作品タイトル不明
お疲れ様でした
「ノイエ」
「……はい」
瞬間移動染みた動きで彼女が僕の前に立つ。
そっと彼女の左手を握って砂浜に転がっている小型ドラゴンの元へ。
比較的原形を留めている小型ドラゴンに手をかざして祝福を使う。
相変わらず分量と言うか配分と言うか……その辺の数値が見れたりしないので、軽く立ち眩みがする程度の体力を持って行かれる。
「……ノイエ」
「はい」
「これを全力で投げつけて……あとはお願い」
「はい」
軽く祝福を受けた小型ドラゴンを右腕で担いだ彼女は、祝福が宿っている左手を軽く振って寄こすと、どこか嬉しそうな足取りで砂浜の上を歩き……そのまま助走にして小型ドラゴンを放り投げた。
放物線では無く直線で大型ドラゴンに激突した小型ドラゴンが、木っ端微塵に破裂する。
とてもじゃないがお子様に見せられない映像だ。
放送後に抗議の電話が止まらない系だ。
小型ドラゴンの体液や血液で全身をまだら色に染めた大型ドラゴンが……迷うことなくノイエに向かい突進して来た。
「アルグスタ様~」
「ん?」
「ここって危なくないですか?」
「あはは。馬鹿だな~」
「はい?」
「実はここが一番安全なんだよ」
全幅の信頼だ。僕は心の底からノイエを信じると誓った。
だから危険を察して逃げるような真似はしない。
あわあわと慌てながら駆けて来たルッテを横に置き、僕は彼女が腰に下げているお菓子に手を伸ばす。
「その余裕は何処から?」
「ただお腹が空いてるだけ」
「……本当に大丈夫ですかっ!」
正面からの突進を少女ノイエが受け止めた。
勿論帝国の大女の様な怪力など彼女には無い。ただその左腕が今は無敵なだけだ。
巧みに左腕を駆使してノイエが大型ドラゴンを殴って行く。
圧倒的な存在である大型ドラゴンの方が圧倒的に苦戦を強いられる。
「隊長って……本当に人なんですかね?」
「うちのお嫁さんのことを悪く言うと後で酷いよ?」
「……でもあれを見ちゃうと」
まあ気持ちは分かるけどね。サイズ的によろしくない気がする。
「5歳若返って無ければ問題無かったかな」
「……その発想が出て来るアルグスタ様は、隊長と結婚するべき運命だったのかもしれないですね」
褒めるなよ? 王都に帰ったら高級店のお菓子食べ放題とかやっちゃうよ?
「でもね」
「はい?」
「ノイエは本当に普通の人間だよ。確かにあんな風に大型ドラゴンを殴り飛ばして圧倒しているけど、それは普通の人がその生涯の中で得られないほどの苦痛と引き換えにしているだけのことだよ。ルッテだって自分の体を引き裂くほどの激痛を常に得る代償を払えば、あんな風に出来るよ」
「……」
ゴクッと生唾を飲み込んだ彼女は、その顔に『無理』の文字を浮かべている。
ノイエのようなことはやろうと思えば誰にでも出来るかもしれない。ただその代償を支払えないだけだ。
僕にも無理だ。あの戦い方は出来ない。
握り締めた右手を見つめる。
あの戦い方は出来ないけど……祝福を使えばあれに近いことは出来るんだろう。
でもやっぱり出来ない。それはノイエの大切な物を奪い取ることに等しい。
彼女は僕に教えてくれた。
あの"施設"に居た仲間たちの力を使えると。
その力を僕に使っていると。
僕の勝手な思い込みかもしれないが、ノイエって素直だから色々と態度に出る。
今はその頭の上にアホ毛が無いけれど……きっとあればフリフリと嬉しそうに震えているはずだ。
「ノイエが嬉しそうだ」
「……あれを見てそう言えるアルグスタ様はやっぱり凄いです」
そうかな? 確かに分厚い外皮なんて関係なくノイエの左拳がドラゴンに突き刺さっているけどね。
「さてと。そろそろ終わりかな。コンスーロさんを呼んで来て」
「はい」
タッと走り出した彼女の背中を見送り、僕はノイエの元へと歩き出す。
近寄る僕に気づいた彼女が走り寄って僕に正面から抱き付いた。
「ダメ」
「ん?」
「まだ動く」
「分かってるよ。だからノイエ」
そっと彼女の腕を外して両手を握る。
これで足りるかな? ……慣れない祝福ほど危険な物って無いのね。
思いっきり視界を真っ暗にさせて倒れそうになった。
ノイエが支えてくれてなかったらパタリといっていたと思う。
彼女の支えを受けながら砂浜に座ると、後始末はノイエに一任する。
「どうすれば、良い?」
「頭を潰しておけば良いって話を聞いたね」
「分かった」
ドカンドカンと二回ほど地響きがしたと思ったら、ノイエが駆け寄って来て僕の頭の下に膝を押し込んで来た。
強引な膝枕だけど彼女の優しさが嬉しいから素直に甘えておこう。
「アルグ様」
「ん?」
「もう帰る?」
「……」
筋肉王子は『終わったらさっさと帰って来い』と言っていた。
それはノイエに船旅を強要するってことになる。
ドラゴン退治を終えたお嫁さんに対して何て鬼畜な命令だろうか!
「もう疲れたから……温泉に入ってお腹いっぱい食べてさ、寝てから帰ろうよ」
「……はい」
ノイエが僕の顔を撫でて来た。
嬉しいからってそれを体現しているのかな?
「ねえノイエ」
「はい」
「……お疲れ様でした」
「…………はい」
少し首を傾げた彼女はとりあえず返事を返して来た様子だった。
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