軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒だらけ

統括宮殿にある晩餐の間は、王族が揃って食事をとるときに使われている。そこで私もこれまでにニ度ほど食事をしたことがあるけれど、今夜はその部屋の更に奥にある場所で食事をするという。

そこは他国の王族や使節をもてなすとき、または戴冠式や婚礼といった限られたときにだけ使用され、普段は閉ざされているのだとリタから聞いた。

「こちらでございます」

統括宮殿の筆頭侍女でもあるリタに先導され中へ入れば、まず白いクロスの上に整然と並べられた銀器が目に入る――より先に、既に席に着いていたクリスとソレイルの装いが視界に飛び込んできて目を瞬く。

(……うわあ)

二人共いつものこれぞ王子といった爽やかで上品な装いではなく、それとは真逆な黒。

白いシャツに濃紺を合わせ、胸元や袖口には銀糸の刺繍が施されてはいるけれど、まごうことなき黒である。

「……」

「……っ!」

微かに眉を寄せ嫌そうな顔をするクリスと、自身の胸元を掴みながら口をパクパクさせているソレイル。

どうやら驚いているのは私だけではないらしく、三人の視線が互いの装いへと向かう。

(黒だらけ)

サッと周囲へ視線を巡らせるも、リタをはじめ侍女達は皆いつも通りの装いで……。それなのにこの場にいる王族の三人は揃って黒なのだから、戸惑うのも無理はなく。

(これ、本当に晩餐だよね?)

大切なときにだけ開かれる部屋なだけあり、格式ばった内装と調度品はどれも重々しく、威圧感が凄まじい。そこへ主要人物達が揃って黒い衣装で現れれば、物語にありがちな黒幕の密談のような空気に近く……。

黒魔術とか生贄とかそんな展開はなかった筈だけど……と、必死に本の内容を思い返しつつ案内された席に腰を下ろすと、対面に座るクリスが「知っていたんだ」と呟いた。

「……リスティアの侍女はリタだったね」

そう続けにっこりと微笑むクリスに、私も小首を傾げ微笑み返す。

(何も知りませんけど?)

そんなことを思いながらも表情を変えず、分かっていますよ風を装い微笑んでおく。

全くもって何も知らないけれど、クリス相手に少しでも隙を見せれば秒で狩りにくるので、決して油断してはならない。

「リオルガ」

「失礼いたします」

背後に控えていたリオルガに下がっていいと手で合図を送ると、ふむと頷き何か納得したらしいクリスが口を開いた。

「そのドレス、先代王妃様に合わせたんだね。黒いドレスを仕立てさせる令嬢はそういないだろうから、随分と前から用意していたことになるけれど」

「クリスお兄様もソレイルお兄様も、先代王妃様に合わせたのですか?」

微笑んでいるのに目だけが笑っていないクリスはこれぞ黒幕!といった貫禄で、様になっていますねと鼻で笑いながら話を合わせる。

「メレーヌ様は先代国王と王妃殿下が亡くなって以来、ずっと黒をお召しになっている。それが喪を示す意味があってのことか、それとも単にお気に召してのことかは分からないけれど、よく知られた話だ」

だから黒なのだと、クリスが小さく両腕を広げて見せた。

心象をよくする為なのか、それともクリスとソレイルが黒い衣装だと事前に知っていたからなのか、あの大量に用意されていた黒いドレスを思い出し、なるほど……とひっそりと頷く。

「色々と、頑張っているみたいだね」

「お兄様達をお手本として、とても楽しく色々と学ばせてもらっています。なので、すぐに追いつくと思いますよ」

「自信があるのはとても良いことだよ。ただ、自分の立ち位置を見誤っているうちはまだまだかな」

王宮へ来て日も浅く、ようやく学び始めた未熟な子供。

そんな私が、クリスには自分を過大評価しているお子様に見えているのだろう。

――でも。

「オーバン先生は、あと半年もあればクリスお兄様に追いつけると、そうはっきり仰っていましたが」

コテンと小首を傾げながらそう告げると、クリスは目を瞬かせ、今まで黙っていたソレイルは「うえ!?」と間抜けな声を上げ、驚愕した顔でわなわなと肩を震わせたあとビシッと指差した。

「その歳まで何もしていなかったのに、たった半年で追いつくわけがないだろう!」

そう言い放ったソレイルに、私はふっと口角を上げ。

「安心してください。ソレイルお兄様には、もう追いついてしまいましたから」

周囲にもはっきり聞こえる声で現実を教えてあげる。

「はあ!?誰に、追いついたと……」

「ソレイルお兄様にですよ」

「まさか……う、嘘だ!」

「聞けば分かることなのに嘘を吐いてどうするのですか」

「有り得ない……嘘、だろう?」

「オーバン先生だけでなく、他の先生方もそう仰っていましたので、聞いてみてはどうですか?」

「そんな、わけ……」

「授業に出ないで逃げ回っているからですよ」

唖然としているソレイルにそう言うと、「最近は出ている!」と叫んでテーブルに突っ伏してしまった。

その横で、クリスが温度のない声で「半年」とだけ口にした。

「とても覚えが早いと褒めていただきました」

「……覚えが早い、だって?」

そんな程度の話ではないと、暗にそう告げてくるクリスに微笑みかける。

「どうやって」

顔を歪め、はっと鼻で笑ったクリスが低く呟いたそのとき、重厚な扉が音を立てて一気に開かれた。