作品タイトル不明
大きいはズルい
ユニバンス王国・王城内近衛団長執務室
「本当に全く……」
悪態交じりで頭を掻きながら戻って来た主人に対し、待機していた騎士やメイドたちが背筋を伸ばし首を垂れる。片手をあげて挨拶しながら普段使っている机に向かい彼は椅子に腰かけた。
好き勝手が出来る弟の存在が羨ましい……羨ましいか?
生成与奪権を持つドラゴンスレイヤーを妻にし、魔女に殺人鬼が周りに居る状況だ。少し何かを間違えればたぶん即死だろう。気の休まる暇は無さそうだ。
自分の立場も色々と厄介だと思うが、即死は無い。
寝ている隙に刺されるかもしれないが、それでも即死は無いだろう。たぶん。きっと。
「コンスーロは何をしている?」
「別室にてお仕事中ですが?」
「呼んでくれ。ついでに家名録も頼む」
「畏まりました」
一礼してメイド姿の密偵が部屋を出て行く。
準備された紅茶を口にしながら待つと、先に家名録が届いた。
「ラングル家ね……」
呟きパラパラと分厚い本を捲る。
期待はしていなかったが……該当する家名があった。最後の方に、だ。
《最後の方に書かれるのは特殊な血や術を引き継ぐ一族のはず。具体的な術名などは書かれていないが、そこに記されていると言うことは……ノイエの異常は何かしらの血がなせる業か?》
見知った家名も何個か確認し、ハーフレンはパタリと本を畳む。
「失礼します」
「おう。仕事中に悪いな」
音を立てずに入って来た副官にハーフレンは視線を向ける。
「平気です。遅れた分はハーフレン様への提出が後になるだけですので」
「アルグのようなことを言いだすなよ」
やれやれと副官の言葉に渋面し、ハーフレンは頭を掻く癖を見せる。
「ラングル家と言う家名に覚えはあるか?」
「ラングル……ですか? 生憎と。その家が何か?」
「ノイエの実家らしい」
「それは」
軽く息を飲んで副官は驚く。
もし親戚が見つかれば、利益を求めようと王都に殺到して来ることだろう。
そうなればまた厄介な仕事が発生する。つまり主は事前にそれを潰せと言いたいのかもしれない。
「急いで確認しましょう」
「悪いな。それともう1つ」
家名録では調べずハーフレンは副官に聞くこととした。
この副官は大貴族に仕えていたこともあって貴族に関しては詳しいのだ。
「ヒルスイット家は知っているか? どこかで聞いたことがある気はするんだが……」
主人の言葉にコンスーロはため息を吐いた。
この主人は優秀なのだが……と諦めつつ。
「……ハーフレン様。その名を忘れるのは王家の者としては問題かと」
「そうなのか? 聞いたことはあるんだがな……どうも出て来ない」
「それはそれで問題なのですがね」
重ねて呆れつつも彼は言葉を続ける。
「ヒルスイット家は王家の転覆を計りあのメイド長の手によって掃除された一族です」
「……ほう」
だらけて座っていたハーフレンは、椅子に座り直すと表情を正した。
「何をした?」
「はい。彼らはルーセフルトとは違い武ではなく知と申しましょうか……策で転覆を計ったのです。それに気づいたメイド長が王妃様の許しを得て大掃除をした一族です。表立っては流行り病で全員お亡くなりになったと言うことで処理しましたが」
「だから俺が知らないのか?」
「かもしれませんね」
苦々しい息を吐き、コンスーロは正面から主人を見た。
「その一族は……様のご実家です」
静かに紡がれた言葉にハーフレンは肝を冷やす。
「本当か?」
「事実です」
「それは……厄介なことになるぞ?」
事実、厄介なことになった。
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「い、や」
「だめです」
「い、やん」
ポーラは嫌がるファシーを引っ張り湯船へと向かってくる。
猫化が進んだらしいファシーはお湯を嫌う。
ただポーラはメイドだ。汚れた者は許せない。
引きずって来て、隙を見て逃げ出したファシーをノイエが捕まえた。
ひょいと抱き上げて真っすぐ湯船に直行だ。
落ち着いて観察している僕はもちろん湯船の中に居る。
お嫁さんとお嫁さんと義妹の3人と一緒にお風呂だ。もう自然とみんなでお風呂をしている。
慣れって本当に怖い。
「ノ、イエ」
「なに?」
「お湯、いや」
「はい」
ファシーの懇願にノイエは無表情で頷く。そして迷うことなく湯船の中に放り投げた。
奇麗な放物線を描いてファシーは飛沫と共にちょこんと座る。
流石ノイエだ。遠慮は無いらしい。
「……ふなぁ~!」
遅れてスイッチが入り、悲鳴を上げてジタバタ暴れるファシーが僕の首に抱き着いて来た。
ギュッと首に回した腕に力がこもり、エグエグと泣き声もする。
水が嫌だったのか、投げられたのが怖かったのか……たぶん後者だろう。
「抵抗するのが悪いのです」
「……お風呂、いや」
「どうして?」
「……恥ずか、しい」
頭に巻かれているタオルを取って前髪で顔を隠す。
ただ濡れた髪の毛は普段のブラインドとしての効果を発揮しない。くっ付いてはっきりとファシーの瞳が出ている。奇麗で可愛らしい黒目だ。
「見ない、で」
「可愛いけどね。ノイエもそう思うでしょ?」
「ファは可愛い」
「……やん」
猫じゃないのに愛らしくファシーが鳴いた。
湯船にてノイエが両手に花を抱く。一句読んでみた。
本日のノイエさんはファシーとポーラを抱き寄せている。普段なら僕なのにどうした?
ただノイエに抱きしめられている2人の表情がどんよりしている。どうした?
ゆっくりと近づいてみたら、ノイエが何やら呟いている。
『息継ぎは?』と聞きたくなるほど息継ぎを感じさせずに念仏のように、『私の方が大きい。私の方が大きい……』とグイグイと抱いている2人の背中に胸を押し付けていた。
ノイエさんノイエさん? 最近胸のネタ押しが続いていますが何かありましたか?
前回リグが出て来た時は……最終的に僕の頭の治療をして帰ったはずだ。
その時僕は気絶していたので彼女に会っていない。
「ファシー」
「……なに?」
ファシーの目が完全に逝ってる。
ノイエ相手にここまで怒るのは初めて見た気がする。
「中はどう?」
「……みんな、泣いてる」
「はい?」
「ノイエの、言葉」
ああ。やはり邪魔という言葉はショックだったか。
「あれはノイエの言葉が足らないだけで本心じゃないからね?」
「分かってる」
それなら、
「分かってても、辛い」
そう言うことですか。それはもう仕方ないです。
「外に出たリグはどう? 一応先生たちに会えたと思うんだけど?」
「……ずっと、伏せてる」
伏せている? やはりリグでも別れは悲しかったのか?
「どんな風に?」
「ん……」
たどたどしいファシーの説明に僕は言葉を失う。
ポーラは顔を真っ赤にさせてその彷徨う視線を止めなさい。
ノイエは自然と視線を逸らしていく。
今聞いたこと全て最近ノイエさんからされたような気がしますが?
「……で、腰が抜けてると、セシリーンが」
「全部聞いてたんかっ!」
何気にあの人強心臓の持ち主だよな。
「で、ノイエさん?」
「……」
リグが腰を抜かしてダメな子になっている理由を説明しなさい。
「大丈夫」
「何が?」
「同性は浮気にならないって、この子の中の人が」
「何をやらせつつ言わせているんだあの賢者は!」
ポーラの体でリグを弄ぶなど言語道断!
……今度その時のことを録画してなかったか聞いてみよう。
決してエロい気持ちが先走っているわけではない。断じて違う。
先人の技を見て学ぼうと言う向学心が走り出したら止まらなくなっただけだ。
「ダメ」
「はい?」
ポイポイとファシーとポーラを投げ捨ててノイエが接近して来た。
「見るのはダメ」
「……」
「大きいはズルい」
アホ毛をへんにゃりとさせてノイエが顔を俯かせる。
「ノイエさんノイエさん」
「はい」
「ノイエの胸は決して小さくないからね? それを小さいと言ったら……」
僕の視線に気づいた小さい代表の2人が胸を押さえて湯の中に沈んで行った。
「ああなるので気を付けてください」
「……でも小さい」
もう止めてあげて。ボコボコと水面に気泡が大変なことになっているからね?
「僕は好きだよ? ノイエの胸」
全てにおいて完璧だと思います。
「……えいっ」
ノイエが飛び掛かって来て押した押された。ってお湯~!
結果として本日の入浴で3人程溺死しかけたと追記しておこう。
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