軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界の離魔力食

「あうー」

深夜の寝室でふと目を覚ました。隣にいるはずの温もりを探しても見つからない。

あれ?

「いいから! マリーはそのまま寝てていいから」

ハートが最大の小声でそう言って、デイジーをあやしながら魔力を食べさせていた。出産してから半年近くが経ち、魔力もかなり安定したのに。

「あむ、あむ、あむ、あむ」

あはは、可愛いなぁ。

デイジーは美味しそうにもぐもぐと口を動かしている。

「美味しそうに食べるよね。味がするのかな?」

「甘く感じるらしいよ。でも離魔力が始まると、だんだん味がなくなるらしい」

「へー。私の時もそうだったのかな? 全然覚えてない」

「俺も覚えてないよ」

「デイジーも忘れちゃうのかなぁ」

「それは少し寂しいな」

満足して眠りについたデイジーを、ハートはベビーベッドにそっと寝かせた。

「明日もお仕事なんだから、無理しないでね」

「いいんだ。体力は俺の方があるし。それに、まだ体調が戻っていないだろ?」

「もう、大丈夫だよ。それにそろそろ離魔力の時期じゃない?」

「ああ、その話は明日にしよう」

ハートがベッドに潜り込んで私を抱き寄せた。

「ただいま」

リビングでデイジーをあやしていると、ハートがいつもより早く帰って来た。

「おかえりなさい。今日は早いのね」

「これ」

笑顔のハートが、美味しそうな匂いのする袋を顔の辺りで振っている。

「もしかして、屋台のおじさんのところの串焼き肉?」

「好きだろ? スープも買ってきた」

「いつもありがとう。ささ、早く着替えて来て。サラダの準備しておくから!」

私はデイジーを背中に括ってキッチンに向かった。

彼はとても私を大切にしてくれている。出産後の私は一週間以上寝て過ごし、彼が子供の世話をしてくれた。今でもこうやって甘やかしてくれるのだ。

「デイジーの離魔力がうまく行っていない」

食事を終えてまったりしていると、ハートは空になったコップをコトリと置いた。

「え? もう離魔力していたの?」

「実は……。でもデイジーは魔力が好きで、離魔力食を嫌がっている」

「離魔力食ってあれでしょ? 甘く煮込んだ薬草とか花とかのエキス」

ジュースとかスムージーみたいな感じのものだ。

「何度か食べさせようとしてみたけど全然ダメで、マリーにそれを知られたくなくて」

ハートが観念した、という風に苦笑いで頭を掻いている。隠すことでもないのに。

「私たち二人の子供なんだから、そういうのは一緒に悩もうよ」

「そうなんだけどさ。かっこつけたいだろ? 失敗してるって思われたくなくて」

ああ、そういう……。

「私だって初心者だよ。こういう時は、困った時の……」

「ノーテさん?」

「うん! ノーテさんを召喚しない?」

「ははは、そうだな。あのお説教も時々聞きたくなるし」

「それ!」

翌日私たちはノーテさんを召喚した。いや、家に来てもらった。

「離魔力食がうまく行っていないという話ですが、相談に来るのが遅すぎます! 子供の成長は早いのですよ!」

はい、開口一番で叱られました。でも、この安心感。もう大丈夫。

「普段はどんな魔力を? 食べさせてみてください」

「はい」

ハートは魔力を練って腕の中にいるデイジーに食べさせた。

「もういいです、分かりました」

ノーテさんはカバンから瓶に入った薬草に花、小さな魔法陣の付いた敷物をテーブルの上に並べだす。あれは火属性の魔法陣。一気に高温に出来るものだ。うちにもある。

「まず、この蜜を少し冷まして、魔力を食べさせながら一滴ずつ口に流し込んでください」

ハートはノーテさんから受け取ったドロドロの蜜を、魔力と共に食べさせた。

「あむ、あむ、あむ」

「あ、食べた。何故だ? 何度やっても吐き出したのに」

「でしょうね。市販の離魔力食と、あなたが与えている魔力の濃度が違うのです。だから煮詰めて濃度を上げました。それは風属性の魔力に似た甘さになっています。いくつか持ってきたので置いていきます。無理にでも魔力以外のものを飲み込ませれば、そのうち慣れて何でも食べるようになりますよ」

やった。よく分からないけど解決したっぽい。

「そんなこと、父親教室では教わらなかったのに」

ハートがシュンとしていてちょっと可愛い。

「いえ、常識では考えられません。おそらくですが、あなたがた二人が必要以上に濃い魔力を与えた結果です。違いますか?」

「「あ!」」

いや、だって、徐々に濃くしたらどんどん吸収するんだもん。だからわざと濃くしてたくらいなのに。

「まったく、そんなことだろうと思っていました。言っておきますが、私は育児の専門家ではありませんからね! 聖典を読み漁り、魔力量の多かった過去の聖女の育児日記などを私なりに調べて……」

結局、夕飯の時間まで、ノーテさんにお説教をされた。てへ。

夕飯はノーテさんの手作りで、まるで実家の母親が来てくれたかのよう。その日の夕食はとても楽しかった。

「ノーテさんは私たちのために、色々と調べてくれていたんだね」

デイジーはすやすやとベビーベッドで寝息を立てている。

「ありがたいよな」

「うん、大切に育てようね」

彼女はこうやってみんなに支えられながら、大きくなっていくのだろうな。