軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今はこっち

ユニバンス王国・王都内下町

ゴゴゴ……と地面が揺れた。

医者たちは一瞬治療の手を止め、治まるとまた再開する。

チラッと視線を巡らせたリグは、太い光の柱を見た。

自分の知識にあんな魔法を使った者が居ないことを確認し、内心で息を吐く。

《また怪我でもしてなければ良いけど》

何かにつけて生傷の絶えない人物だ。今度怪我をしたら……ちゃんと傷の経過を確認しながら看病が必要だ。看病しよう。看病だけで良いはずだ。

前回体験したがあっちはまだしばらく馴染めそうにない。数度は痛いと言っていたが、あれは痛いとかそう言う類の物じゃない。裂ける。

「そこの縫い方はもっと狭く」

「分かってる」

「練習不足」

「煩い!」

妹弟子に注意を飛ばすと、胸を押さえた師である彼が苦しそうにしていた。

「苦しいなら休んでも良い」

「誰に言っている?」

「壊れかけの老いぼれ」

「壊れてないわ!」

「老いぼれなのは認めるんだ」

『フンッ』と鼻を鳴らして怒る相手にリグは薄く笑う。

あれほどの怪我を負って動けているのだから立派だ。

「聞きたい」

「何だ?」

「彼のあれが大きくて痛い。どうすれば良い?」

『みぎゃ~』と患者の悲鳴が木霊した。

「大きいだと? まさか……もうしたのかっ!」

「手を動かせ。質問に答えろ」

「くお~! 切って小さくしてくれようぞ! 今すぐ連れてこい!」

「無理。それにボクぐらいの背格好で平気にしてる人が居る」

『先生! 死ぬ~』と患者の声が木霊した。

「……お前以外にも? どこの貴族だ! そいつの血は何色だ!」

「普通の血だった。暖かくて……美味しかった」

「くお~! 殺す!」

「止めて。大切な人」

「のお~!」

両手で治療を継続しながらも彼は頭を激しく振り続ける。

「で、痛くしない方法は?」

「慣れるまですれば良いんじゃないですか?」

「ナーファ! お前はそんなことしてないだろうな!」

「「煩い黙れ!」」

2人の弟子の声に師である彼は、泣きながら治療を続ける。

「最終的には赤子が出てくるほど開くのですから」

「納得だ。その手の知識が少なくて困ってた」

と、リグは治療を終えて次の患者に移動する。

「で、そこの老いぼれは姪になんてことを教えている。恥じろ」

「違うのだ! 馬鹿な貴族共が!」

「受けている時点で恥だ。死んで詫びろ。彼女の両親に」

「のぉ~!」

「という貴女にもそれは言われたくない」

「そうだった」

まだまだこの3人の治療は終わらない。

ユニバンス王国・王都内スラム廃墟

ノイエはゆっくりと辺りを見渡す。

光が空に向かい伸びている。でもそんな光を気にせず顔を動かす。

と……見つけた。光の向こう。金色の長い髪を揺らして彼女が立っていた。

「っん」

声を発し軽く地面を蹴る。

迷うことなくノイエは走った。

「あはは~! 殺されし者よ! 殺されし者たちよ! 存分にその恨みを晴らすが良い! 異世界の魔法で得た血肉を用いて存分に暴れるが良い!」

響く声を無視してノイエは走った。

枯れた爺が何かしたのか足元から天へと向かい光の柱が伸びた。

僕たちを包囲するように存在していた亡者たちは、その光に触れると消滅して行く。

「何かしらの魔法的な材料にでもされているのかね~」

「この状況でそんなことを言ってる貴方も大概よ」

「ですか~」

軽く肩を竦めて肩越しに振り返ると、彼女が居た。

桃色の髪が特徴的なノイエの姉の1人だ。

「化けて出て来たの?」

「……強制的に体を与えられたのよ」

「それで?」

「ずっと声が聞こえるの。『恨みを晴らせ』ってね」

「そうっすか~」

アハハと笑う僕の顔の横を彼女が放った拳が通り過ぎる。

グチャッと恐ろしく生々しい音を発して……絶対に見ない。見ないからね。

「だから恨みを晴らそうと思うの……」

薄っすらと笑う彼女……ユーリカが僕を見た。

「私の大切なノイエを奪い、あんな風にしてしまった男を絶対に許さない!」

「意義あり! 最近のあれは大半がホリーのせいだと思います!」

「知らないわ! とりあえず殴る! 殴って蹴って潰して引き抜いてから……また殴る!」

「戻ったよ! 暴力の無限ループだよ!」

拳を振りかぶる相手から、僕は全力で逃げ出した。

「んっ」

「……」

飛びつき抱き着いて来た存在を優しく抱きしめる。

「んっんっ」

腰を折り顔の位置を下げて胸に頬を擦り付けて来る。昔と変わらずに。

「母さん」

「……違うわ」

「んっ」

それは挨拶のような物。

いつも間違える『妹』に現実を伝えるのだ。

「姉さん」

「ええ」

胸に顔を押し付けていた妹がその顔を上げる。

「ノーフェ姉さん」

「そうよノイエ」

儚く笑う存在は、妹を愛し気に抱く存在は……妹と同じ顔立ちをしていた。

「甘えてばかりね」

柔らかく笑いノーフェは、大切な存在を抱きしめた。

「話そう! 話し合えば何かが伝わる!」

「却下よ却下!」

「って、あれだよね? ほら思い出して? 死ぬ時僕にノイエを任せていたよね? だから僕とノイエが仲良くしていても問題無いと言うか」

「そんな前のことなんて死んで忘れたから!」

「そう言えばあの時も半ば死んでましたっけ? どうでしたっけ?」

「……死んでいたから何も覚えてしないわ」

「生き返ったついでに頑張って思い出そうか? 結構本気で!」

腰の魔剣を抜いて魔力を流す。

自動迎撃の魔剣は、僕の代わりに襲い来る存在を迎え撃ち斬り裂いた。

「うっわ~。今のが私だったらどうする気? 死んだ存在にはどんなことをしてもいいとか思ってるの? 鬼畜な男ね。やっぱり殴る」

「思ってないけど今だけ思ってるかも!」

「良し。殺す」

「表現が真っすぐに!」

おかしな程に穏やかな表情を浮かべ……ついでに額に青筋まで浮かべてユーリカが追って来るのです。

「大人しく成仏しようよ! 幽霊になって現世にしがみつくとか無様だから!」

「知らないわ。でも今は感謝しているわ」

「何が?」

「可愛い妹をあんな痴女にした男を殴れるんだから!」

「だからその苦情はホリーさんにお願いします!」

やっべー。本気でこの人殴って来るんですけど!

「姉さん」

「なに? ノイエ」

「……柔らかい」

「もう甘えん坊なんだから」

そっと妹の後頭部に手を伸ばし優しく優しくその頭を撫でる。

「ごめんなさいね。ノイエ」

「なに?」

「私は貴女を守れなかった」

姉の言葉にノイエは顔を上げる。

今にも泣きだしそうな姉に気づき、その手で相手の頬に触れる。

「平気」

「平気?」

「はい」

オウム返しで聞く姉にノイエはそっと顔を動かす。つられノーフェも顔を動かした。

「私が守るから」

「……そうね」

妹の言葉に姉は色々な感情を抱えため息を吐く。

『のぉ~! 股間はらめぇ~!』などと叫ぶ彼は桃色髪の女性に腹を踏まれ身動きできなくなっていた。

「あれを守るの?」

「はい」

迷わず即答する妹に対し……姉は思った。

ずっと消えずに留まって見てはきたが、やはりこの妹は男性の見る目が無いのかもしれないと。

全てが悪いとは思わない。彼がどれほど妹を大切にし愛しているのかも知っている。

でも……やはり女性に守られる男性であってほしくは無いと思う。

少なくとも同じ貴族なのだから……少しは意地を見せて欲しいのだ。

「……助けに行く?」

「平気」

ギュッと背中に腕を回し妹が抱き着いてくる。

「今はこっち」

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