軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当に酷い弟子ね

「何を考えているのよ。本当に……」

少し離れた場所で文句を吐き続ける先生が居た。

身の安全……先生の心中を察して、僕らは少し離れた場所で待機している。

隣に居るノイエが今にも歩いていきそうだが、グッと我慢している。

先生を前にするとあのノイエですら大人しくなるのだ。たぶん記憶に残る腐海の痛みが忘れられないのだろう。

溺愛しているのに妹に恐怖を刷り込んでいる先生はやはり凄い。

「それぐらいで良いわ」

「はい」

手直しを終えたらしい先生が改めて姿を現した。

ミネルバさんは裁縫まで出来るらしい……おかげで芸術的な切れ込みがだいぶ下がってしまった。まあそれでも白くて長い奇麗な足が姿を覗かせている。十分だ。

「何よ?」

「奇麗だなって……ねえノイエ?」

「はい」

「言ってなさい」

ノイエですら頷くアイルローゼの美脚だ。

ただそんな芸術作品を間近で見るのは僕らぐらいで、ルッテを含んだ人たちはだいぶ離れた場所からこちらの様子を伺っている。

それがこの国におけるアイルローゼに対する正しい反応だ。

「はあっ! 出来れば少しでも傍にっ!」

若干1名僕の重力魔法を食らって地面と熱い抱擁を交わしているニートが居る。

これは変態の類だからこのままでいい。基本ミシュと同じ扱いで大丈夫なはずだ。

「行くわよ」

「はい」

先生の合図にノイエが追随して馬車に向かう。

「そんな訳で僕らはお城に行くんで、あとのお仕事は任せたよ」

「わっかりました~!」

ルッテがブンブンと手を振って来て……何処か早く行って欲しそうな感じが凄いな。

術式の魔女と呼ばれる存在であっても先生はあの日、この国で最も多くの人を殺した存在だ。語り継がれている恐怖は消えやしない。

僕も馬車に乗り込み……ノイエに倣って座席の上で正座をする。

どうしてこうなるの?

ゆったりと足を組んだ先生が、物凄く冷たい視線を僕らに向けてくるからだ。

「分かってはいるのよ。どうせあの刻印の魔女が、私で遊ぼうとしてこんな服を作ったんでしょう? 本当にあの魔女は……」

愚痴る先生には悪いが、その服を望んでのは僕です。

だって先生の足が奇麗だから! 長くて奇麗で……何という眼福でしょうか!

「弟子? その目玉を抉るわよ?」

「ごめんなさい!」

少し頬を赤らめて先生が足を組み替える。

「だからって下着が見えたら服の意味がないでしょう? そうよねノイエ?」

「……アルグ様は喜ぶ」

「弟子?」

「本当に申し訳ございません!」

ノイエの言葉は間違っていないけれど今言うべき言葉ではない。

おかげで先生の視線がさらに冷たなった。

「しゅっぱつします」

馬車に乗り込んできたポーラがそう告げると微かに馬車が軋んで動き出した。

御者を務めるのはミネルバさんだ。そして我が家の可愛い義妹は……そっと僕の横で正座した。

躊躇なく正座してしまうポーラにも色々と問題がある気がする。

「でも先生?」

「何よ」

「良く似合っていると思います」

「……言ってなさい」

不機嫌そうに馬車の外に目を向ける先生はやっぱり奇麗だと思う。

少しきつい感じがする美人顔だけど、ただ先生の場合は意識して目元をきつくしている感じがする。普段の先生はそこまできつくない。何より最近は若干可愛らしく思える時もある。

しかしコリーさんの仕事は完璧だな。スリット部分が削られはしたが、黒を基調にしたあのイラストをここまで完璧に形にするとか天才か?

うん。やっぱり魔女は黒だよな。それにあの太ももはズルい。

「弟子?」

「はっ!」

気づいたら先生の太ももを凝視していた。

ゆっくり視線を横に動かすと、ポーラがどんよりした表情を浮かべていた。

しまった。ポーラの足は傷跡だらけで、やはりそれを気にしていたのか? お兄ちゃん失格だな。

逆側に視線を動かすと、仕事を終えたので私服姿のノイエが居る。今日は白いワンピースだ。

で、僕の自慢のお嫁さんは……何故か自分のスカートを捲って太ももを見せてくる。

止めなさいノイエ。そういうことをすると絶対先生が怒りだすから。

「ノイエが見ても奇麗な足だよね?」

「……枕にしたい」

ピクッと先生が反応する。

大人の男性が並んで3人は腰かけられる座席を1人で使っている先生は、そっと自分の横で丸くなって寝ているリスを猫掴みするとポーラに押し付けた。

「本当にノイエは昔から変わらず甘えたことばかりを言って」

真ん中に座っていたはずなのにスルスルと先生は座席の端に寄る。

「今日だけだから……分かった?」

「はい」

フワっとノイエは立ち上がると、先生の横に座りコロンと横になった。

あの美しい太ももを枕にするとは……羨ましいです!

「本当にノイエは甘えてばかりで」

愚痴っぽい感じの言葉なのに先生の表情が若干柔らかそうなのは何故だろう? ツンデレか? というか先生はツンデレではない。ツンではあるがデレを知らない存在なのだ。

だから時折デレようとする仕草や行動が可愛らしく見えるんだろうな。

サワサワとノイエの頭を撫でていた先生がこっちを見た。

「ところでお城に寄るのは何故?」

「陛下からのお呼び出しです。たぶんバローズさんが乗り込んでくるかな」

アイルローゼの同行は告げていないが、先生に会いたいあの人は僕と会うことを願うはずだ。

なら今回は一緒に行動して交渉を持ちかけてくるのが普通だろう。

「そう。なら一発殴り飛ばしてやろうかしら?」

「止めといて。ノイエがそれを見てバローズさんを敵だと思い込んだら大惨事になるから」

「そうね」

クスッと笑い先生はノイエを撫でる。

スリスリと太ももに頬を擦り付けているその様子が羨ましいな。

「シュニット王は私に会おうとするかしら?」

「会いたいだろうけど周りが阻止するだろうね」

「そうね」

寂しげに笑い先生は口を閉じた。

「にいさま」

「ん?」

「どうして、そしするのですか?」

何も知らないポーラは純粋に不思議に思ったのだろう。だからこの言葉に他意はない。

そっと手を伸ばし彼女の頭を撫でてあげる。

「術式の魔女アイルローゼはたくさん人を殺した悪い魔女なんだ。習ったでしょ?」

「はい。でも……」

何度も先生を見ているポーラは、どうもそのことを真実だと受け止められずにいる。

実際姿を現す先生はポーラに対して酷いことなどしない。優しくて天才的な魔法使いなのだ。

「みんないいひとばかりです」

「そうだね。だからあの日悪いことをした人たちは、悪いことをさせられた人たちなんだよ」

「させられたのですか?」

「そうなんだよ」

優しくポーラの頭を撫でると、彼女は眼を弓にして穏やかな表情を見せる。

「先生が好き好んで人を殺すだなんて思えないだろう?」

「はい」

「それが事実です」

そう言って僕はそっと先生の表情を伺った。

辛そうで泣きそうな表情をしていた先生は……僕の視線に気づくと、フッと笑い唇を動かす。『酷い噓ね』とそう告げられた気がした。

分かっている。先生が告白してくれたんだから。

あの日アイルローゼは何もかもが嫌になって、死にたくなって、暴れたのだ。

確実に処刑されるために多くの人を殺し、自分の悪事を闇に葬ることが出来ないレベルにまでした。

天才で優秀なのに、不器用で上手に生きられない人……それがアイルローゼだ。

「先生は凄く優しくて可愛い人だから、ポーラもノイエのように甘えると膝枕して貰えるよ」

「……またにします」

今はノイエが独占しているからポーラは遠慮した様子だ。

「私に確認もしないで……本当に酷い弟子ね」

「否定はしません」

「言ってなさいよ。馬鹿弟子」

声は怒っているが目元は優し気で……アイルローゼはノイエを優しく撫で続けた。

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