軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私がノイエを壊して……

ユニバンス王国・王都内スラム廃墟

胸を踏みつけて来る足が動かないのです。退けられないのです。

と言うか気づけば自動迎撃の魔剣まで相手の手に!

どうしてこうなった? この圧倒的な戦力差は何だ?

「ノイエ~! マジで助けてくださ~い!」

致し方ない。ここは最終手段……お嫁さん召喚だ。

だが反応が無い。代わりに剣を持つユーリカがブンブンと振り回している。

こわっ! 剣先が顔の前を過ぎたから~!

「ノイエ助けて!」

「……んっ」

ようやくお嫁さんの声が。

「頑張って」

まさかの拒否ですと!

必死に体を動かし顔をノイエが居るであろう方向に向ける。

彼女はギュッと抱きしめられていた。凄い美人にだ。

金髪碧眼の典型的なユニバンス色と呼ばれる色をした女性だ。

背格好はノイエぐらいで、胸の大きさも同じくらい。そして怖いぐらいにその顔立ちがノイエに似ている。

「お~い。ユーリカ?」

「この世に別れを告げる気になった?」

「無理っす。僕は長生きする予定なので」

具体的にはひ孫を抱くまでノイエと一緒に居たいのです。

それよりも今は確認が先だ。

「もしかしてあれって?」

「ええそうよ」

軽く息を吐いてユーリカは剣を振るう。

「ノーフェ・フォン・ラングル。南部に存在していたとある大貴族に睨まれて没落した下級貴族のご令嬢よ」

「そうっすか~」

だからだろう。ユーリカの剣が止まらない。

次から次へとなます斬りだ。なますって何だろう?

「まずはそっちから?」

「ええそうよ」

軽く唇を舐めてユーリカは薄く笑う。

「貴方のおかげでノイエを貧乏にした元凶たちに復讐が出来るのよ。思う存分に恨みを晴らせるわ」

笑いながら彼女は襲い掛かって来る亡者を斬って捨てる。

たぶん僕に憑りついていた怨霊の類が実体化して暴れているのだろう。

「……その理論で行くと最後に僕は?」

「ええ」

腕を止めニッコリとユーリカが笑う。

「大丈夫。死なない程度に抑えるから」

「なにを!」

「具体的に聞きたいの?」

「何も聞こえませ~ん!」

両耳を塞ぎ僕は絶叫した。

ノイエの姉たちの愛情が重すぎると思うんですけど!

ハルクは目の前で起きている現象に戸惑っていた。

標的であるアルグスタの方は問題ない。

膨大と呼んでも良いほど纏っていた悪しき影たちは実態を得て彼に襲い掛かった。余程恨みを買っているらしい。

想定外はあの白い化け物だ。

あっちも数多くの悪しき影を纏っていた。だから多くの亡者が生じて襲い掛かるはずだった。

だが事実そうはならなかった。

特に強く纏わりついていた2体のみが実体を得た。それならそれで良かった。

けれどその亡者どもは纏わりついていたあの化け物を襲わない。襲う気配はあったが、何故か元王子の方に1体行ってもう1体は標的である化け物を抱きしめている。

意味が分からない。こんな現象は初めてだ。

「何故だ! 何故襲わない!」

慌てて彼はもう一度異世界魔法を唱えだした。

力が足らなかったのかと……そう思って。

「彼女はずっとノイエの傍に居た。ずっとよ。ずうっと」

剣を振るうユーリカが、ただただそれを告げて来る。

「私も同じ状態になって感じていたけれど、それは凄く辛いことなのよ」

「分かるわ~。全裸で雪の中に立たされる感じでしょう?」

「……正解なのが腹立たしい」

踏まないで! 心臓が潰れちゃうから!

ついでにグリグリまでプラスしてからユーリカは踏みつけを緩める。

「妹を1人で残し消えてしまうことが本当に嫌だったのね。私もノイエの姉を自称していたけれど……彼女を見たら真似事だったと思い知らされたわ。あっ元当主発見!」

スススとユーリカの剣が動いて亡者が1体バラバラになった。

この国の魔法使いって何かが大きく間違っている気がする。類似語でメイドさんもかな。

「彼女は死んでからずっとノイエの傍に居て見守っていたのよ。もう限界なんてとうに過ぎているのに……妹への愛情だけで耐えていたの」

「そうっすか~」

気の抜けた返事をしたらまた踏まれた。

「何その返事は? 順番変更して、先に死ぬ手前まで逝ってみる?」

「順番は守るために存在していると思います!」

「ちっ」

「舌打ちっ! 今舌打ちしたよね?」

僕の言葉を無視してユーリカが剣を振るう。

「恐ろしく良く斬れる魔剣だね。流石エウリンカの作品だ」

「知ってるんだ」

「ええ。ノイエの後ろから見れる時は見てたから」

「見れない時もあるの?」

「あるわよ。不意に意識が消えかけて気づけば数日が経過しているとか良くあることよ。だから見れる時は隈なく見ていたわ」

「それはそれでただの覗きなのでは? ぐふっ!」

胸を踏んでいた足が動いてお腹に!

出ちゃうから! 何かがオエッて出ちゃうから!

「覗きじゃない。確認よ」

「うん。確認は大切です。はい」

認めよう。確認はとても大切なものであると。

全肯定していたら彼女の足がお腹から胸へ……踏まれ続けることは変わらないらしい。

「全く……何の話をしていたのかしら?」

「ノイエの実の姉のこと?」

「そうだったわね」

苦笑しユーリカは一度剣を止めた。

激しく頭を振ってからまた剣を振るいだす。

頑張れ亡者たち。今日は君たちは最悪な日らしい。

「嫌になる魔法ね。そんなにも私にノイエを殺させたいのかしら?」

「大丈夫?」

「自分の身を心配なさい。もう一度魔法を使ったみたいで失せていた亡者が実体を得たわよ」

それはそれで大ピンチです。僕以上に亡者たちが。

「ノイエたちの代わりに復讐させてくれるだなんて好都合だけど」

ほらね? ユーリカは好戦的な人でした。大変喜んでおります。

「魔法に逆らうなんて凄いね」

「……」

素直な気持ちを告げたら静かに胸を踏まれた。

「それは操られてノイエを殺そうとした私に対する意趣返しかしら? 順番変える?」

「そのままで! はい!」

決して命乞いではない。これは決して屈しているわけでもない。

僕を踏む足を緩めて……ユーリカは抱き合う姉妹に目を向けた。

あっちは平和だ。実体を得た亡者たちのターゲットは僕らしいので僕の方にしか来ない。

ユーリカが剣を振るっていなければ、僕はゾンビ映画における大群に襲われて貪られる要員の1人と化していただろう。

「……もうあんなことはしたくないのよ」

「はい?」

必死に視線を動かせば、ユーリカは何処か泣き出しそうな辛そうな表情をしていた。

「私は大好きで大切に思っていたノイエを2回も殺そうとしたのよ。最も罪深い存在よ」

「気にしなくても平気だよ。ノイエは気にもしてないしね」

その証拠にノイエはユーリカを『ユー』と呼ぶ。

それは大変に珍しく貴重なことのようで、現在唯一『ファ』と呼ばれているファシーは、そう呼ばれるようになってからノイエの中で酷い目に遭ったらしい。

ああ……嫌な現実を思い出してしまった。ファシー問題をどうしよう?

「あの子はそうでも私の気が済まない。それにあの子の姉にも酷く責められたしね」

あの清楚な感じで大人しそうな女性がですが?

「……大人しそうな美人さんに見えますが?」

「見た目だけね。ノイエのことになると人が変わるから」

ノイエの姉ってそんな人しかいないの? もしかしてノイエが何かを狂わせていますか?

「ねえユーリカ」

「何かしら?」

剣を振るい何かを振り払おうとしている彼女を僕は真っすぐ見た。

絶賛彼女に踏まれているとかは気にしない。気にしたら負けだ。生きていればそんな日もある。

「教えて欲しいんだ」

「なにを?」

「貴女が……死んだ日のことを」

酷い質問だとは思う。けれどこの話は中の人たちが語りたがらない。お願いすれば語ってくれるであろうファシーは、その頃一番酷い状態で見ていなかったらしいしね。

あのシュシュやレニーラすらこの話題は避けて通るほどだ。

「……私があの子を壊したことは知っている?」

「何となく話は聞いてます。何処までが本当かは知らないけど」

優しすぎるノイエを戦場で戦えるように作り替えようとして失敗したという話だ。

「事実よ。私がノイエを壊して……」

一瞬彼女はノイエを見つめた。

「迷わず人を殺せる存在にしてしまったのよ」

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