「私を信じなさい」
この世界で最も信じられない存在が、ポンと自分の胸を叩く。
と、何故か大変ポーラに似つかわしくない笑みを浮かべた。
「それとこっちは可愛い妹からのご褒美請求です」
「なに、むっ」
口を塞がれた。
スッと動いて来たポーラの顔が零距離まで接近してキスされた。
驚いて硬直していると……みるみるポーラの顔が真っ赤に染まる。
「ふなぁ~! ちがうんです! うれしいけどちがいます~!」
僕の足から飛び降りて、両手で顔を覆ったポーラが走っていく。
今、否定しながら肯定してなかったか?
ただ硬直が解けたらしいミネルバさんを含む数人のメイドさんたちが、この世の終わりのような顔を再び作って床に崩れ落ちた。
それはそれで僕に対して酷くない?
「で、アルグスタ?」
「はひ?」
「全て話せますね?」
穏やかな表情になった叔母様にそう言われ、僕はため息を吐いた。
「条件は干渉しないこと。良いですね?」
「ええ。何をそんなに恐れているのかは分かりませんが」
でしょうね。ただこれを語ればこの国の貴族たちの大多数が震え上がるぞ?
「先日のことです。ノイエの実家が判明しました」
「それはどうして?」
「説明するのが色々と難しいので省きます」
一瞬視線が厳しくなったけど、幽霊のこととから一から説明する身になって? 今日中に終わらないから!
「叔母様が先ほど指摘した通り、ノイエはラングル家の生き残りです」
「そうですか」
「で、母親の名前はスフィラ」
「……」
ラングル家の件では無反応だったが、流石の叔母様もノイエの母親の名には反応した。
「スフィラ、ですか?」
「ええ。何でも旧姓はヒルスイットだそうで。何も知らなかった僕は、知ってそうな馬鹿の兄貴に何となく尋ねたんですよ。その結果がこれです」
「……そうでしたか」
深く深く息を吐き、叔母様は静かに椅子から立ち上がった。
「どちらへ?」
「帰ります」
肩越しに彼女はこっちを見る。
「話はすべて聞き終えたので」
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