軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夢うつつ

王政国家フィランデル。現統治者であるイシュラ・シランドリア王の誕生祝いは、国を挙げて盛大に祝われる。

誕生祝い当日の王都では、朝から飲食を取り扱う露店、店舗で料理や酒が無償で配られ、ほろ酔いとなった民は昼過ぎから広場で踊り明かす。

翌日は全ての施設、店舗は休業となり、それら全て国から補償金が出される。

小さな街や村には、加工した食品、衣料品などが無償支給され、王都と同様に当日と翌日の二日間は祝祭となり、国民全てが祝う。

王宮には貴族が招待され、国王陛下の完璧な演説が披露されたあと、オーケストラの演奏と共に舞踏会が始まる。この日だけは成人前の子供でも出席することができ、式典の間の一角には綺麗に着飾った子供達の姿が見られるのだが。

例年、憧れの王宮にはしゃぎ、親が目を離した隙に迷子になる子供が必ず現れる。

『……っく、お母様、お父様……っ、ううっ、』

例に漏れず、式典の間から抜け出したメリアも王宮内で迷子になってしまった。

広い王宮内を泣きながらうろうろと彷徨い続けたメリアは、小さな庭園に辿り着くなりその場にしゃがみ込んだ。

元居た場所に戻ろうにも道が分からず、怖いお母様に叱られてしまうと啜り泣く。

『うっ、っ……お父様……どこっ……』

利用価値があるかどうかで判断するメリアの父とは違い、メリアの母は娘の為にと早々に淑女教育を始めたのだが……メリア本人にやる気が見られず、少しでも注意すれば泣き喚く。生来の性格なのか、甘ったれの駄々っ子であるメリア。

事あるごとに母から叱られるメリアは、口煩くて厳しい母が怖くてたまらないのだ。

だから涙を零しながら、絶対に探しに来ないであろう父親に助けを求めた。

『……っ、っく……』

その怖いメリアの母は、この国の王妃ルイーダ・オルダーニの遠縁にあたる伯爵家の次女だった。優しい両親と姉を持ち、裕福ではないが温かい家庭で幸せに過ごし、幼い頃から仲の良かった青年と婚約も決まっていた。

それなのに、メリアの母のもとに突然縁談の話が舞い込んできたのだ。

遠縁とはいえ、一度も会ったことのない王妃様からの縁談。半ば強制という形でとても裕福だが身分が低く凡庸な男性に、報酬として嫁がされてしまった。

『……うっ、ふぇえっ……』

叱られるのは嫌。足も痛くて歩けないし、お腹だって空いてきた。

そんなことばかり考えながら蹲って泣いていたメリアは、こくりこくりと体を揺らし、目を閉じ眠ってしまった。

『ねぇ……て、起きて』

肩を揺すられ起こされたメリアがゆっくりと目を開くと、目の前には宝石のような瞳が。

まだどこか寝惚けているメリアがパチパチと瞬きして小首を傾げれば、バイオレットの瞳が細まり「ははっ」と笑う声が聞こえた。

その瞳の色がこの国で何を意味しているのか、勉強が苦手なメリアでも知っている。

『手の掛かる弟ではなく、妹が欲しかった』

迷子のメリアを助けてくれた優しいクリスの為に、メリアは妹になってあげることにした。

『僕の妹にもなるよね?』

するとクリスだけでなく、ソレイルという兄も出来た。

『可愛い、メリア。私が貴方のお母様になるわ』

そして凄く綺麗で優しい王妃様が、メリアの母になると言う。

(本物の怖いお母様より、ずっといい!)

王宮には、メリアのことを可愛がってくれるクリスとソレイルと王妃様がいる。

王宮内にいる人達も、メリアを優先し、尊重し、機嫌を取るのだ。

だからまだお話したことのない国王陛下だって、メリアを大切にして可愛がってくれる筈。

(本物の王女様みたい……)

フィランデル国には王女がいない。

それならメリアが王女になってあげれば、皆が喜ぶし、幸せだから。

――それなのに。

自分は王女だと錯覚し悦に入っていたメリアの前に、国王陛下にそっくりな女の子が現れた。

『これは俺の娘だ』

国王陛下がそう告げた女の子が、本物の王女様だった。

リスティアと名乗ったその子は、とても偉い王妃様とソレイルに反論し、メリアには冷たい態度を取る、粗野で意地悪な子だった。

でもそれはリスティアが平民だから仕方がないこと。

先に王女になったメリアが色々と教えてあげればいいのだと優しくしてあげたのに、リスティアは訳の分からないことを言って怒りだし、折角の晩餐を台無しにしたのだ。

(私、あの子が嫌いだわ)

リスティアの所為で、王妃様は笑わなくなってしまった。

いつもならメリアの頭を微笑みながら撫でてくれるのに、あの晩餐の日からずっと侍女と何か話していて遊んでもらえずにいる。

王妃様の邪魔にならないよう、メリアは少し離れた位置に座りジッとしながら耳を澄ます。

すると、王妃様と侍女の会話の中に必ずリスティアの名前が出てくることに気付いた。

『後宮ではなく統括宮に部屋を与えるなんて』

『ルイーダ様』

『しかも、あの部屋を……?』

――ダン……!

メリアが大きな物音に驚き肩を揺らせば、それに気付いた王妃様が悲しげに笑う。

(優しい王妃様を悲しませるなんて……酷い)

『王妃様。どうしたら元気になりますか?』

『……』

王妃様が悲しいとメリアも悲しい。

座っている王妃様の膝の上に頭を置けば、メリアの頭を撫でながら何か考え込んでいた王妃様が、『花が、欲しいわ』と口にした。

『お花……?』

『えぇ、特別な花よ』

『それはどこにあるのですか?』

『……』

メリアから窓へと顔を向けた王妃様が『統括宮』と呟いた。

『私は見たことがないのだけれど、統括宮には凄く素敵な庭園があるの。ねぇ、そうよね』

『はい、花畑のような庭園だとか』

『特別な花といったらそこの花かしら』

『統括宮のお花……』

『あら、ただの戯れよ。メリアが摘んでくれた花ならどれも特別だわ』

その庭園は王子宮から見えるかもしれないと王妃様の侍女から聞いたメリアは、ソレイルに相談し一緒に庭園へと向かうことになった。

特別な花を摘んでプレゼントすれば、きっとまた元の王妃様に戻ると思ったからだ。

『お花畑のような庭園……見えないね』

『本当にここから見えると言っていたのか?』

『うん……』

『もう少し奥に行ってみようか』

ソレイルに手を引っ張られながら、メリアは初めて統括宮の中に足を踏み入れた。

奥へ奥へと進んで行けば、そこには想像していた以上の庭園が。

『凄い……!』

『……何だ、ここ』

興奮した二人は、見事に咲き誇る色とりどりの花を摘み歩いた。

メリアとソレイルは、王妃様に喜んでほしかっただけ。

それなのに、ソレイルは叱られ自室から出られなくなってしまった。

(リスティアが意地悪するからよ……!)

特別な庭園を独占し、花を摘んだくらいで文句を言う。

平民なのに、王女のように振る舞う偽者が、クリスとソレイルの妹であるわけがない。

(妹は、私だけなんだから……)