軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

原石だ

全身を葉っぱや枝まみれにしたミシュに買い取ったドレスを纏ったルッテを預け、僕も着替えを終えたノイエと共に馬鹿兄貴の執務室を出た。

右腕に抱き付いて来る彼女の様子が余りにも可愛いせいで、通りかかるメイドさんたちが二度見してから表情をほっこりとさせて行く。

一番ほっこりとしているのはクレアだ。

今から僕の執務室に戻って仕事だと言うのに……その表情はだらしなく蕩けている。ただ自分の胸を全力でガードしているのは何も言わないであげよう。

通路の角でフレアさんと出会った。

「あらアルグスタ様?」

「そっちは終わったの?」

「はい。それで隊長に扉を閉じて貰おうと……」

その視線がノイエを見てから妹に移り、またノイエへと戻った。

「妹さんですか?」

「ノイエです」

「……っ!」

目を剥いた。

気持ちは分かるが……余り騒ぎを大きくされるのも面倒臭い。

「なら僕らは行って扉を閉めて来るよ。クレアは部屋に。フレアさんは適当に仕事してて」

「……はぁ」

「じゃっ!」

腕に抱き付くノイエを引いて急いでその場から逃げ出した。

トコトコと扉に近づいた少女の様子に、待機していたメイドさんたちの表情が綻ぶ。

そっと手を掛けてあっさりと閉じたノイエが、クルッとこっちを見て歩いて来た。

『頭を撫でて』とそのつぶらな目が語りかけて来るので、うりうりと撫でたらメイドさんたちが『はふっ』と熱い吐息を溢れさせる。

大丈夫か? この城のメイドは? 実はロリコンの巣窟だったのか?

ノイエの身の危険を感じたので急いでその場から退避した。

「アルグスタ」

「はい?」

呼び止められて振り返ればイケメンなお兄ちゃんが居た。

僕を見てからノイエを見てまた僕へと視線を戻す。ノイエで止まらないのは流石だ。

「頼みがあるんだが良いか?」

「頼みですか? 急ぎでなければ良いですけど」

「急ぎでは無い。実はクロストパージュのご息女の勉強会にキャミリーを参加させたくてな。慣れるまでお前に保護者を頼みたいのだが良いか?」

「良いですよ」

フッと柔らかな表情を見せるお兄ちゃんは宰相の立場では無い感じだ。

純粋に兄として弟に対する『お願い』だと分かるので、馬鹿兄貴よりも素直に受けられる。

と、クイクイとノイエが僕の手を引く。

「……一緒に来る?」

ジッと見つめて来る彼女の様子にピンときた。

僕の返事に少し嬉しそうな感じでコクコクと頷くノイエが可愛い。

「本当にお前たちは仲が良いな」

「……ノイエって気づきました?」

「ハーフレンに壺の調査を命じたのは私だぞ? 何よりその耳はノイエであろう」

「耳?」

言われて見ると……いや分からないから。

「人の耳はそう変わらない。だから私は耳で人の名を覚えるようにしている」

「はぁ」

「人の上に立つのもなかなか大変なのだよ」

年下の義姉の勉強会への段取りを簡単に済まして、お兄ちゃんはまた次なる仕事に向かった。

本当に忙しい人なんだよね。自分の執務室を持たないほどに。

またノイエと共に廊下を歩いていると、前方に見覚えのあるオッサンが。

こっちを見るなり……僕を無視してノイエに向かい全力で迫って来た。

コラコラ国王。ドラゴンすら恐れない嫁が怯えているぞ?

「アルグスタ」

「はい?」

「この娘はどうした? これは……育てれば数年でとんでもないほど光り輝くに違いない。原石だ」

興奮して鼻息の荒いオッサンにノイエがマジで引いている。

「ノイエです」

「……」

「5歳若返ったノイエです」

「……そうか。アルグスタよ」

「はい?」

「お前たちの娘はきっと美人となるであろうな。あはははは」

体裁を整えて国王が逃げるように離れて行った。

もし仮にこの子がノイエで無かったら……あのオッサンなら青い果実とか食べそうで怖いな。

「それでハーフレン王子? 隊長のあれは?」

「……分からん。あの施設の内部資料は、俺たちが踏み込んだ時に燃やされて残っていない。外部資料には施設に居た子供たちの特徴などは書かれていなかった」

天井を見つめて彼は記憶を掘り返す。

降り出した雨の中で……全身に浴びた返り血を洗い流すかのように立ち尽くしていた少女。

赤黒い瞳からは雨粒と溶け合うように涙を溢し、白銀の髪は血と泥で汚れていた。

あの時に見たあの姿はたぶん死ぬまで忘れられない。

それ程強い印象であり出会いであったからだ。

ソファーでは無くて机の端に腰かけたフレアの様子は、最も信の置ける部下だった頃の様相だ。

厳密に言えば正室候補だった頃と言っても過言では無い。

「アルグスタが来てから恐ろしい勢いでノイエの秘密が明かされるな」

「それが良いことなのか悪いことなのか……今の状態だと何とも言えないわね」

「ああ。でも少なくとも俺と出会った時には俺たちの知るノイエだった。11歳から12歳の間で何かあったと考えるのが普通だろうな」

「そうね」

机からお尻を降ろしフレアは床に足を着く。

「前から思っていたんだけど」

「何だ?」

「隊長のあの目って……確かに大陸の西端に住む山岳民族に多く見られる色だと書物で見たことがあるのよね」

「……でもノイエはたぶんこの国の出だぞ?」

「ええ。ただその山岳民族は不思議な力を使うとも聞いたわ」

「……」

偶然の一致かもしれない。でもそんな偶然が起こりえるものなのか?

「偶然だろ?」

「そうね」

クスッと笑いフレアは彼に背を向けた。

「ただ隊長のことだからそれぐらいの不思議も普通かと思った程度よ」

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