軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めまして

長い長い旅もあと少し、ようやく王都の近くまで戻って来た。

馬車に揺られ続けた所為で痛むお尻と腰を摩りながら、馬車を降りそのまま馬へと乗り換える。馬に一人で乗れない私はイシュラ王の前に抱えられるように乗せられ、そのまま王都へと向かう。

真夜中の王都はすっかり寝静まり、大きな門は固く閉ざされている。

でも、先導するリオルガが門に向かって無言で手を上げれば、重厚な門はわずかに開きその隙間へと滑り込む。

馬に跨りながら静かな街を抜けると王宮の裏口が見えてくる。

そこに立つ騎士が私達に気付き剣に手をかける仕草を見せたが、馬を下りたリオルガがフードを下して「開けろ」と命令すれば騎士はすぐに扉を開いた。

――コツ、コツ、コツ……。

初めて王宮に来たときと同じように、長い通路を歩き統括宮へと進む。頼れる者はリオルガしかおらず、緊張と怖れでドキドキしていたあの日のことは、まるで昨日のことのように思い出せる。

「まずは、面倒ごとから片付けるか」

そう呟いたイシュラ王は心底嫌そうな顔をしていて。

戻って来て早々にお仕事お疲れ様ですと肩を叩き労ってあげると、イシュラ王は一瞬私に目を向けたあと、ふっと鼻で笑い私を抱え直して足早に進んで行く。

あの日と違っているのは、イシュラ王に抱っこされて移動していることだろう。

いいご身分になったものだと複雑な気持ちになりながら背後を振り返り、イシュラ王の肩に顎をのせた。

「……」

一緒に王都まで来たアルドおじさんとリュシーおばさん、それとエドとは王宮前で別れた。

三人は王都にある別宅に向かい、これからのことについて現当主と話し合うのだとか……。

アルドおじさんとリュシーおばさんは時期を見て復職し、エドはこれからきちんとした教育を受けるらしい。

「また直ぐに会えますよ」

「……うん」

もう見えない暗闇の向こうにある裏口をジッと見つめていたからか、私達の背後を歩くリオルガが慰めの言葉をかけてくれた。

裏口の通路からメイン通路に出てさらに歩き、統括宮に繋がる扉の中へ入ればもう一安心。

取り敢えず無事に戻って来られたと安堵していると、私が使っている部屋を通り過ぎ、その隣にあるイシュラ王の私室も通り過ぎてしまう。

疲れと安堵で眠気に襲われながら、どこへ?と疑問に思っていれば、統括宮の奥にある国王の執務室の前に辿り着き、そのまま流れるようにリオルガが扉を開けた。

――すると。

「……遅いお帰りで」

部屋の主がここにいるのに、誰もいないであろう執務室から声が聞こえてきた。

「ここまで仕事漬けにされるとは思いませんでした」

ぞくりとするほど艶やかで柔らかな声は、皮肉を口にしていてもどこか安堵しているように聞こえる。

イシュラ王は私を抱えたままその声の主へと視線を向け、私もその視線をたどって顔を向けると、とても美しい女性が書類らしき物を手に執務室の中央に置かれた大きなソファーの上に横たわっていた。

「仕事漬け……?」

「そうですよ。なぜそのように怪訝なお顔をされるのか。ほらこの目の下のクマを見てください。私のこの自慢の顔にクマが出来たのですよ」

「……」

「普段貴方がどれほどの量を処理していると思っているのですか。他の人間も同じことを出来ると思われているのなら、頭がおかしいとご自覚してください」

「だが、お前も同じ量を処理したのだろう」

「残念ながら半分ほどでこの時間です。時間をかけてもよいものまで早急に動かれるので、このように処理するものが増えるので……その手に抱えている方は?」

書類を振って激務を訴えていた女性は、イシュラ王から私に目を向け、ゆっくりと上体を起こして長い髪を肩へ流した。

「ああ、その子が」

口元に弧を描き、目尻だけが笑っている。

どこか人を試すような意地悪な笑みだと思いながら私も微笑み返せば、女性の目が僅かに見開かれた。

「……へえ」

何を思ったのか女性はさらに笑みを深くし、「まずはご挨拶よね」とゆるやかに立ち上がった瞬間、(あれ?)と疑念が湧く。

不思議と目に映る姿に違和感が……何かこう、しっくりとこないというか。

歩いてくる女性はとても背丈が高く、手足もすらりと伸びていてとても美しい。

腰まである絹糸のように滑らかな黒髪に、深紅に彩られた目元と唇は艶やかで、王妃様とはまた違った美しさがある。

では何がこうも引っ掛かっているのだろうと、そんなことを考えていたら、女性の肩からショールが滑り落ちた。

(……え)

背丈の低い女性も高い女性も沢山いる。

肩幅の広い女性だっているけれど、目に見えて分かるほど腕を鍛えている女性はいない……と思う。

そっとショールで隠されていた喉を見たあと、腰から足まで、ドレスの布地が揺れ明確になった骨格を見て――。

「男の人?」

そうつい声に出してしまった。

咄嗟に口をつぐむも時すでに遅く、片眉を上げた女性が私の目の前に立ちニイッと笑う。

「お初にお目にかかります。ジル・ゴルジと申します」

目の前のとても妖艶で優雅な女性が、あのジル・ゴルジだった。